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ナノライト  作者: かざぐるま
第三章 The flame is here.
21/57

第二十一話 合流

 



「ただいま戻りました。」

「お! 我が愛しい弟よ!! よくぞ戻ったな!!!」

「今日はいつにもましてハイテンションですね。」

「仕事も休みだからな!」


 テロス――兄ちゃんは表情を変え、

 訝しむように俺の体を見つめる。


「なんか、雰囲気変わった?」

「気づいちゃいます?」

「シャンプーでも変えた?」

「いや違いますよ。

 細かい所に気付ける男アピールやめてください。」

「出来る男はそういうところで差をつけるんだよ。」


 兄ちゃんはそう言って家の奥の方へと走って行った。

 しばらくして、ザウロス――爺ちゃんが出てきた。


「お帰り、ヒシ。」

「! 爺ちゃん、

 長いこと家を空けてごめんなさい。」

「今に始まったことじゃないがのう。

 疲れているだろう。とりあえず入りなさい。」

「はい。」

「ヒシー! 釣り行かね?」

「行きません。」


 二本の釣り竿を肩に乗せた兄の横を通り過ぎ、

 汗を流す為に風呂場へと向かう。



 風呂を上がった後、遅めの朝食を取りながらこの一カ月で起こったことを爺ちゃんに話して聞かせる。ちなみに兄ちゃんは一人で釣りに行った。


「――その鬼人(オーガ)の名前は。」

「『ガド』です。」

「……そうか……。」


 そう呟く爺ちゃんの表情は暗い。


魔人(デビル)は、『マグラ』かの?」

「! えぇ、ガドさんはそう呼んでいました。」


 憂うような溜息。


「…爺ちゃんは、アータミン出身でしたよね。」

「…<悪の天誅>については聞いとるな?」

「ほんの少しだけ。」


 爺ちゃんは真っ直ぐ俺の顔を見つめてくる。


「防衛団には、団長がいるだろう。

 そこに就いた者が防衛士を纏め、

 防衛団という組織を成り立たせておる。

 対して、游蕩士が所属する游蕩団。

 そこには何故、"団長"という役職が無いと思う?」

「ギルドがあるからですか?」


 志の近い者が集まって出来上がるギルド。

 それぞれがそれぞれの組織として成り立っている。

 一人の人間が游蕩士全体を纏める必要は無いのだろう。


 だが、爺ちゃんが続けた言葉はその憶測に反するものだった。


()だ。

 ギルドがあるから団長が居ないのではなく。

 団長が居ないから、ギルドがある。」

「……つまり?」

「游蕩団団長という役職は、存在()()()()()。」

「それが今無いのは?」


 一応聞いてみるが、察しはついている。


「<悪の天誅>で殺されておる。

 団長・副団長、その両方が。

 その時点で"游蕩団"という組織は崩壊した。」

「なるほど…。」


 つまり、今ある游蕩団は当時とは全くの別物だということだ。


「もっと言うならば、

 最後の游蕩団団長は儂の父親だった。」

「!!」


 爺ちゃんの父親。

 爺ちゃんが幼い頃に亡くなったと聞いていたが。

 游蕩士、それもそのトップだとは知らなかった。


「…ヒシ。お前は儂の孫だよ。

 血の繋がりが無くとも、な。」

「…はい。」

「お前は一人前の游蕩士でもある。

 お前はガドという男の弟子でもある。」

「…はい。」


「お前はマグラに深い関わりがある。

 まるで神がお前と奴の戦いを望んでいるように。


 ――だが、ヒシ。お前がそれに従う必要は無い。」



「……え?」



 爺ちゃんは穏やかな表情になる。


「防衛団の信条は知っておるか?」

「いいえ。」

「"後ろは視るな"。」

「!」


 聞いたことがある。

 確か、兄ちゃんから。


「これは、八百年間伝え続けられてきた言葉でな。

 儂らが振り返ることは許されない。

 民を守る為には前を向くしか無い、という誓いだ。」


 優しい口調だったが、とても重みがあった。

 四十年近く、その言葉を背負っていた男だ。

 下半身が麻痺しようと、右目を失明しようと、

 決して折れることのなかった男の言葉だ。


「游蕩団の信条は、知っておるか?」

「…知らないです。」


 聞いたことが無い。

 游蕩団事務所に掲げてあっただろうか。


「そうだな、無いものは知れぬからのう。」

「やっぱり無いんですね。」

「その意味が分かるかい?」

「…?」


「お前が縛られる必要は無いんだよ。」



「ヒシ、自由に生きなさい。

 戦いたくなければ戦わなければいい。

 逃げるのも、寝返るのも良し。

 したいことをしなさい。

 少なくとも()()は、それを望んでおる。」


 頭に浮かんだのは、一人の少女の顔。

 俺を人間側に引き止めてくれたその少女。

 マグラは大勢の人間を殺すのだろう。

 無差別に、無躊躇で、無慈悲に。

 その大勢にはきっと彼女も含まれる。


 ガドに言われたからではなく。

 爺ちゃんの孫だからではなく。

 人間の味方をする愚劣な化物として。



「…俺は、戦います。

 それがしたいことで、しなければならないことなので。」



「そうかそうか。――それもまた良し。」


 爺ちゃんは朗らかに笑った。





「――お前に手紙が来とったぞ。」

「! 誰からですか?」

卯杖(うづえ)の嬢ちゃんから。

 噂によると火の精霊討伐を計画しているらしい。

 二週間前には街を発ったそうじゃがな。」


 ボルカラノ帯に一番近い街はリソルディア。

 卯杖(うづえ)の本部はユルドースにあるから…、

 二週間前にユルドースを出発したなら、まだボルカラノ帯には辿り着いていないだろう。


 俺がエフ森林に行くためには半日かかった。

 メーセナリアからリソルディアまでは、『光』を使って同じく半日くらいか。

 リソルディアからボルカラノ帯に行くには、距離的に丸一日かな。


 …ギリギリ追いつける。


「爺ちゃん。」

「あぁ。」

「またしばらく、家を空けます。」

「そうかい。」



「……行ってきます!」

「いってらっしゃい、ヒシ。気をつけてな。」




 ---




「…あっついわね…。」

「まったくだ…。」

「…もっと『水』で冷やせないの…?」

「妖力は節約しときたい…。」

「…先に熱中症で倒れるわよ…。」

「あぁ、まったくだ…。」


 目的地であるボルカラノ帯に近づくにつれて、大気の温度はじりじりと上がっていく。

 こんな灼熱の大地を徒歩で移動しているのだから、本当にそろそろ死人が出てもおかしくない。


「ゼータ。さっさと歩け。」

「待てよ! こんな大行進見逃せるかって話…」

「描くのはいいが置いてくぞ。」

「二時間だけ!」

「そんな待てるかアホ!」

「なぁリーダー、あとどんくらい?」

「明日か明後日には着けるだろうな。」

「やべー! わくわくしてきた!」

「ふふっ、私もだ。」

「げ! なんか変な虫踏んだ!」

「えーなになに! ――うわ! きもっ!」

「おい、生き物の命奪ったんなら責任持って食」

「いやまだ生きてる…、……え! 分裂した!!」

「にゃははは! その子持ち帰ろうよ!」


 もっとも、俺達のようにバテているのは少数で、大半のメンバーはこの長い旅を苦とも思ってないらしい。むしろ時間が経つにつれてテンションが爆上がりだ。


「…あついな……。」

「…えぇ、あつすぎるわ…。」


 何度目か分からない呟きをベリーと交わす。




 二日後、遂に火の精霊討伐隊はボルカラノ帯に足を踏み入れた。俺達がリソルディアを発ってから十五日目のことだった。


「長旅ご苦労だった。

 だが、ここからが本番だ。

 気は抜かないようにな。」


 シロンは総勢三十人にも及ぶ隊のメンバーに向かって言葉を投げる。


 そう、ここからが本番。

 この一帯は火の精霊の支配地だ。

 かの精霊の気に障るようなことをすれば、頭から足の先に至るまで一瞬で丸焦げにされるだろう。


 こういった大規模な討伐作戦に参加するのは初だ。

 段取りが分からないが、まずは班分けでもするのだろうか。



「では、自由行動とする。」


「「「 うぃーっす。 」」」


「分かってると思うが、死なないようにな。」



 シロンの一声で散らばっていくメンバー達。

 彼女はその様子を少し眺めると、自身もユメハを連れてスタスタと歩き去っていった。


 残されたのは俺とベリーの二人のみ。


「…作戦とか練らないんだな。」

「…私に言われても。」

「同じ卯杖(うづえ)だろ。」

「あの変人達と一緒にしないで。」


 この遠征に同行することを決めた時のベリーはその変人達と似たようなものだったが、わざわざ口にすることでも無いだろう。


「私達も燃豚(ホグ)探しに行きましょうか。」

「あぁ、そうするか。」




 干乾びた、赤黒い不毛の大地。

 一年を通して30℃を超え続ける異常気象。

 止まない噴火、降らない雨。

 適応出来ない生物から死に絶えていく。


 この星で最も過酷な環境とまで言われた領域、

 それがここ、ボルカラノ帯と呼ばれる土地だった。



 そんな苛烈ともいえる土地に根を下ろしたのが、

 ()()()()火の精霊。約五百年前の話だ。


 だが、その地位も長くは続かず、

 当時の火の精霊は一匹の化物に殺害される。


 新たに生まれた火の精霊、それもまたすぐに死亡。

 次の精霊も、その次も。長くは続かなかったらしい。


 そうして精霊の座はあちらこちらに飛び回り、

 ボルカラノ帯に闘争の時代が訪れた。


 それから長いこと火の精霊に選ばれる個体は現れず、

 とある文献によると百年近い空席の期間があったらしい。


 事が動いたのは五十二年前。

 一人の男が火の精霊を眷属として持った。


 存在が未確認だった火の精霊の捕捉・眷属化。

 その一大ニュースは当時の街に活気をもたらした。


 精霊の力は凄まじく、アータミンの游蕩士であった男は、

 瞬く間に功績を積み上げることになる。


 だがその栄光もすぐに儚い終わりを迎えた。

 今から五十年前、とある化物の手によって。


 男を含む游蕩士数十名の殺害。

 事件名こそついていないものの、

 一部の界隈では有名な事件らしい。


 それを引き起こしたのが、現火の精霊。

 獰猛で狂暴な絶対的王者、『アグニ』だという話だ。




「――こんな遠足感覚で大丈夫なのかしらね。」

「お前の雇い主に聞いてくれ。」


 ガイアはこれまで一度も人間を殺したことが無いらしい。ベイドが彼女の奪取に踏み切れたのもそういった情報ありきだったのだろう。


 だから今回の旅は彼女の時とは訳が違う。

 火の精霊は容赦なく殺人を犯すのだから。


「まぁ私は燃豚(ホグ)が目的だからいいけどね。」

「その切り替え出来る時点でだいぶ毒されてるぞ。」


 いや、元からこうだったか?


「アンタも自由に動いてきたら?」

「…いや、特にしたいことも無いしな。」

「なんでここ来たの?」

「連れて来た張本人だろ。」

「そうだったわ。」

「それに、良い土産話になるからな。」

「……?」


 こんな危険地帯、中々来れる機会は無い。




 その時、足元から奇妙な音が聞こえた。

 土を削るような、地を這うような……


『 BOOooooOOOooooo!!! 』

「!!!!」

「下がれ!!!!!」


 突如として姿を現したのは、手足の無い巨大な虫。

 地面を割るようにして飛び出してきたそいつが大きく吠えると、辺り一面は激しい炎に包まれる。


潜蚯(ワーム)…!!」

「退路を断たれた、――来るぞ!!!」


 靴と刃に妖力を込め、臨戦態勢をとる。


 潜蚯(ワーム)

 ボルカラノ帯に生息する狂暴なミミズ型の化物だ。

 地中を食い荒らしながら移動し、

 獲物を捕捉すれば素早く狩りに移行する。

 炎で自分に有利な狩場(フィールド)を作ったことからも、

 その頭の良さ、狩猟能力の高さが伺える。


 全長十数メートルにも及ぶであろう、

 桃色にも似た鈍い色の体表を持つ生物は、

 一切の迷い無くこちらへ接近し、



「――《月華(げっか)》」



 辺りを包んだ眩い光の中で、

 汚い体液を撒き散らしながら絶命した。


 それを成し得た一人の少年。


「……あ! お久しぶりです。」


 ヒシは嬉しそうに笑った。





「やっと見つけました!」

「なんでここに?」

「シロンさんに呼ばれまして。」

「でも二週間前は居なかったでしょ?」

「えぇ、少し遠出していたので。」

「…なぁヒシ、ここに来るのに何日かけた?」

「一日と半分くらいですかね。」

「……そんな楽な距離じゃないんだがな。」

「どんどん化物染みてくわね。」

「――実は俺、人間じゃなくて…、」

「…あ、そう。」

「いや軽くないですか? もっと、こう、なんか。」

「元からちょっと人間離れしてたしね。」

「あぁ、なんならさっき空飛んでたからな。」

「空飛ぶのはただの新技ですよ! 関係ないです!」

「普通の人間は飛ばねぇよ。」


 獅子(ダイバース)との戦いでも違和感はあった。

 今更驚くことでも無いし、接する態度を変える必要もない。


「お二人を探す途中で何人かに会ったんですけど…、

 …なんか、すごい緩かったですね。

 本当に精霊と戦いに来たんですか?」

「いや、豚肉獲りに来ただけだが。」

「……???」


 まぁそういう反応になるだろう。



 ドシン、と地面が揺れた。

 噴火が始まったのかと身構えるが、違うらしい。

 再び、ドシンドシンと音が鳴る。

 ゆっくりとした継続的な地響き。


「……もしかして、()()のこと言ってます?」


 ヒシの指差す方向には、山のような塊がある。

 丸々としたその塊は、()()()()()


『 FUGOOooo… 』


 そいつの全面にある鼻らしき器官から火が噴き出る。

 周囲を燃やしながら移動する肉の塊。

 そのスピードは徐々に上がっていて、

 鼻の少し上についた二つの目はこちらを捉えていて、

 そいつの全身からは確かな殺気が放たれていて。


「…うん、間違いないわ。アレね。」

「聞いてたよりデカいな。」

「聞いてすら無いんですけど。とりあえず逃げます?」

「何言ってんの?」

「ヒシ、諦めろ。」

「……来たの失敗だったかなぁ。」


 ベリーは俺とヒシの背中をパシッと叩く。



「始めましょうか、燃豚(ホグ)狩り。」




 ---




「若者は元気でいいねぇ。」


 隣を歩くユメハはそう独り言ちた。


「お前も充分若者だろう。」

「見た目だけさ。」

「本当の年齢は?」

「もう数えるのも億劫だよ。」

「…ふふっ、深い詮索は控えておく。」

「流石シロンちゃん、話が分かるね!」


 彼には底知れない不気味さがある。

 触らぬ神に祟り無し、今の関係が最も心地よい。


「まぁ元気なのはいいんだけど、

 肝心の目的の方は大丈夫なのかい?

 精霊と戦り合うなら総力戦の方が賢いと思うけれど。」

「あぁ、問題ない。」

「ふむ、その自信は?」



 その時、空から一匹の飛蝗(ルクスタ)が落ちてきた。

 ソイツの背中には一本の矢が刺さっている。

 ピクリとも動かないことから、既に息絶えているのだろう。


「リーダーごめ~ん! 当たらなかった~?」

「大丈夫だ、それにしてもよく仕留めたな。」

「にゃはは、標本にでもしよっかな!」

「…標本にしてはちょっとデカいんじゃないかなぁ。」

「デカいほうがやりがいあるもんね!」

「ギルドの食堂に飾るとまた苦情が来るからな。」

「おっけーおっけー、門の前に飾るね!」

「……エミャちゃん、多分そういうことじゃないねぇ。」


 天真爛漫な『エミャ』に別れを告げ、再び歩き出す。



「――な、言っただろう。」

「…好きにさせた方が力を発揮するってことかい?」

「あのわんぱく達を制御するなんて不可能だからな。」

「一大ギルドとしてはどうなんだろうねぇ…。」

「それに、化物共の処理をしてくれるだけで

 火の精霊(本命)との戦いは大分楽になるだろうしな。」

「横槍を入れさせないための予防策ってことね。」



 明確な殺気を感じ取り、刀を引き抜く。


「……近いね。」

「あぁ、慎重に行くぞ。」


 短い会話を最後に、口を固く閉ざす。

 ゆっくりと足を進めること数分。


 ようやく、そいつの姿を確認出来た。



 背中から生えた幾千本もの鋭い棘。

 丸々とした二メートル程の体で低く屈みこみ、

 くるりとした双眸から殺気を飛ばすハリネズミ。



 火の精霊――個体名は、『アグニ』。



 奴の周囲には幾つかの火球が浮かんでいる。

 数はそこまで多くないが、油断は出来ない。



「周囲の警戒は頼んだ。」

「はいよ~。いざという時は手出すからね?」

「あぁ、その時が来ないようにするさ。」



『 Syuuu… 』


 火の精霊の殺気が強まっていく。

 同時に火球がそのサイズと熱量を増した。

 触れれば弾けるような、膨れ上がった警戒心。



「……ふぅ。」


 腰に差した刀の柄に手を置き、

 許容量限界まで妖力を注ぎ込む。


 全力だ。

 でなければ死ぬ。



「――《烈炎(れつえん)》」

『 Syuu…! 』



 直後、爆炎が空を焼き焦がした。




 ---




「――!」

「これは…、」

「想像よりも、!」



「ウン、Good食感だネ。」



「……ところで、どちら様ですか…?」


 燃豚(ホグ)の串焼きをもっちゃもっちゃと貪る男性に問いかける。燃豚(ホグ)との戦闘が始まった当初は確かに三人だったはずなのだが、気づいた時には四人になっていた。


「申し遅れた、ミーはドリシェ。

 ただのしがない游蕩士だヨ。」

「ぁ、はい。よろしくお願いします…、」

「よろしくネ、Boy。」


 そう話している間も、ドリシェは咀嚼を止めない。

 そのまま六本目の串を食べ終えた頃、


「じゃあそろそろ失礼するヨ。」


 そう言って彼は立ち上がった。

 真っ赤な果実が入った大きな籠を担ぎ直し、

 すたすたとどこかに歩き去っていく。



「…卯杖(うづえ)、コワイ…。」

「あの人が尖ってるだけだってば。」

「いや、全員あんな感じだぞ。」

「その言い方だと私も含まれない?」


 否定は出来ないと思う。


「あ、ベリーさん誕生日おめでとうございました。」

「はい、ありがとね。」

「バタバタしててなんの準備も出来てないですけど…。」

「プレゼントとかわざわざ準備しなくていいわよ。」


 ベリーの誕生日は六月八日。

 彼女達がユルドースを発った日の前日だった。

 まだ俺が盲椋(イグノ)にしばかれている時だ。


「その髪飾りは誰かから貰ったんですか?」


 白菫色の短い髪につけられた飾りを指差してそう聞く。

 素朴で小さな髪飾り、前会った時には付けて無かった。

 燃豚(ホグ)との戦闘中でも、落とさないように傷つけないようにと気を使っていたように見えたので、きっと大切な物なのだろう。


「…うん、ちょっとね。」

「よく似合ってます。」

「ありがと。」


 ベリーは気恥ずかしそうに笑った。



 腹を満たしたところで、次の目的地に向けて歩き出す。

 目的地とは当然火の精霊が居る場所だ。

 時間が経つにつれ、奴が放つ殺気は大きくなっている。

 それを元に位置を特定すること自体は容易だった。


「FOOOO!! 手が止まんねぇぇぇぇ!!!」

「――あれは?」

「ゼータさん、一応有名な画家らしいけど…。」


 奇声を上げながら巨大なキャンバスに描き殴っている男性が居たり、


「にゃは…、かわいいね~、カワイイよ~…」

「――じゃあ、あれは?」

「エミャさん、虫マニア。」


 地面にしゃがみ込んでニヤけながらぶつぶつと独り言を言っている女性が居たり…、


 道中で様々な変態&狂人に会うことが出来た。

 このギルドには関わったらダメなんだと改めて深く心に刻む。



 そんなこんなで歩くこと数十分。


 何かが爆発するような轟音がしきりに聞こえだす。

 音源と思われる場所には大きな妖力の塊が二つ。


「…………あ、」

「――おや? あぁ、…えぇーっと?」

「初めまして、ヒシっていいます。」

「あ、初めましての子か。

 如何せん人の顔を覚えるのが苦手なもので。

 ボクはユメハ、よろしくねー。」


 前方で岩に腰かけていた男性はそう名乗った。


「ユメハさんはここで何を?」

「"見張り"を言いつけられててね。

 ここから先は立ち入り禁止なのさ。」

「それは私達も含めて?」

「うん、シロンちゃんの指示だからね。」

「あと少し進むだけでいいんだが。」

「そこは譲歩出来ないかなぁ。」


 前は数メートルほどの上り坂になっている。そこを登らない限り火の精霊とシロンの戦闘を覗き見ることは出来なさそうだった。


 火の精霊の戦闘を見物しに来た俺としては、ここで引き下がるという選択肢を取りたくない。ユメハの説得を試みているヴァンやベリーもその意思を尊重してくれてるのだろう。

 正直遠くから見る程度ならば大した危険にはならないとは思うし、もし危険に直面したとてそれなりに身を守る術は持っているつもりだ。


 そんなことを考えている時、

 ユメハがジッとこちらを見つめていることに気が付いた。


「…? どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ。

 ただちょっとだけ気が変わったのさ。」


 ユメハはそう言うと右腕を前に突き出した。

 ちょうど手首の辺りにミサンガが付いている。

 色は違うが、ベリーの足首に巻かれているものとよく似ている。卯杖(うづえ)のメンバーに支給される物なんだろう。


 そのミサンガが突如水色に輝きだしたかと思うと、

 そこから霧のような物質が漏れ始めた。


 その霧はゆっくりと集合していき、

 やがて俺達の足元に白い綿のような物質が形成された。


「……雲?」

「落ちないようにね~?」


 ユメハの忠告と共に、足元の雲は俺達を乗せたまま宙に浮かび上がっていく。


「こんな妖術初めて見ました。」

「そう易々と使える物でも無いのさ。」


 そう言う割にはいとも容易く使っていたように見えたが…。


 なんというか、掴みどころの無い人だ。

 親しみやすさはあるが、近寄りがたい。

 まるで他人との間に一定の距離を作っているかのように。


 ……人のことは言えないのかもしれない。


 上昇していた雲が静止した。

 かなり高いところまで来ている。

 これならば目的の戦いが見えると思い、

 覗き込むように身を乗り出した時、



 ボルカラノ帯全体に響き渡るような爆音が耳を(つんざ)いた。




 ---




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