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アステカ最後の攻防戦

 菊王丸は、清十郎、次郎吉そして数百人の仲間とと共に戦場を駆け巡る。

 少人数ではあるが、彼等の動きは速く、また、日本刀の切れ味はサーベルを大きく上回っていた。そしてそこに武器は貧弱だが死をも怖れないアステカの戦士が加わっている。

 また、高台に陣取った鉄砲隊は、十兵衛の指導もあって、より効果的にコルテス軍の将校らしき人物を狙撃して行く。

 こうして、コルテス軍を、しはしば慌てさせた。

 だが、火力は圧倒的にコルテス軍が上回っている。

 戦場には、大砲や鉄砲の弾が間断なく飛び交い、アステカ側の死傷者は増えて行くばかりだ。

 時間の経過とともに、アステカ側は、少グループ毎に分断され殲滅されて行く。


 「モスカーニヤ、いよいよ敗色が濃くなって来たぞ!」とテトラナは、ピラミッドの上から戦況を見つめている。

 このピラミッドには、窓が破壊され傷だらけになったエッグ1号もあった。持丸が頑張って補助電源を使ってここまで辿り着いていたのだ。今は、通信装置の修理に没頭している。

 「このままでは滅亡するわ。しかし……」モスカーニヤは、そう言いながら空を見上げている。

 「お前何かを待っているのか?」

 モスカーニヤは、空の一点を見つめたまま、それ以上は話さないでいる。

 テトラナも、モスカーニヤにつられて空を見上げている。

 暫くすると、テトラナが呟いた。

 「なんだあれは、あの黒い物は?」

 テトラナの視線の向こうに、黒い物体が浮かんでいるのが見える。

 モスカーニヤもそれを見て、微かな笑みを浮かべた。

 「来るわ!」

 「モスカーニヤ、いったい何が来るんだ?」

 「直ぐに分かります」モスカーニヤは何かを確信しているように言う。

 時々その黒い物体は太陽の光を反射してキラリと光る。

 その黒い物体が時間とともに大きくなって行く。

 「おーい、こっちに向かって落ちて来るんじゃあないか?」

 テトラナの驚きの声に促されて、持丸も外に出て来た。

 「おやあれは隕石なのか?」と言って首をかしげる。

 「みんな落ち着いて、あの黒い物は我々の味方よ!」とモスカーニヤが冷静な口調で言う。

 「我々の味方? ケツァルコアトルって事か?」と、テトラナが信じられないような表情で言う。

 やがてそれは落下スピードを上げながら落ちてくる。

 「おい、本当にここに落ちないのか?」テトラナの慌てた声。

 モスカーニヤは微動だにせず、その物体を目で追っている。

 用丸は小型コンピューターを使って軌道の計算をしている。

 「いや、ここから避難した方がいい、計算結果ではここが落下地点になるぞ!」と、持丸が叫ぶ。

 「大丈夫、ここを動かないで!」とモスカーニヤ。

 「おいおい、少しは科学というものを信頼してくれよ。逃げるんだ!」

 「持丸さん、いずれにしても、アステカは滅亡する。だから私もここにいる。持丸さん、あなたは逃げて下さい」とテトラナも半ば諦めたような態度で言う。

 「そんなテトラナさんまで」

 「さあ早く行ってくれ!」

 「いやあ、もう遅い!」

 その黒い物体は、ゴーという音を立てながら、ピラミッドの上、数メートルまで接近している。

 持丸は、科学者らしくもなく“南無阿弥陀仏”を唱え、目を瞑って死を覚悟した。

 「うわー!」


 静けさが戻った。

 持丸は自分は死んだのだと思った。

 恐る恐る目を開ける。

 だが、彼の目の前にはモスカーニヤとテトラナが立って戦場の方を見つめている姿があった。

 『これはどういう事だ。死んでいるのか生きているのか。幻を見ているのか?』


 その時、テトラナが振り向いた。その顔はニコニコしている。

 「持丸さん、奇跡が起きました!」

 「奇跡って、私達は死んだんじゃあないんですか?」

 「何を言ってるんですか、ほら立ってあれを見て下さい!」

 持丸は分けが分からず、促されるままに立って、テトラナの示す方を見た。

 何と、ベルガンティン船が大破して湖に沈みかけていた。

 「まっまさか!」

 「そのまさかですよ。あの落下物は頭上で方向を変えてあのベルガンティン船にぶつかったんです」

 「うーん、これはどういう事だ」持丸は腕を組んで考える。


 暫くすると、再び落下物を確認した。

 今度はーつではない。三つの落下物だ。

 再びその落下物は、ピラミッド上空で方向転換し、湖に浮かぶベルガンティン船に向かって三方に分かれて飛んで行く。

 まるで、その物体に意志があるように動く。

 標的にされたベルガンティン船は三隻ともに激沈された。

 用丸は今度は冷静にその落下物を見ていたが、どうもその落下物は大砲そのもののように見えた。

 『くそっ、いったいどうなってる?』


 こうなると、さっきまで、ベルガンティン船から激しく砲弾が発射されていたが、見えない敵の出現によって、彼等は戦闘どころではなく、湖を右往左往し始めた。

 

 更に空を見上げていると、今度は明らかに先程までの黒い物体とは違う、もっと大きな物が確認できた。

 今度のは単に落下しているようには見えない。螺旋運動をしながら、地上に降りてくる。

 「おや、あれは気球なのか? このアステカの時代にそんな物があるのか、まあ異世界だから何でもありか?」持丸は、ぞう呟いた。

 だが、暫くするとそれが間違いである事に気付く。

 「おお、あれは俺達が乗っていた船だ。ガレオン船だ。そっそうか、やはりさっきの落下物は大砲だ。し、しかしどうやって?」

 再び持丸はエッグの中に入って通信装置の修理に取りかかった。明智や羽柴にー刻も早く、連絡を取りたかったのだ。


 空飛ぶガレオン船は、戦場の真上で静止した。

 あまりの異様な光景に、コルテス軍も、アステカ側も、呆然とし、その船の動きに注目する。

 信心深いアステカ人の中には、祈り出す者も出てきた。


 暫く我を忘れていたコルテスは、漸く自分を取り戻すと、空飛ぶ船に向かって砲撃命令を下した。


 コルテスの持つ大砲の全てが、空飛ぶ船に照準を合わせる。

 コルテスの号令一下、一斉に火を吹いた。

その多くの砲弾は、空飛ぶ船に命中する。

 だが、船はビクともせずに浮かんでいる。

 あれ程の集中砲火を浴びても、無傷で浮かんでいる。

 

 忌々しそうに、空飛ぶ船を見ながらロビルを噛むコルテス。

 今度は、空飛ぶ船から何かが飛び出す。

 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。

 五つの物体が飛び出し、コルテス軍の前面で浮かんだまま静止した。

 しかもそれらは大砲である。

 それら五つの大砲は生きているかの如く、その砲身を左右に動かしながら、獲物を狙っている。

 コルテスは、恐怖心を飲み込んだ上で、再び砲撃命令を下す。

 再びコルテス軍の大砲が火を吹く。

 そのタイミングに合わせたかのように、空中に浮かんでいた大砲が素早く動き、大砲自体が次々に飛んで行き、コルテス軍の大砲を破壊して行く。

 空に浮かんだ大砲が全て飛んで行くと、それを補充するように船から大砲が出て来る。

 やがて、コルテス軍の大砲は全て破壊されてしまう。


 その状況を見ていた、菊玉丸は、今が好機とコルテス軍に突撃をしていく。

 更にアウテモック王もまたアステカ兵の先頭を切って走り出した。

 こうなると、多くの火力を失ったコルテス軍は浮き足立ち、やがて敗走を始める。

 それを見たヤステカ軍は勝利の雄叫びを上げる。

 ついにアステカは、大勝利し、アウテモックはアステカの滅亡を免れたのだった。

 菊玉丸とアウテモック王は、しっかりと握手し互いの武勇を讃えあう。

 二人は並んで町へ戻ると、多くの住民が出て来て歓喜の歓声と拍手が鳴り止まなかった。

 

 空飛ぶ船は、空中を移動し、湖に着水する。たが不思議な事に乗組員は誰もいなかった。

 だがその船の上部で、光が乱反射したかと思うと、巨大な円盤が姿を現わした。

 その円盤が町の中央にあるピラミッド前の広場に進み、そこに着陸した。


 それを見た住民は、見た事もない円盤を見て恐怖した。

 そこへモスカーニヤが姿を現わし、また隣にいるテトラナが人々に落ち着くように説得した。

 「さあモスカーニヤ、これからどうなるんだ?」とテトラナ。


 持丸が、円盤の前に走って行く。

 「オーイ、明智、羽柴それに神田橋、中にいるんだろ、早く出て来い」と大声で叫ぶ。

 すると、円盤からタラップが降りて来て、6人の男達がそこにいた。

 6人の男達は笑顔を見せながら、タラップを降りて来る。

 その内3人は、やはり明智、羽柴、神田橋だ。そして残りの3人が飛鳥、ジョー黒崎、そして士郎であった。

 「あー、貴方が持丸さんですね。遅くなりました。元の世界へ戻れますよ。神藤博士が心配してますからね」飛鳥が持丸に向かって言う。

 「神藤博士ですか、懐かしいですね。本当に帰れるんですね!」と持丸。

 明智と羽柴も、満面の笑みを浮かべている。


 そこへ突然「危ない!」と言う声が響く。

 士郎が、いつの間にか伸縮自在の剣を持って、皆の前に立っている。しかもその足元には失が真っ二つになって落ちていたのだ。

 そこへ騎馬武者が、物凄い勢いで走って来る。

 それは菊王丸である。

 彼は刀を振り上げて斬りかかって来る。

 一太刀、ニ太刀、三太刀。大きな火花が散る。

 士郎は、隙を見て大きくジャンプし、空中から手裏剣を三枚投げる。

 菊王丸は、器用に刀を操り手裏剣を跳ね返す。

 だが、その時には士郎は馬に飛び乗り、馬上で菊王丸と格闘している。

 しかし、二人ともバランスを崩し馬から転げ落ちるが、直ぐに刀を構えて向かい合う。

 そこへ武士姿の三人が駆け寄って来る。清十郎、十兵衛、次郎吉だ。

 「おーい、菊王丸。何をやってるんだ!」と清十郎。

 「突然、矢を放ってびっくりしたぞ!」と十兵衛。

 「お前、強い奴を見ると、直ぐに挑みかかるからな。病気だぜ!」と次郎吉。

 三人の言葉に、菊王丸も苦笑いをする。

 「いいから黙っていろ!」と三人に向かって言う。

 次に士郎に向かって「お前、中々やるな!」といたずらっぽく言う。

 「お前もな!」と士郎も言い、ニヤリと笑う。

 「おいよく聞け、俺の船をなぜ勝手に使った?」

 「ちっ、お前が怒っているのはそれかよ」と士郎。

 「当たり前だ。この船も懐されたら叶わんからな!」

 「まあまあ、ありゃあ壊れちゃあいない。ちょっと大砲が少なくなったがな」

 「ふん」と言いつつ、菊王丸は刀を収めた。

 「どうする、もう止めるんだな」士郎もボタンを押して刀を縮め柄の部分に収めた。

 「久しぶりに強そうな収を見たから、手合わせをしてみたかっただけさ」と言って豪快に笑う。

 「そうなのか、今まで戦場で戦っていたのに、すげえスタミナだな!」

 二人は笑いながら握手をした。

 そこへアウテモック王が登場。

 「皆のお陰で滅亡を逃れる事が出来た。さあ、宮殿に来てくれ。歓待しよう」

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