モスカーニヤは何処
コルテスの攻撃はいぜんとして続いている。
これが毎日続いている為、肉体的にも、精神的にも苦しい立場に置かれている。
これに対抗し、アステカ側も夜陰に紛れての夜討ちを敢行している。
時間をずらし、攻撃場所を変えながら神出鬼没の攻撃だ。時には敵の食料を奪って来る事もある。
また、敵の船を燃やそうという計画もあったが、さすがにそこは厳重に警備されており、何も成果を上げる事はできなかった。しかも、返り討ちに合い多くの仲間を失った。
こうして、戦いは数ヶ月に及んでいる。
こうなると、次第にアステカ側に不利な状況が出て来た。
攻撃側は、全員が訓練された屈強な兵士達だ。それに対し、アステカ側には女や子供、それに老人もいる。しかも、次第に食料不足気味となってきた。
このような状況で民衆に不満や不安を訴える者が多くなってきたのだ。もうそろそろ限界が近づいている。
コルテス側にも不安要素がある。混成部隊の統率に乱れが出てきたのだ。
コルテスは、アステカ側が困っている事も承知している。
そこで、コルテスは、裏切り者が出る前に結着させようと、総攻撃の準備をはじめたのだ。
「いよいよ来るぞ。コルテスも覚悟を決めたようだ!」と、サナテクト。
「我々に彼等の攻撃を食い止める力は残っているか?」と、テトラナ。
「いやあ、かなり厳しいだろう」
「では彼等の裏をかいて、こちらから打って出るというのはどうだ?」
「う―ん、それも自殺行為だ。殲滅されるだろう」
「そうか、いよいよ追い詰められたな」
「ああそうだな。それにしても、モスカーニヤからは何か連絡でもないのか?」
「ああ、今の所無いな」
「もうそろそろ来てくれないと手遅れになるぞ」
そこへ伝令が血相を変えてバタバタと入って来た。
「サナテクト様、コルテスは、いよいよ明日未明にも侵攻してくる模様です」伝令は、これを一気に話すと息づかいも荒く下を向いている。
「分かった、戦いに備えよう。これが最後の戦いになるかもしれんぞ。お前は少し休んでいて良いぞ」と、サナテクト。
「防衛の最大の要は、つり上げ橋だな!」とテトラナ。
「そうだとも、橋を架けられたらコルテスの大軍が押し寄せて来るからな。そこに精鋭部隊を配置しよう」
「橋を破壊するか?」
「俺もそれを考えたが、橋は外の世界へ繋がる最後の頼みだ。我々の持っていた船も大方沈んでしまったからな。それにモスカーニヤは、橋は残しておいて欲しいと言っていた」
「ああ、だがそれはモスカーニヤが戻って来る事を前提とした話しだ!」
「そうだが、テトラナ、娘さんを信じてやれ!」
「ああそうする」そう言いながら、ロびるを噛み締めている。
『モスカーニヤと再び生きて会う事が出来るだろうか?』
翌未明から、コルテス軍の砲撃が始まった。
特につり上げ橋付近を徹底的に攻撃された。
ベルガンティン船も、4隻程がこの場所に集中している。
その内に、2隻が左右から岸に近づいて来て、兵士が上陸を始めた。
そこへそれまで隠れていたアステカの戦士がボーガンを放ち、あるいは棍棒を持って突進して行く。
その戦士に対して、ベルガンティン船から鉄砲の弾が嵐のように襲いかかる。
アステカの戦士は、倒れても倒れても怯まずに進んで行く。
ついにコルテス軍は追い出されるが、次々に第2陣、第3陣と襲いかかってくる。
コルテスも、ここが正念場と、中々引き下がらない。
激しい戦闘の末に、つり上げ橋はコルテス軍によって降ろされてしまう。
そこに待機していたコルテス軍の大軍が大挙して押し寄せて来る。
こうなると、アステカ側には、この大軍を押し留める力はもう残っていない。
テトラナとサナテクトは、この状況を見て、アステカの滅亡が、間違いないことを確認するに至った。
「いよいよ最後かな」そう言いながらサナテクトは、ボーガンを持って身構える。
テトラナも、逃げる事もせず神に祈りを捧げる。
コルテス軍の進軍ラッパが鳴り響く中、いよいよ敵が近づく。
目の前でコルテスの鉄砲隊が横に並び射撃の構えをする。
次の瞬間、”パンパンパン”という発砲音が響く。
テトラナも、サナテクトも、そして回りの戦士達も死を覚悟した。
だが、彼等はー人も倒れなかった。それどころか、血を流す者もいない。
逆に、コルテスの鉄砲隊は、何かに吹き飛ばされて宙を舞い、そして地面に叩きつけられた。
両者ともに何が起こったのか、理解できず唖然としている。
サナテクトは、目を凝らして前方を見つめる。
「テトラナ、よく見てみろ。透明だが何かあるぞ!」
「そんなバカな! ケツァルコアトルの奇跡なのか?」
すると、突然何もない空間から、何かが飛び出した。
それは宙を舞い、テトラナの方へ向かって来る。
どうやらそれは人のようだが、空を舞う魔物のように思えた。
サナテクトは、危険を感じテトラナの制止を振り切って、ボーガンの矢を放つ。そのまま行けば、間違いなく命中する。
だが、その矢はその魔物には当たらず大きく逸れて行く。
その魔物は、二人の目の前に着地した。
今まで見た事もない奇妙な服装をしている。しかも、その魔物は、笑っている。
その魔物が、口を開いた。
「あなたがテトラナ様ですか?」
なんともたどたどしいアステカの言葉だ。
「いや、私ではない。テトラナは、この人だ」サナテクトは、戸惑いながらもそう答えた。
「あなたは誰ですか?」とテトラナが問う。
「私は、モスカーニヤの知り合いで持丸と言います」
「何だって、モスカーニヤを知っているのか?」
「ええそうです。私と一緒に来て下さい」
持丸は、そう言いながらベルトに付いている装置を操作した。
すると二人が悲鳴を上げた。
テトラナもサナテクトも、宙に浮いているのだ。
「まあまあ、静かにして下さい。大丈夫ですから」
三人は宙を飛び、先程持丸が飛んで来た方へ、向かって行く。
空中で持丸は二人に指図した。
「さあ、下に見えるあの穴の中へ飛び込みますよ」
二人が下を見ると、何も無いと思われる空間に穴が開いていくのが見える。
持丸は、ベルトにある重力制御装置を操作しながらテトラナそしてサナテクトの順にその穴へ放り込んで行く。続いて持丸自身も。
二人とも、大人げない叫び声を上げながらその穴へ入り、尻餅をついた。
二人は中を見て驚いた。赤や黄色の光が点滅し、まるで別世界である。
そこに後向きに座っている女性がいる事に気が付いた。
その女性がゆっくりと振り向く。
「お父様、それに叔父様、今、私は戻ってまいりました。遅くなって申し分けありません」と言い、ニッコリと笑った。
「お、お前モスカーニヤなのか?」と目を丸くして驚くテトラナ。
「そうですよ、これでアステカは、救われるでしょう」
「テ、テトラナ、これを見てみろ、外が見えるぞ!」
サナテクトの驚いて上ずった声につられて、テトラナもその視線の先を見た。そこに長方形の窓が見える。その向こう側には、コルテス軍が必死の形相で、鉄砲や、矢を放っている。しかし、それらの弾や失はこちらに真っ直ぐに向かってきているが、ここに当たる前にあらぬ方向へ飛んで行っているのだ。
「こ、これはどういう事だ。魔法でも使っているのか、それとも、あなたはケツァルコアトルの化身なのか?」テトラナも、驚きの声を上げながら、持丸を見つめる。
「ケツァルコアトル! あなた方が崇める神の事かい。残念ながら違う。まあ、進んだ科学技術は魔法のように見えるかもしれませんがね。ただ、重力を制御しているだけでして」と、持丸は制御盤を操作しながら言った。
「うーん、何を言っているのか分からんが」そう言いながら、今度は再びモスカーニヤに目を向けた。
「モスカーニヤ、お前が探していた人は、この人なのかね?」
「いいえ、この人じゃあないわ。もうじき外で異変が起こるはず。そうすれば分かります」モスカーニヤは、不思議な微笑をしながら言った。
「そうなのか?」テトラナは、半信半疑の複雑な顔をしている。
「それはそうだが、早くしないとエネルギーがもたんぞ、こいつはポンコツだからな!」と、持丸がロを挟んできた。
次の瞬間、”ドカーン”という音とともに、エッグ1号が激しく揺れる。
「どうも砲弾が当たったようだ。重力バリアのエネルギーが切れかかっているんだ。そろそろヤバいぞ」
やがてエッグは半透明だったものが、その姿を徐々に現わしてきた。
その時、通信装置から音声が流れて来る。
「持丸聞こえるか! こちら明智だ、応答せよ!」
ガレオン船に残っていた明智からの連絡だ。だが雑音が酷い。
持丸は急いで無線機のマイクを手にした。
「おー明智、今砲撃されている。手短に頼む」
「おいおい大丈夫なのか? ところでビーコンの修理が終わった。スイッチを入れておくぞ」
「そうしてくれ、本部が諦めていなければまだ俺達の事を探してくれている筈だ。そのビーコンだけが元の世界に戻れる最後の希望だからな!」
再び、砲弾が炸裂し、激しく揺れる。
同時に無線機から火花が飛び明智との通信が途絶えた。さらに室内で明滅していたランプ類も消える。
「モスカーニヤ、これ以上は無理だ。もう重力バリアは使えない。補助電源に切り変える」
窓から外を見ると、重力バリアが効かない事が分かったようで、コルテス軍が雄叫びを上げなが迫って来るのが見える。
持丸は補助電源に切り変えて、飛び上がろうとしているが、焦って上手くいかない。
「くそっ、重カバリアが無ければ、こいつは脆いぞ!」
彼等は鉄砲を一斉に放ってくる。エッグの機体にガンガンと当たる音がする。
ついに窓ガラスにヒビが入った。
また、馬に乗った兵士が、斧のような武器を持って近づく。
「急いで、持丸様!」とモスカーニヤ。
兵士が斧を2度3度振り降ろすと、ついに窓ガラスが割れ、その破片によって持丸が数ケ所傷を負う。
その持丸目掛けて容赦無く、兵士の斧が襲い掛かる。
『俺は死ぬのか!』持丸は恐怖で動けず、ただ目を瞑った。
「うわー」という大きな悲鳴。
持丸が目を開けると、自分の体に血がベットリと付いていた。
『やられたか!』と思った時、目の前にいた兵士が仰向けに倒れた。
その兵士の胸には、ボーガンの失が刺さっている。
サナテクトが咄嗟にボーガンを放ったのだ。
だが状況は変わらない。次々に兵士が押し寄せて来る。
万事休す、と思った時、この戦場に法螺貝の音が鳴り響く。
続いてコルテス軍の後方で、鉄砲の発砲音。
予想もしなかった方向からの新たな敵の出現にコルテス軍は浮き足だった。
戦場を駆け巡る日本の鎧を身に付けた騎馬武者の背後には、“八幡大菩薩”と描かれた旗指しものが見える。
「漸く来たな菊王丸、これで助かるぞ!」
コルテス軍は、日本の武士を知らない。鉄砲を放ち、日本刀を煌めかせながら突撃して来る武装集団に恐怖した。
棍棒を主な武器とするアステカ人とはまるで違う。
こうなると、混成部遂を構成していたテスココがまず戦場を離脱し始めた。
次にテスココの離脱を見てトラスカラもそれに同調した動きを始める。
コルテス軍は鉄砲で威嚇して、彼等を戦場に止まらせようとするが、無理のようであった。
こうしてコルテス軍は、スペインの精鋭部隊だけが残ったのである。残されたこの部隊は末だにほぼ無傷の状態であり、コルテスは、まだまだ闘争心を無くしてはいなかった。
テスココ、トラスカラが去り、砂塵が収まった後を見ると、コルテス軍の大砲がズラリと並んでいる。
さらにその後には、騎兵が整然と並び、コルテスの号令を待っている。
対する菊王丸側は数百騎しか残っていない。圧倒的な劣勢である。
その状況を見ていたサナテクトは、残っている戦士を結集させ、菊王丸と共に戦う決意をした。
サナテクトは、エッグから飛び降り、王のいる場所へ走って行く。
そしてついに、王であるアウテモックが登場する事により、全員の士気が上がる。
この状況を見て、コルテスの指示のもと、大砲が一斉に火を吹いた。




