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アステカ帝国

 現在の我々の世界では、中米にスペイン系の住民を中心としたメキシコという国がある。

 しかし、西歴1500年傾には、メシカ族によるアステカ帝国が栄えていた。

 そして、その首都は、テノチティトランと言い、現在のメキシコシティーの場所に存在していた。

 また、このテノチティトランは、最盛期には20万から30万人の人口を抱えており、世界有数の大都市でもあったのである。

 この都市は、テスココ湖にある島に建設され、その湖の沿岸と島とは幾つかの橋で結ばれ、更に水路が整備されていた。

 そして、その中央にはエジプトのピラミッドを思わせる巨大な石の建造物が存在している。

 だが、このアステカ帝国は、スペイン人のコンキスタドールの一人であるコルテスにより滅ぼされている。

 さて、この異世界においてはどのような経過を辿って行く事になるだろうか?。


 首都テノチティトランのほぼ中央にある巨大ピラミッドの前に大きな広場がある。その広場に多くの人々が集まっていた。

 そこには太陽神テスカポリトカの5メートルはあるだろう大きな石像が立っている。

 この日は、雲一つ無い青空に太陽が燦々と輝いている。

 そして、太陽神の前には祭壇が設けられ、そこに顔を黄色と黒に塗られ、更に黒い衣装を着た若者が横たえられていた。

 彼は、一年前から人々から神のように崇められ、神のように扱われて、漸くこの生贄の日を迎えたのだ。

 彼には、恐れはない。ただ神の生贄になるという事は大きな名誉であり、あの世で神と共に栄光の中で生きられるという喜びに包まれている。

 祭壇の両側には大きなかがり火が燃えている。

 そして、テスカポリトカに仕えているという神官が、祭壇から3メートルほど離れて5人並んでいる。

 彼等は神への祈りを奇妙な節をつけて唱えている。

 そして、その後方には、モクテスク二世が、その妻と共に礼服を着て儀式の一部始終を見ている。

 更にその周囲には、多くの民衆が見守っていた。

 神官の神への祈りが終わった。

 ついに生贄が始まる。

 緊張の波が波紋のように広がって行く。

 5人並んだ内の中央の神官が、祭壇に備えてある剣を持ち生贄の若者に向かって高々と振り上げた。

 だがその瞬間、晴れ渡っていた空が、一転して雲り、強い風が広場を襲う。

 やがて、その強い風はかがり火の炎を吹き消した。

 そこに集まった民衆は動揺し、「悪魔の祟りだ!」と言って喚き出す人もいる。

 やがて、つむじ風が起こり、そしてそのつむじ風が大量の雲を呼び込んで来る。

 空は益々暗くなり、それが人々の恐怖心を煽った。

 空から獣のような鳴き声が聞こえて来る。

 人々は、恐怖で引き攣った顔をして空を見上げる。

 「なんだあれは?」一人が空を指差して叫んだ。

 空の一点に何やら白い細長い物を見つけた者がいる。

 その白い物は、旋回をしながら少しずつ降りて来る。

 「あ、あれは蛇だ。白い蛇だ。蛇が5匹いるぞ!」

 人々の恐怖は頂点に違っしている。

 その場から逃げようとしても、足がすくんで動かない。

 ついにその白い蛇が間近に迫って来る。蛇のそれぞれのロから赤い炎のような舌が見える。

 更に、その蛇の上に、白い肌を持つ男が、白いマントを付け、うっすらと笑いながら人々を見ている。

 誰かが叫んだ。

 「ケツァルコアトルだ!」

 「しっ白い神の復讐だ!」

 人々は泣き喚き、祈り、震えた。

 やがて、その白い男は、生け贄の若い男の上に蛇とともに着地する。

 それとともに、白い光が溢れ人々の目を撹乱した。

 暫くして、眩しい光が収まると、生け贄の若い男の上に鈍く光る白いマントが覆い被さっていた。

 神官が一人立ち上がり、覚束ない足取りで祭壇に近付いて行く。

 彼は、震える手でそのマントを掴み、そして恐る恐る捲る。

 すると、そこには生け贄の男はおらず、淡い光を放つ無数の白い蝶がいた。

 やがて、それらの蝶がヒラヒラと舞い上がって行く。

 その蝶は、いつ果てるとも無く、際限無く舞い上がって行くのだった。


 「陛下、陛下、大丈夫ですか?」

 王妃が苦しそうにうなされているモクテスク二世を必死に起こそうとしている。

 「陛下、陛下!」

 顔が青ざめている。王がそのまま死んでしまうのではないかとさえ思えた。

 「陛下、陛下! 起きて下さい!」

 王妃の必死の呼び掛けによって、漸く王は目覚めた。

 目覚めたものの、王の目は天井の一点を見つめたまま動かない。

 「へ、陛下、大丈夫ですか?」

 王妃が呼び掛けると、王は震えながらロを開いた。

 「ケツァルコアトルが、復讐に来る!」

 ただ事では無い王の表情に、王妃も強張るが、なるべく冷静を装って言った。

 「陛下、それは夢ですよ!」

 「夢である事は分かっているが不吉な夢だ」

 「陛下、落ち着いて下さい」

 「いいから占星術師を呼ぶんだ!」

 王妃は、その言葉に素直に従う事にした。


 占星術師のケナールは、深夜だというのに、叩き起こされた。不機嫌そうにドアを開けたが、それが王の命令だという事で、すっかり目が覚めた。

 急いで準備をし、宮殿に向かう。


 「陛下、如何なされました?」

 背が高く、痩せて神経質そうなケナールが、しわがれた声で言った。

 「不吉な夢を見た。その夢を解いてくれ」

 「さて、どのような夢でしょうかな?」

 ケナールは、王の心を読むような目付きをして言った。

 モクテスク二世は、自分の見た夢を詳細に話した。

 「陛下、その白い男はケツァルコアトルに間違いありません。アステカの伝承によれば、ケツァルコアトルは、太陽神テスカポリカの策略で追放されております。その際、ケツァルコアトルは、蛇の筏に乗って遙か海を越えて消えたとあります。また、その肌色は透き通るような白い肌を持っておりました。まさに、陛下の見た白い蛇に乗った白い男と一致しております。また、ケツァルコアトルは、人間の生贄を嫌っており、人間の代わりに美しい蝶の羽を捧げよと言っております」

 「おお、あの生贄の若者が無数の美しい蝶に変わった!」

 ケナールは、王に同意するように、頷いた。

 「そうか、ならばケツァルコアトルの復讐が近いという事だな」

 「仰せの通りでございます」

 「ならば、どうすれば良いのじゃ?」

 「運命に逆らわず、その王の座を降りる、というのは如何ですか?」

 ケナールは、ずる賢い目をして言い切った。

 「面白いのう。だがな、ワシを支えている親族や、神官どもが許さんだろう。他の手を考えるんだ」

 王は、このケナールは嫌な奴だと思いながらも、表情には出さない。

 「ならばケツァルコアトル派のグループを潰すことですな」

 ケナールは、怪しく光る目を王に向けて言った。

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