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物理学者 神藤勇一

 神藤勇一という新進気鋭の物理学者がいる。彼は先頃発生した岩倉峡谷における不思議な事件に着目していた。B-29は、第二次世界大戦後半に登場した米軍の戦略爆撃機である。当然のことであるが21世紀の今日、そんな航空機が現役で空を飛んでいる筈がないのだ。

 搭乗員は10名いた。遺体の損傷が激しかったため、確認に手間取ったが彼らの認識票を調べることが出来た。

 驚いたことに彼らは第二次大戦末期、日本本土爆撃のためB-29で出撃したが、日本軍の攻撃により撃墜されていた。彼らは戦死とされたが、彼らも、そしてB-29の機体も発見されないままになっていた。

 それが今、忽然と現れ岩倉峡谷に墜落したというのである。しかも彼らはいずれも20歳前後の若者だったのだ。

 全世界の新聞、マスコミ各社は、この不思議な事件を今世紀最大のミステリーとして大々的に報道した。


 日本でもアメリカでも、この事件を重視し、科学者を中心とした合同の調査隊が編成された。

 そこに神藤勇一も派遣された。電磁場の状態、重力異常は無かったか、当時の気象の状態等を調べた。

 また現場にいた人達にも聞き込み調査が行われたが、共通していたのは、突然空中で大きなパーンという破裂音と、衝撃波を感じたと証言したことだった。


 神藤が最も注目したのは、B-29の機体だった。その機体は爆発によって粉々に破壊されていたが、尾翼の一部が何か鋭利なもので切断されていたのだ。これは、どうしても爆発によって生じたものではない。しかも切断されたものならば、もう一方の切れ端が存在しているはずなのだが、どうしても見つけ出す事が出来なかった。

 また詳細な調査の結果、この地方における電磁場や重力等の異常は見られなかった。

 ただ興味深い事に、墜落事件が発生した時、岐阜県飛騨市神岡町にある神岡宇宙素粒子研究施設において、様々な素粒子が通常よりも多く観察された。

 その中には、奇妙な振る舞いをする未知の粒子の存在が確認された。

 その未知の粒子は、検出器の中で軌跡を描くが、それが途中で忽然と消えてしまうのだ。

 不安定な素粒子というものがある。素粒子が分裂して別の素粒子になったり、β線を放出したりする。

 しかしこの未知の粒子は、何の痕跡も残さず完全に消えてしまうのだ。

 これは、物理学でいうエネルギー保存の法則という大原則から逸脱してしまう。あるいは、その検出器で測定する事が出来ない粒子に変化したのだろうか。

『もし完全に消え、何の痕跡も残さなかったとしたら? ひょっとして異世界へ行ったとでも言うのだろうか? それにB-29が突然現れたのは---』

 神藤は様々な可能性を考えた。『とにかく今までの常識では考えられないことが目の前で起こっているのだから。B-29はタイムスリップしてきたものか、それとも異世界というものがあって、そこから現れたものなのか? その原因を調べなければならない』。

 この重要性に気付いた政府は、この事件の解明の為に著名な物理学者を中心に研究チームを発足した。その名は、B-29墜落事件解明プロジェクトと言い、略してBプロジェクトと呼ばれた。

 もちろん、米国においても同様の研究グループが立ち上がった。

 神藤も優秀な研究員として、このプロジェクトに参加する事になった。

 プロジェクトリーダーは北里博士である。その片腕として神藤は頑張ったのだ。


 数年後、彼らプロジェクトチームはいわゆる消える粒子を人工的に作る事に成功した。ただしこの粒子は数秒で消えてしまうのだ。ところが、しばらくすると一部の粒子が戻って来ることも分かった。この振る舞いは今までの物理法則を完全に無視していた。

 勇一は、この粒子が異世界へ行ったと仮定するならば、その証拠を示さなければならないと決意した。

『それでは、この粒子を使って異世界の映像を映し出す装置を作れば良い』

 神藤たちのグループは、この消える粒子を使った受像器を作るという方針のもと全力を上げた。


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