表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/71

魚突き

魚突き

 B-29墜落事件で両親を失った城島士郎は、忍者小五郎に育てられる事になった。

 忍者の里の近辺は、自然に恵まれている。

 士郎は、最初の数ヶ月は両親を亡くしたショックで落ち込んでいたが、小五郎や他の忍者の里のスタッフ達と遊んだり、自然の中を散策している内に傷ついた心も次第に癒されていった。

 近くには、綺麗な川が流れており、しばしば上流まで歩いて行き、魚や昆虫などを捕まえたりしていた。

 この日も小五郎と一緒に、川の上流まで遊びに来ていた。

「おい、士郎! 今日は魚を昼飯にするぞ!」小五郎は、そう言うとヤスを片手に持って川の中へ入って行った。

 当然、この場所は漁業権設定区域外の場所で魚突きも自由に出来る穴場である。

 筋骨隆々の浅黒い体が鋭い目で、素早い魚を追う。その一瞬彼の右腕が素早く動く。そして、水しぶきが上がると同時にヤスの先端に魚が突き刺さった。

 この動作を繰り返しながら、次々と魚が仕留められていく。

 士郎が見ると、その無駄の無い動作は、人間技とは思えなかった。

「おい、今度はお前がやってみるか?」小五郎が突然、士郎に向かって言った。

 士郎は、意表を突かれた。「えっ、ぼ、僕が!」、そう応えるのがやっとであった。

「そうだ、お前だ」、小五郎は平然と言う。

「出来ないよ!」、泣き出しそうな声だった。

 小五郎は、そんな士郎を見て笑いながら言った。「はっはっは、誰でも最初は初心者だよ。初めっからうまくいく訳がないさ。とにかくやってみることさ!」

 小五郎は、士郎に子供用のヤスを手渡した。

 仕方なく士郎は、川の中へ入っていく決意をした。

「士郎、そんなに固くなるな! リラックスしろ!」

 そうは言っても士郎の動きはぎこちない。士郎は小五郎の動きを心の中で再現してみる。そして、おもむろにヤスを持つ右手に力を入れる。

 彼の近くを魚が泳いでくる。

 それを目掛けてヤスを突く。

 だが魚は、その動きを嘲笑うかのように身を翻し、悠然と逃げていく。

 士郎は、「ちっ」と舌打ちをする。

 その悔しさが士郎を向きにさせる。

 何度も何度も、同じような動作を繰り返す。

 だが、どうしてもうまくいかない。

 それでも士郎は、諦めない。

 小五郎は、その姿を見て意外に感じた。直ぐに士郎は、諦めるだろうと思っていたのだ。

 だが、そうではなかった。中々の根性の持ち主である。小五郎は、心の中で安堵した。

「おーい、士郎! もういいから上がってこい。昼飯にするぞ!」

「嫌だ、捕れるまで頑張る!」士郎は、大きな目を輝かせながら決意の表情を小五郎に向けた。

 これには小五郎も驚いた。『あいつ、鍛えれば大物になれるぞ』と、心底思った。


 それから、大分時間が経過した。それでも士郎は川の中にいる。

 小五郎も、いつの間にか岩の上に寝そべって空を眺めていた。

 静かに物思いに更けっていると、それを引き裂くような声がした。

「やったー!」という大きな声である。

 小五郎が、飛び起きて川の方を見る。

 すると、士郎はヤスを高く空に上げ、歓喜の表情を浮かべていた。そしてヤスの先端には大きな魚が見事に仕留められていたのである。

 ここに来る前には、自信の無い、気弱にさえ見える子供だった。

だが、今、目の前にいる子供の笑顔には、自信が満ち溢れているように見える。

子供は、僅か一日でも大きく成長するものだと感心した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ