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士郎、飛鳥、ジョー黒崎

 "ドンドンドン"、"ドンドンドン"、"ドンドンドン"

 士郎は、昨夜遅く山中湖から帰って来てそのままソファーに寝てしまっていた。相当に疲れていたのである。

 そこへ、ドアを強く叩く音がして、目が覚めた。

 時計を見るとまだ5時だ。

 『くそっ、誰だ、こんなに朝早く!』

 "ドンドンドン"、"ドンドンドン"、"ドンドンドン"

 「分かった、分かった、今行く」

 これ以上ドアを叩かれると近所迷惑になる。

 いつもなら、無造作にドアを開けるのだが、この時は何となく嫌な予感がして、ドアスコープで覗いて見た。

 見ると帽子が見えた。どこかで見たような帽子だ。

 寝ぼけた頭で色々と考えて見たが、漸く思い出した。

 『うーん、これは……、まさか、あの猿が被っていたソフトハットじゃあないか』

 "ドンドンドン"、"ドンドンドン"、"ドンドンドン“

 再びドアを叩く音がする。

 「おい、お前は誰だ? 何かの冗談かな?」

 ドアスコープの向こう側で、男が目深に被っていた帽子を少し上げた。

 「うわっ、お前はポン太か。なぜここにいる」

 士郎はドアから後へ飛び退いた。あり得ない話しだ。

 混乱する頭の中で、色々と考える。

 士郎の混乱した頭を更に混乱させる事態が発生した。

 ドアにに向かって、拳銃が発砲されたのだ。

 3発の銃声の後、ドアが蹴破られてポン太が物凄い勢いで覆いかぶさり、ポン太の長い舌で、顔をペロペロと舐めてきた。

 「くそー、なんじゃこれは―!」

 ポン太の力は強く、息苦しくなってくる。

 やがて、気が遠くなってくる。


 しかし士郎も忍者としてのプライドがある。満身のカを込めて、ポン太を押しのけて、起き上がった。

 枕元で、モンキーマジックの曲が流れている。携帯電話の呼び出し音だ。

 窓からは、陽光がさし込んでいる。

 猿は何処にもいない。ドアも元のまま破壊されてはいない。

 「ふー、夢か。嫌な夢だった。それにしても、携帯電話の呼び出し音は変えた方が良さそうだ」そう言いながら皮肉っぽく笑った。

 士郎は、しつこく鳴っている携帯電話に手を伸ばした。

 「はい、士郎です」

 「おっ、漸く出たな。善次郎だ。お前大丈夫か?」

 「えっ、何が?」夢の中の猿を思い出し、苦々しく笑う。

 「何がじゃあない、さっきから何度も電話をかけてるんだぞ」

 「まあこっちにも、色々と事情があるからねえ」、まさか、猿に抱きつかれていた夢を見ていたとは言えない。

 「まあいい、何でもなければいいんだ。それより今日の夕方6時、時間を開けておいてくれ」

 「6時ね、いいっすよ。それで誰に会うんです?」

 「パーフェクトビクトリー社の飛鳥君だ」

 「おっ、待ってました。行きますよ!」

 「ほう、やけにやる気があるじゃあないか。昨日の今日で疲れちゃあいないのか?」

 「いやあ、俺は、おっちゃんと違い、いたって元気ですよ」

 「はっはっは、ありがたいねー、若いという事は。頼んだよ」

 「ハイハイ!」

 本当は、疲れている。だが早く猿の事は忘れたかっただけだ。


 夕方、士郎は港区にあるというパーフェクトビクトリー社のオフィスビルへ向かっていた。

 自動ドアを通過して行くと、直ぐに受付嬢が笑顔で迎えてくれた。白とブルーのシンプルなデザインながら、近未来を思わせるような制服に身を包んでいる。

 「城島士郎です。飛鳥さんに呼ばれて来ました」

 「はい、承知しております。暫くそのままにしていて下さい」

 そう言われて、何が始るのだろうと、やや不安になる。

 なに気なく、受付嬢の目を見て驚いた。目が少しオレンジ色に光っているのだ。

 ほんの1秒後、彼女はにっこりと微笑んだ。

 「データの照合が済みました。どうぞ、ロビーでお待ち下さい。直ぐに飛鳥が迎えに来ます」

 士郎は唖然として頷いた。

 『こいつ、こんなに表情が豊かなのにロボットだったのか。猿の次はロボットかよ、油断できねーぞ!』

 士郎は、とりあえずロビーのソファーに座って待った。

 暫くすると、革靴の音を響かせながら飛鳥がやって来て、士郎の前に座る。

 「やあ、久し振りだね士郎君。昨日は大変だったね。とにかく怪我人が出なくて良かったじゃあないか!」

 「丹下研究所の猿の事ですか。もうその話しはよしましょう。暫く猿の顔は見たかあないんだ」

 「そうか、そりゃあ失礼」

 「ところで、今回の仕事はあのジョー黒崎も一緒にやるんだろ、あいつ時間過ぎてんのにまだ来ないのか?」

 「ああ、その事で君に注意したい事がある。奴はもう来ている」

 「えっ、そうなんですか、何処にいるんです?」

 「うん、それが大きな声じゃあ言えないんだ。ちょっと耳を貸してくれ」飛鳥は慎重に小声で喋っている。

 仕方なく士郎は耳を飛鳥の口元へ近付けた。

 「士郎君、黒崎は君の目の前にいる」

 「何だって」そう言いながら士郎は辺りをキョロキョロする。だが、どこにも見あたらない。

 「おい、飛鳥さん本当か?」と言って飛鳥の顔を見て驚いた。

 その顔は飛鳥ではない、ジョー黒崎だった。

 「おっお前、また騙したな」

 黒崎は、腹を抱えて笑っている。得意の変装術だ。

 「いいじゃあないか、時間つぶしになっただろう。飛鳥は会議が延長しているから宜しく伝えてくれと言ってきた」

 「黒崎、これで二度目だな、いつか借りを返してやるからな」

 「ああ、楽しみに待ってるよ!」


 そんな所へ、秘書と思われる女性がやってきた。

 「お待たせして申し分けありませんでした。会議が終わりましたので、飛鳥の部屋まで御案内致します」

 「ああそうですか、さあ士郎行くぞ」

 「そうだな」

 士郎と黒崎は立ち上がり、秘書の後に付いて行く。

 「なんだ士郎、さっきから何か考えているようだが」

 「ああ、さっきの受付嬢に良く似ていると思わんか?」

 「ふん、お前、何にも知らないんだな。この人もロボットだぜ」

 「えっ、本当か。どう見ても人間のようにしか見えんが」

 「お前も疑い深い奴だな。あの女の右耳の後の部分にボタンがある。それを押せばあのロボットは止まる」

 「うーん、そう言えば何となく歩き方がぎこちないなあ」

 「そうだろう、いいからボタンを押してみな」

 「しっしかし、人間だったらまずいだろう」

 「大丈夫、俺が請け合うから」

 「そうか、それなら、やってみるか!」士郎は、ためらう気持より、好奇心の方が強くなってきた。

 黒崎はニヤニヤ笑っている。

 士郎は、思い切って前を歩く秘書に声を掛けた。

 「あのー、すみません!」

 その声に秘書は直ぐに反応し、爽やかな笑顔を士郎に向けた。

 素早く士郎は手を伸ばし、秘書の右耳の裏を探る。

 いや、それよりも早く、秘書の平手が士郎の頬を襲った。

 「何をするんです。セクハラは許しませんよ!」

 「ああ、すみません、すみません。これは誤解です」

 士郎は、赤く腫れた頬を擦りながら、平謝りに謝った。

 隣では、黒崎がクスクス笑っている。

 秘書は、プイっとしてツンツンと歩き出した。

 「黒崎!! 人間じゃあねえか。許さんぞ!」

 「お前もおかしな奴だ。仕事では抜け目が無いのになあ」


 「はい、ここが飛鳥の部屋です」

 まだ怒っているのか笑顔が消えている。

 ドアをノックすると、中から飛鳥の声がする。

 秘書がドアを開き、黒崎と士郎が入って行く。

 「お一、久し振り、さあそこに座ってくれ」

 「ところで、随分危険な仕事のようですが詳細を話して下さい」黒崎が、先程とは違い、神妙な顔付きで聞いた。

 士郎は珍しそうに、部屋の中を物色している。

 「そうだ、今私は異世界転送技術を確立した神藤博士の研究所に行っている」

 「なんだって、異世界転送だって、ニュースで随分話題になっていたが、今どうなっているんだ?」

 「うん、かなり進んでいる。ただ今は報道規制をしているから、国民の殆どは忘れているだろうがね」

 飛鳥は、かいつまんで最近の動向を話した。

 その話に、士郎も黒崎も驚きを隠せなかった。

 「何だって、今、異世界を探索してるんですか?」

 「しかも異世界の人を救う為に、巨大な穴を開けて、それが原因で行方不明になったんだって?」

 「そう言う事だ。そして、君達に頼みたいのは、行方不明者を救出に行く事だ。ただし失敗すれば、この世界に戻れないという事も有りうる。引き受けるかどうかは、君達の判断に任せる」

 この深刻な話しに、士郎は直ぐに反応した。

 「俺はやるぜ!」

 「士郎君、本当に良いんだね」

 「勿論だ!」士郎にしては珍しく真面目な顔をしている。

 「飛鳥さん、俺の両親は異世界研究の出発点となったB29墜落事件の犠牲者だ。両親の為にも、俺はこの仕事に参加すべきだと思っている」

 「何だって、君にそんな過去があるとは知らなかったよ。君の決意は固いようだ。一緒にやろう」

 そこで漸く士郎も笑った。

 「黒崎はどうする?」

 「俺かね、当然やらせてもらうよ」

 「ようし、今日は、その意志だけを確認したかった。まだ少し準備に時間がかかる。準備が整い次第、また連絡する」

 こうして、話しがまとまり、飛鳥は二人を玄関まで見送る為に部屋を出た。

 その時、先程の秘書がいたので、飛鳥が話し掛ける。

 「あー君、そろそろ充電した方が良いぞ!」

 「はいどうも、随分疲れやすいと思ったわ!」

 その話を聞いて、士郎と黒崎は驚いて顔を見合わせた。

 「はっはっは、彼女もロボットなのさ!」

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