石割神社での戦い
石割神社、それは石割山の8合目、標高1143メートルの所にある。そこには大岩があり、それが御神体となっている。
この神社は、石割山ハイキングコースの途中にあり、開運、厄除、無病息災の御利益を求めて参拝する人も多い。
ハイキングをしていた男女のグループが、神社に立ち寄った。
「ああこれが石割神社ね。この大きな岩が御神体だって言ってたわね!」
「そうだな、せっかく来たんだここの御利益にあやかろう」
「えーと、ここの御利益は、開運、厄除、無病息災だったわね。せいぜい長生きしなくっちゃねー」
「あそこの岩の隙間を通りゃ良いんだな」
「あんた、お腹がポッコリ出てるけど、大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫!」
「あらまあ、張り切っちゃって!」
その時である。“バサバサ”と、大きな翼の音がした。
「あら、何かしら?」
「そんなもん、鳥に決まってるだろう」
「それにしても大きな鳥だわ!」
「気にすんな、気にすんな。俺からこの岩の隙間に入るからな」
「まあまあ、お好きにどうぞ!」
男は岩の隙間を通過しようとした。だが体が急に動かなくなった。
「あら、どうしたのかしら、やっぱり太り過ぎじゃあないの。デブと言われたくなけりゃ早く通り抜けなさいよ」皆の笑い声が聞こえる。
「俺をバカにするな! そんな事じゃあなくて誰かが俺のリュックを引っ張っているようなんだ」
「なに言ってんの、みんなこっちにいるわよ!」
「そ、そうだよなあ。ちょっと戻って見るよ」
「もう、何やってんのかしら、岩を通り抜けできないって事は、何か悪い事をやったという事なんだからね。分かってんのかねー?」
すると、男の悲鳴が聞こえる。
「うわー、なんだこいつは?」
男は岩の隙間から、大慌てで出てきた。
「あーら、通り抜けられたんじゃない」
「おいヤバイぞ、あのチェスターコートを着た猿がいるぞ!」
「えっまさか、こんな所に?」
「ニュースで言っていた。人を襲うぞ、早く逃げよう!」
そう言っている間に、上空から「キキー」と言う、猿の威嚇するような鳴き声がしてくる。
空を見上げると、翼を持った猿が上空を旋回している。この猿はフー太だ。
フー太は、獲物を見定めると、急降下を始めた。
逃げ惑う人間に襲いかかる。
その犠牲者となったのは大きなリュックを背負った男だ。
「た、助けてくれ!」
男の抵抗も空しく、リュックごと、宙に浮かぶ。
「ねえ、猿の狙いはリュツクよ。リュツクを外すのよ!」
男は、その声を聞いてリュツクを外そうとするのだが、慌てていて上手くいかない。
その時、神社の長い階段の方から“バリバリバリ“というエンジン音が響いてきたかと思ったら、バイクが勢いよく飛び出して来た。
バイクはそのまま最後の階段を登り切ると同時に、ライダーは、高くジャンプし、フー太に、体当たりする。士郎が漸く追い付いたのだ。
フー太は、そのまま大岩に背中を強く打ちつけ、動けなくなった。
だがホっとしたのも束の間、そこへ銃弾が飛んで来た。
ハイカー達の悲鳴が聞こえる。
御神体の大岩の上からポン太が拳銃を撃っているのだ。
『くそっ、ポン太か、ばち当たりな奴だぜ!』
士郎は、咄嗟に煙玉を炸裂させ、その隙にハイカー達を安全な場所へ非難させた。
一方、大岩の上から覗いているポン太は、煙が収まるのを待っているのか、煙自体が面白くて見ているのか、よく分からないが、とにかく、じっと下を見つめている。
すると、煙の中から何かが飛び出して、拳銃に当たり、ポン太は不覚にも、拳銃を落としてしまう。
それは士郎が投げたピンポン玉ほどの石だった。
ポン太は、岩の上で地団駄を踏んで悔しがっている。
『頭が良いと言っても所詮は猿か!』
士郎は、いつの間にかポン太の背後にしのび寄り、捕獲用の網を投げる。
しかし、ポン太は、余裕でそれをかわし、近くの枝へ飛び移った。
ポン太が木の上から士郎を見ている。その顔は笑っているように見えた。
『なんだ、あいつ、良い遊び相手だと思ってんのか、忍者をなめんなよ!』
士郎もまた、枝へ飛び移りポン太を追う。
追いながら、麻酔薬を塗った手裏剣を放つが、ポン太は、物の見事にかわしていく。
次の手段として士郎は、火薬玉をポン太の行く方向へ三発投げた。
これにはポン太も驚いた。掴んだ枝が折れ地面へ落下する。
落下したポン太の背後にあった木の幹から手が伸びてきて、ポン太を背後から捕まえた。
士郎が幹に化けていたのである。
だが、士郎が掴んでいたものは、チェスターコートだけであった。
ポン太は、近くの枝に尻尾だけでぶら下がり、士郎を見て、笑っているような顔をしている。
『へっ、なかなかやるじゃあねえか!』
士郎は、にんまりと笑う。手強い相手であればあるほど、嬉しくなるのだ。ちょっと危険な性格かも?
『さーて、本気を出してやるかな!』
にやっと笑うと、その幹の前から掻き消えた。
すでに枝にぶら下がっていた猿も消えている。
再び士郎とポン太の追いかけっこが始まった。
士郎は、再び要所要所で手裏剣を放って行く。
ポン太もまた、追いかけられているというよりも、思いっきり体を動かすのが楽しくてしようがないようだ。
士郎にも、そんな気持が伝わって、何となくそのまま逃がしてしまいたいという感情も湧いてくる。だがこれはアルバイトだと割り切らなければならない。
やがて、士郎の目に少し前に放ったクナイが視界に入ってくる。
士郎の口元が弛む。
次の瞬間、“パンパンパン"という火薬が炸裂した音が、そこかしこから聞こえて来る。
ポン太の周囲から聞こえる爆発音と、眩しい光で一瞬感覚が狂わされ、遂に落下した。
その下には、捕獲用の網が待っていたのだ。
「ようポン太、俺の勝ちだな。可哀想だが、おとなしく丹下研究所へ戻ってくれ」
士郎も木から降りてきて、ポン太に向かって言った。
士郎は、当たらないと分かっている手裏剣を無造作に放っていた分けではない。士郎が火薬を仕掛けたこの場所にポン太が来るように誘導していたのだ。
しかし、その時網の中に囚われていたポン太がニヤっと笑ったのに士郎は気が付かなかった。
士郎が、気の毒そうにポン太を覗いていると、突然背中に強い衝撃が走り、吹き飛ばされた。
何事が起こったのかと、頭を押さえながら周囲を確認すると、そこにフー太がいた。
フー太が、あの状態から蘇生したようだ。
フー太は、素早くポン太を助け出した。
士郎は、それを見て、手裏剣を2枚飛ばすが、簡単にかわされた。
士郎も起き上がり、2匹を追う。
だが驚いた事に、2匹の猿が逃げて行く前方に白髪の老人が立っている。
「逃げて下さい。危険だ!」
士郎が必死にその老人に向かって忠告するが、間に合う筈もない。
老人は、何もする事も出来ず、2匹の猿にのみ込まれる。
それでも士郎は老人を救おうと、駆け寄って行く。
ところが士郎が近づくにつれて、何かがおかしい事に気付く。
苦痛に歪んだ老人の顔はそこには無く、笑っているのだ。
笑い声まで聞こえてくる。
「はっはっは、ポン太に、フー太、元気そうたな。俺に会いたくて、ここまで来たんだろう!」
士郎は老人の言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。
「あのー、これはいったいどう言う事なんでしょうか?」士郎は、自分でも可笑しくなるくらい低姿勢に出た。それだけ、奇妙に見えたのだ。
「ああ、君、士郎君だろ。君に頼んで良かったよ。警察じゃあ射殺されていただろう」
「貴方は誰なんですか?」
「私かね、私は丹下じゃ。丹下研究所を去年引退した。その後研究所でのこの3匹の猿に対する躾が、急に厳しくなったようじゃ。成果を出す事を優先したようじゃ。本当は人間と同じように愛情を込めなければならんのだがな」
「貴方が丹下博士なんですか?」
「私の息子も博士じゃよ。今は息子に任せてある。しかし君に依頼したのは私じゃよ」
「ああそうですか、それにしても、なぜこんな所にいたんですか?」
「それは、こいつらが、小さい時、この場所でよく遊ばせたもんだ。だからここに来れば私に会えると思ったんだろう。この猿達にとって、この場所が一番の思い出だって事さ」
「分かりました。それでこの猿達はどうなるんですか?」
「そうだな、猿に悪気は無い。だが、今の丹下研究所に戻すのも問題が有りそうじゃ。だから私が顧問として研究所に戻ろう。まずはスタッフの教育から始めんとな」
「なるほど、それを聞いて安心しました」
「ところで君も、たまには研究所へ遊びに来てくれないか?」
「えっ、私がですか?」
「そうだとも、ポン太が士郎君の事を気に入ったようじゃ」
「本当っすか?」
「ああ、ポン太は、こう見えてもメスじゃからのう」
「はあ、いや俺は人間の女の方が……」士郎の額から大量の汗が出る。
「はっはっは、冗談じゃよ」
「フー!」
士郎にとっては、この会話が一番疲れたようだ。




