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山中湖畔にて

 少しだけ時間を遡って、三匹の猿がどんな事件を起こしたのかを見てみよう。

事件-1

 夕方、涼しくなった傾近くの別荘に住んでいる優子がアフガンハウンド犬を連れて湖畔を散歩していた。

 日の光に揺れる山中湖の波を見ながら、今日あった楽しい出来事を思い出しつつ、軽やかに歩いている。

 ところが、暫く歩いていると、前方にチェスターコートに、ソフトハットを目深に被った背の低い男が歩いてくるのが目に入った。

 何となくぎこちない、どこかおかしな歩き方だ。

 アフガンハウンド犬が、歩くのを止め警戒するかのように“ウー"と唸っている。

 優子は、助けを求めるように回りを見渡すが、近くには誰もいない。

 前方の男が肩を揺らしながらゆっくりと近づいて来る。

 優子は意を決したように、クルリと向きを変え、犬を連れて、もと来た道を戻ろうとした。

 ところが、ふり向くと、そこにもチェスターコートに、ソフトハットを被った男がいたのだ。

 すると、アフガンハウンド犬が、主人を守るように、その男に向かって飛びかかった。

 しかし、その小男は信じらないくらいの跳躍をして、犬の功撃をかわし、優子の頭上を飛び越えた。

 見ると、その男は優子のショルダーバックをいつの間にかひったくり、後を振り返る事もせずに、先程の男と二人で逃げて行く。

 更に、アフガンハウンド犬が"キャイーン“と言いながら地面に倒れ込んだ。

 見ると、何処からやって来たのか、何やら影のように黒い物が、素早く動き、湖の方に向かって四つ足に近い状態で走って行く。

 地面には、水に濡れた足跡が残っている。

 優子は恐ろしさのあまり、その場にへたりこんでしまった。


事件-2

 良く晴れた日、山中湖にレンタルボートを借りて釣りを楽しんでいるグループがいた。

 彼らは、3隻のボートに、それぞれ2人ずつ乗り込んで釣りを競い合っていたのである。

 この日は波も穏やかで、よく釣れた。

 そんな時、一人の竿に大物がかかった。

 「へへ、これは今日一番の大物だ。これを引き上げれば大逆転だ!」

 「さて、お前に釣れるかな?」

 「うーん、この引きは今までとは比べ物にならんぞ!」

 その男、足を踏ん張り、顔を真っ赤にして頑張っている。

 だが、その引きの力は尋常では無く糸がプツンと切れてしまった。

 「はっはっは、やっぱりお前じゃ無理だったな」

 そんな話をしながら笑っていると、異変が起きた。

 風も無く波も静かなのにボートが大きく揺れだしたのだ。

 「ど、どういう事だ!」

 「し、下に何か巨大な生物がいるようだ」

 あっと言う間に、ボートは引っくり返された。

 湖に放り出された男が叫ぶ

 「うわっ、何かが俺の足に触ったぞ!」

 「おーい、助けてくれー!」と、もう一人の男が他のボートに乗っている仲間に助けを求めた。

 顔は恐怖で青ざめている。

 直ぐに他のボートが寄って来る。

 「おーい大丈夫か、こっちに乗れ」

 一人の男が海の中へ引き摺りこまれようとしている。

 「俺の手につかまれ!」

 かなり強い力で引っ張られているようだ。

 船にいた男が水中で何か黒い物が見えたので、太い竿で思いっきり突っついてみた。

 すると、その黒い生命体は、引きずり込む力を弱めた。

 その隙に男を引っ張り上げるため、渾身のカを入れる。

 「今のうちだ、早く上がれ!」

 男は何とか命拾いした。

 「それにしても、山中湖にこんな巨大で凶暴な生物がいたか?」

 もう一艘のボートに向かって水中の黒い海獣が移動して行くのが見える。

 そのボートの上では、魚突き、所謂ヤスを持って構えている男がいる。

 その黒い生物が充分近づいた所で、ヤスを投げた。

 命中したかと思った時、そのヤスは空中で止まった。いや、正確に言えばその黒い生物の手が水中から出てきて、ヤスを握ったのだ。

 「な、なんだあれは?」

 「魚じゃあないぜ。5本指の手だ」

 ボートの上の男達は驚きで固まっていた。

 一方、水中では、ヤスを器用に操り、反転して、こちらに向かって投げてきた。

 その時一瞬、その生物の顔が見えた。

 「あいつは猿だ!」

 そう言った時、ヤスは、その男の頬を掠めて飛んで行った。

 「おい、こりゃあヤバイぞ」

 「逃げるぞ!」

 残った2隻のボートは、一目散に岸に向かって逃げて行く。


事件-3

 土曜日の夕方、山中湖にあるドライブインでの事。

 この日は、いつになく観光客で賑わっていた。それは、この土日にかけて、山中湖交流プラザにおいて様々なイベントが開催されるからである。

 男女のカップルやら、家族連れも多くいる。

 その中で、小さな子供連れの若い夫婦が、レストランで早めの夕食を済ませた後、駐車場に戻ってきた。

 「パパ、車の上の人はだーれ?」

 小さな子供が何を言っているのかなと思い、不思議に感じながらも、車の方を見ると、チェスターコートに、ソフトハットを被った小男がちょこんと車の上に座っている。

 父親は、恐る恐るその奇妙な格好の男に声を掛けた。

 「あのう、これは私の車なので降りてもらえませんか?」

 最近は物騒な世の中なので、兎に角相手を刺激しないように、低姿勢を貫いた。。

 チェスターコートの男は、ややうつむいていた顔を上げる。夕暮れ時ではっきりとした表情は見えないのだが、頑丈な白い歯を見せて、笑ったように見えた。

 「あなた、何だか怖いわ!」と奥さん。

 「ああ、どうしよう」主人の鼓動は高まるばかりだ。

 そう主人が言った時である。車の上の小男が、素早い動きで、降りて来たかと思ったら主人を突き飛ばし、車のキーを奪った。

 主人は、バランスを崩し、尻餅をつく。

 「まあ、あなた大丈夫!」

 「パパー、パパー!」子供も驚いて泣き出した。

 その混乱に乗じて、小男は車に乗り込み、エンジンをかける。

 車は動き出すが、周囲に駐車してある車に何度も衝突しながら、漸く方向転換をし、レストランや、土産物店に向かって進み出した。

 のんびりと買い物を楽しんでいた観光客も、車の暴走に気付き、その場は大混乱に陥った。

 その混乱した中を車は突き進み、ついに土産物店に突っ込んで行く。

 ガラスの割れる音、人々の悲鳴が聞こえる中、激突した車の中から、平然と小男が出てきて、持っていた大きな袋の中に、食べられそうな品物を次々と入れていく。

 そこへ警備員数人が警棒を持って、その小男を取り押さえようと、やって来た。

 そこへ店の屋根から何者かが飛び降りてきた。

 同じようにチェスターコートに、ソフトハットという格好をしている。

 その男が機敏に動き、店の品物等を手当り次第掴み、警備員達に投げつけてきた。

 更には近付いてきた警備員を引っ掻いたり大暴れをする。

 警備員は、その小男の動きについて行けず、防戦一方となる。

 もう一方の小男は、悠々と大きな袋に食べ物を入れ終わると、サンタクロースのようにその袋を担ぎ、半ば四つ足の動物でもあるかのような格好をして、湖の方へ逃げて行く。

 暴れていた男も、袋を担いだ男が無事に逃げたのを確認すると、素早い動きで店の屋根に飛び移り屋根づたいに移動して、あっという間に姿を眩ました。

 更に、袋を担いだ男は湖の岸へ辿り着くと、そこに浮かんでいたゴムボートに飛び乗った。

 そのボートには、オールやパドルましてやエンジンもついていないのに、なぜか意思があるかのように動き出した。

 その場にいた観光客の一人が望遠レンズのついたカメラで撮影していた。

 対岸まで着くと、小男が荷物を背負って陸に上がる。そして、更に水の中から全身黒い男が這い上がって来たのだ。

 カメラを覗いていた観光客が叫ぶ。「な、なんだあれは人間じゃないぞ。猿だ!」


 この事件が大々的にテレビで放映された。

 この報道を見た山梨の丹下生物学研究所の丹下博士が研究所から三匹の猿が逃げ出したという事実を告白したのだ。

 丹下博士によると、逃走中の猿の名は、ポン太、フー太、ミュー太と言う名前だそうだ。以下は丹下氏の言葉。

 「三匹の中で、最も頭が良いのがポン太で、今度の事件で車を運転したのがそうだ。フー太は、鷲の遺伝子を組込んである。一応羽のようなものが背中から生えているが、あるだけで役には立たんはずじゃ。ミュー太は、サメの遺伝子を組込んだ。水中でも呼吸が出来、サメのように泳ぎも上手い…」

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