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三匹の猿

 さて、このあたりで久々に士郎を登場させよう。

 彼は、大学と“なんでも屋稼業”の両立を目指し何とか頑張っている。大学では、気の合う仲間もできた。

 この日、士郎は学友の男3人、女2人で、カラオケ店で、喋り、歌い、飲み、かつ食べた。

 女子学生のエリナが歌い終えた。

 「あー、スッキリした。さあ、はくしゅー!」

 「エリナー、良かったわー、最高!」

 「あれー、男性陣はどうなってるのかな?」

 エリナが男性のテーブルの方を見る。なぜか、シーンとしている。

 「なんなのよ、無視する気?」

 それでも、男3人は動かない。

 「もう、士郎君てば!」

 次第に、エリナの声が険悪になってくる。

 エリナが、男性のテーブルに.近付いて行くと、士郎が左手を上げ、“待て"のジェスチャーをした。

 「ふざけるな、士郎君!」

 そう言ってエリナは、いきなり、士郎の脇を強く抓った。

 「いってー!なにすんだ!」と、士郎が叫ぶ。

 「それと同時に2人の男が息を吹き返したかのように、喋り出す。

 「イヤッホー、やったぜ!」

 「えっへっへ、士郎の負けだぜ!」

 「いやいや、今のは違うだろう。やり直しだ」と士郎。

 「武士に二言は無いんだろ」

 「そうだそうだ、負けを認めろよ!」

 「あんた達、何をしてるの?」エリナは、奇妙な動物を見るように、男達を見る。

 「えっ、ああ、俺達はこのカラオケの料金を誰が払うかを決めていたのさ」

 「まあ、どうやって決めてたのよ?」

 「それは、誰が一番長く息を止めていられるかを競ってたのさ」

 「そんな事で決めてたの、子供っぽい決め方ね。それも何で私が歌っている時なのよ!」

 「まあまあ、それは成り行き上そうなっただけで、特別意味は無いさ。うん!」

 エリナの頬っぺたが、これ以上ないかと思うくらい、ふくらんでいる。

 かなりヤバーイ雰囲気が漂ってきた。

 「まあ、いいからどんどん歌ってよ。今度はチャンと聞いてやるから、いいだろう」と、士郎もできるかぎり、低姿勢で言って見た。

 「ふん!」

 あまり効果は無かったようである。

 「エリちゃん、もういいんじゃない、お金払ってくれるんだし、思いっきり歌っちゃおう」

 と、ソノ子がふんわりとした雰囲気で言ってきた。

 その雰囲気が、功を奏したのか、エリナもその怒りが静まってきたようである。

 「それもそうね、じゃんじゃん歌っちゃおう」と、エリナは小悪魔のような笑顔を男達に向けた。

 男達は、ゾッとしたが反論する気にもなれなかった。

 「さあさあ、どうぞどうぞ!」と、飲み物や、お果子を女達に進めて、ひたすら低姿勢で頑張った。

 こうして、再び場を盛り上げるのに必死になったのだった。

 そこへ、士郎の携帯に電話が鳴った。

 「誰だ、こんな時に、おっ、善次郎のおやじだ。へへ、金が入るぞ!」、士郎はにっこりと笑った。

 「ちょつと、みんな失礼!電話、電話、えー、士郎です」

 「おい士郎、仕事だ。それも2件入った。一つは、飛鳥光一からのものだ。飛鳥は知っているだろう?」

 「えっ、あすか? ああ飛鳥光一だろ。良く知っている。確かパーフェクトベクトル、いや違うな、パーフェクトスマイル、いや、これも違うな….」

 「もういい、パーフェクトビクトリー社だ。それにしても、随分うるさい所にいるな」

 「ああ今、カラオケ店にいる」

 「おい、もうちょっと静かな所へ行ってくれ。うまく聞きとれんから」

 「えっ、何だって?」

 「バカもん! もっと静かな所へ行けと言っておるんじゃ!」

 「はいよう、了解、了解」

 士郎は、皆にジェスチャーで電話だから、この部屋から出ると伝えた。

 漸く静かな所を見つけて、「善次郎さん、ここなら静かだ。続きを話してくれ」

 「そうか分かった。ところで飛鳥からの依頼は、かなり特殊で危険なものらしい。自分で話しを聞いてから判断してくれ、断ってもいいんだぞ」

 「特殊で危険だって、面白そうじゃあないか、いつ話しを聞けるんだ?」

 「まあ慌てるな。その仕事は特殊な装置の修理が終らなければやれないと言っていた。それより急ぎの仕事がある。まずそれを片付けてからだ」

 「ほう、そうか。じゃあその話をしてくれ」

 「山梨に、丹下生物学研究所と言う所がある。実はその研究所から、三匹の猿が逃げ出した」

 「なんだ猿か。それなら俺でなくても出来るだろう」

 「そうじゃあない。それが普通の猿じゃあないんだ。研究所では、遺伝子組換え実験を猿に行いながら、将来人間に役立たせようとしている。その段階で猿はかなりの知能を獲得した。今では小学校の高学年ぐらいの知能は持っている。更に、水中で呼吸したり空で活動出来るように、サメや、鷲のDNAの組換えも行った。ただ鷲の組換え実験は上手くいっていないようだがな。こんな猿が飼育員の厳しい躾に反発して研究所を脱出したんじゃ」

 「へえ、ちょっと面白そうな話になってきたな」

 「それでその猿が、最近山中湖に出没するようになった。山中湖周辺には別荘や企業の保養所があるんだが、そこが荒らされている。それに観光客にも被害が出るようになった。地元の警察官が総動員されて捕まえようとしているが、頭も良く、身体能力の優れている猿にてこずっている。それでお前の登場って分けだ」

 「ふーん、猿を捕まえるのか。まあ、いいだろう」

 「お前には、麻酔銃を持って行って貰う。成功報酬は高いぞ!」

 「へへ、それを聞いて俄然やる気が出てきたぞ!」

 「よし、これで決まりだ。すぐ山中湖へ行ってもらう」

 「すぐになのか?」

 「そうだ、直ぐにだ!」

 「マジかよ。人使いが荒いなあ」

 「それだけ金を払うって事だ。いいな!」

 「分かった、分かった。行きますよ!」

 『残念ながら、今は人付き合いよりも金が優先だ!』、士郎は急いで頭の中で計算する。金が入るとなると、元気になる。

 そんな分けで、友人のいる場所へ急いで戻り顔を出した。

 「よっ、仕事が入った。すぐに出かける。わりいな、またキャンパスで会おう」と士郎。

 「おいおい待てよ、そりゃないだろう」と言っている間に、士郎は忽然と消えた。

 「まあ、士郎君たら!」

 「あのやろう、金はどうするつもりだ」

 と、残された者達が呆然としていると、何やら空中からヒラヒラと落ちて来たものがある。

 エリナが、自分のテーブルの上に落ちてきた物を手にした。

 「うん、これは封筒ね。開けて見るわよ」

 皆がその封筒に注目する。

 「おっ、金が入ってるぞ」

 「あら、手紙も入ってるわよ。えーと、良い仕事が入った。今日は俺が奢ってやる。みんな楽しんでくれ。士郎より」

 「あいつ、えーかっこつけやがって。でも助かるねー。ありがとう、士郎!」

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