人材探し
菊王丸は酒を一口飲んだ。
菊王丸の持丸達に対する長い話も、漸く終わりに近づいた。
「まあ、こういう訳で空から降ってきた燃える巨岩は全て、スペイン艦隊を直撃し、俺達は助かった。そして、お前達の奇妙な乗り物が、同じ空から現われた。黄金の龍が俺達の為に送り込んだんだろう。だから俺達に協力するんだ。それがお前達の宿命だ」菊王丸は、酒をもうーロ飲み、持丸達を見回した。
「中々面白い話しだ。確かに俺達は龍の目を見た。しかし協力しろとは言われていない」と持丸が言う。
「なに、協力出来ないというのか?」菊王丸が鋭い目を向ける。
「そうじゃあない。あんたの話しを聞いて概略は分かった。それに実に興味のある話しだ。特に日本の武士がアステカ帝国を助けに行くというのには驚いている。私は協力したいと思っている」
そう言って持丸は明智、羽柴、神田橋の顔を見た。
羽柴と神田橋は快諾した。
明智はやや躊躇していたようだが「選択の余地は無いようだな」と言って承知してくれた。
持丸は明智の肩を“ポン”と叩き「わるいな、付き合ってくれ」と言い菊王丸に向き直った。
「全員一致した。私達も協力しよう。アステカ帝国を守るために」
「はっはっは、それは良かった。先ずはこの船を修復しなければならんな。お前達も協力してくれ。明日から頼む」
一方、転送実験本部では、神藤が悩んでいた。
異世界で行方知れずになった持丸達を誰に救出させたら良いのかという事であった。
『うーん、これは大変な事だな。まかり間違えば、こちらの世界に永久に戻れなくなる可能性もある。さて、弱ったな』
神藤は、パソコンを使い人材データベースにアクセスしながら考えている。
さっきから、コーヒーを何杯飲んでいるだろうか。
胃に悪いと思いつつも、眠気を抑える為についコーヒーを飲んでしまうのだ。
いつも持丸達の事が頭から離れない。その為に夜眠れなくなる事も多いのだ。
疲れた時、行き詰まった時、デスクに置いてある、妻と娘の笑った写真が、渇れた心を癒してくれる。
また最近は大学で物理学を学んでいるミサも、時々研究室へ遊びに来る事もある。たまに鋭い質問をしてくる事もある。そんな時には丁寧に解説をしてやるのだが、それは神藤にとっても幸わせなひと時である。
そんな思いに耽っていると、突然ドアのノックの音がして、現実世界へ引き戻された。
ドアの向こうから「飛鳥です」という声がした。
「どうぞ」
そう言って入って来たが、飛鳥―人ではなかった。
飛鳥の後から顔を出した人物がいる。
「お父さん、私よ」
そうやって、愉快そうに手を振っているのは、娘のミサだった。
「なんだミサ、来ていたのか!」思わず神藤も顔がほころんだ。
「お父さん、最近ちょっとやつれていない?」
「お前の心配する事じゃあない」
「そうかしら、娘だからこそ心配するのよ。ちゃんと食事も取らないとね。お父さん、今日、お弁当忘れていったでしょう。ほら、持って来てあげたわ」
「おお、そうだったか、ありがとう」
「コーヒーだけで済まそうとしてたんでしょう」
「はっはっは、お前にゃかなわんな!」
神藤は久しぶりに、腹の底から笑ったような気がした。
「分かった、この弁当はちゃんと食べておくよ。さあ、ミサの話しはこれくらいにしよう。飛鳥君が困っているだろう」
そう言いながら、飛鳥の方へ向き直った。
「さあ、君の用事は何だね?」心なし、神藤の声に張りが戻って来たようだ。
「ええ、中々良い娘さんですね!」
「あまり誉めるなよ、調子に乗るからな」
「まあ、お父さんたら!」お茶を入れていたミサが悔しそうに言った。
部屋に皆の笑い声が響いた。
「ところで博士、実験室をこのように拡大したいと思います。今までの2倍程の大きさになります」
飛鳥は机に図面を広げながら言った。
「なるほど、という事は、ここにあったリフレッシュルームを潰す事になるんだな」
「そうです。許可を出して頂けますか?」
「ああ、構わんだろう。リフレッシュルームは、3Fにもあるから大丈夫だ」
「そうですか、じゃあこれで進めさせてもらいます」
「それで良いが、私にもその図面のコピーをくれないか」
「分かりました。直ぐに準備します」
飛鳥はそう言いながら、博士のパソコンの画面が気になった。
「博士、何か人材をお探しですか?」
「ああそうだ。用丸達を救出する為に誰に行って貰うか悩んでいる」
「それなら、私が良い人材を知っています」
「おう、そうかね。どんな人物だね」
「東藤博士を知っていますね」
「勿論だとも、核融合炉の第一人者だろ」
「そうです。意識不明になった東藤博士を救う偽に、一緒に戦った人物がいます。彼等なら、今度の救出にも打ってつけの人物だと思います」
「ほう、そうかね。名前を教えてくれないか?」
「ええ、それは、ジョー黒崎、それに城島士郎です」
「うん、二人だけかね」
「私も一緒に行かせてもらいますよ」
「君も行くのかね」
「勿論です。この3人なら百人力ですよ」
「それは頼もしいが、充分に気を付けてくれよ」
「分かってます」飛鳥の声には自信が溢れていた。




