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新たなる旅立ち 松浦水軍

 「菊王丸の奴、随分派手にやってるなあ」と十兵衛。

 「ああ、酷く燃えてるぜ。あいつら上手くやったかなあ」清十郎は、戦闘の様子を眺めながら難しい顔をしている。

 「菊王丸なら大丈夫。あいつは悪運が強いからなあ」と、次郎吉。

 彼等3人は、遠くに見える戦場の様子を眺めていた。

 それから暫くして、馬の蹄の音が近づいてくる気配を感じた。

 3人は、音のする方を注視する。

 彼等は、それが菊王丸である事を確認した。

 「おーい、菊王丸! こっちだ」と、清十郎が手を振りながら叫ぶ。

 いつもの菊王丸なら元気な声で応答するのだが、この時ばかりは返事が無い。

 馬は漸く彼等の前で止まるが、菊王丸の顔がまっさおである。

 「どうした菊王丸、やられたのか?」

 「ちょつと気分が悪い。少し休ませてくれ。追っ手は来ていないはずだ」菊王丸は、少し馬からふらつきながら降りてきた。

 「木陰に休ませてあげて下さい」馬の後に乗っていたモスカーニャが言った。

 「菊王丸、お前何処か斬られているのか?」と清十郎が心配そうに尋ねる。

 十兵衛と次郎吉は、他に追っ手が来ないか周囲の気配を窺っている。

 菊王丸は、木の根本に寄りかかり、胸からペンダントのような物を取り、清十郎に見せた。

 「こいつが鉄砲から俺を守ってくれた」

 清十郎は、渡されたペンダントを見て驚いた。

 それは、円形をしていて、表裏に綺麗な幾何学模様が描かれていた。ただし、強い力でへし折られていたのだ。

 「そうかこれに鉄砲の弾が当たったんだな!」

 「そうだ。前日にモスカーニャから、これが命を守ると言われたんだ。単なるお守りかと思って首から吊る下げていたんだがね」

 「ほう、まさかこうなる事が分かっていたのか?」と、清十郎はモスカーニャの方に顔を向けながら言った。

 モスカーニャは、不思議な笑みを浮かべながら少し頷いた。「アステカの神がそうしろと、そして、そうすればマゼランも諦めるだろうと……」

 「うーん、お前の神は未来が見えるらしいな」

 「全てはアステカ帝国を守る為」

 「そうだな。お前は国を守るために、自分の身を捧げているんだよな。武士道の精神にも通じる所がある。てな分けで、俺達もそれの手助けをする事になったんだ。はっはっは、人生とは面白いものよ!」

 暫くの後、モスカーニャは、静かにその場を離れ、小さな器に湧き水を入れて戻ってきた。

 その器を手の平に置き、何やら唱えている。

 その後、菊王丸に向かって、静かな口調で言った。

 「菊王丸様、これをお飲み下さい。楽になります」

 菊王丸は、うっすらと目を開け「これは水か。喉が渇いていた所だ」と言いながら、無造作に器を取った。

 「おう、これは上手い。五臓六腑に染み渡るとは、まさにこの事か?」

 「もう少しで、元気になりますよ」

 「ふん、ならいいがな!」


 小一時間ほどして、次郎吉が叫んだ。

 「おい、マゼランの艦隊が通って行くぞ」

 「あまり、大きな声を出して、気付かれるんじゃあないぞ!」と十兵衛。

 「マゼランには世話になった。別れの挨拶もできなかったな」と菊王丸。

 「貴方は、マゼラン様の為に充分過ぎる程貢献した。それで満足でしょう」と、モスカーニャ。

 「それにしても菊王丸、声に張りが出てきたな!」と、清十郎。

 「おうそうだ。元気になったぞ。日が暮れない内に行くか」

 「よし、そうしよう」

 「よっしゃ、そうこなくっちゃ」次郎吉が嬉々として叫ぶ。

 「おい、次郎吉! 声がでけえんだよ!」と、しかめっつらの十兵衛が言う。

 菊王丸は、皆のやり取りを面白そうに聞いていたが、やおら立ち上がった。ふらつきは無くなっている。

 「次郎吉、案内してくれ!」

 「あいよ、付いてきてくれ!」

 暫くすると、海岸辺りに到達した。

 そこには、10人乗り程の小舟が係留されている。

 「モスカーニャさん、気を付けてくれ」と十兵衛。

 「ようし、目指すはルバット島だ。あそこに俺達海の待の未来がある」と清十郎。

 清十郎は、未来ってのは、ちょつと大袈裟かなと思って照れ笑いをするが、次郎吉も、十兵衛も、突っ込みを入れて来なかったので、安心した。

 「マゼランには、見つかるな!」と、菊王丸が念を押す。


 やがて空が赤く染まる傾、舟は、ルバット島を迂回していた。「さあ、あと少しだ、頑張ろう」清十郎が、皆を励ます。

 やがて大きなガレオン船が見えてきた。

 そこで十兵衛が空に向かって空砲を放つ。

 その音に呼応して、多くの者がデッキに集まってきた。その内の一人が望遠鏡を覗いている。やがて、その男が何事かを指示すると、縄梯子が準備された。

 デッキでは、多くの人が手を振っている。

 「さあ乗り込もう。俺達の船だ。そして菊王丸、お前が船長だ。頼んだぞ!」清十郎の声も高揚しているようだ。

 「おうさ、やろうぜ」菊王丸に、海の待の血が騒いでいる。

 『この船と、積んである大砲、鉄砲の訓練をしてきた仲間がいれば、日本の戦国時代を終わらせる事も可能だろう。だが今はアステ力だ』

 船に乗り込んだ菊王丸は、"八幡大菩薩“と書かれた旗をあげさせた。

 「我らは松浦水軍、目的地は、アステカ帝国だ!」

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