表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/71

モスカーニヤの秘密

 さて、モスカーニャの最終目標はアステカ帝国を滅亡から救う事だ。その為にある人物に会う為に白人の船に乗り込み、やがてマゼランに出会った。そして、マゼランに信頼してもらえるように、その霊力を使って出世させる事にも成功した。

 そして、ついに目標の男と思われる菊王丸と出会い、彼に航海の技術を身に付けさせた。更に、彼が乗る船の準備もほぼ整ってきている。

 アステカ滅亡迄の時間は迫っている。ぐずぐずしている時間はあまり残っていないのだ。

 だが問題がある。

 マゼランは、菊王丸を気に入っている。簡単に彼を手放さないだろうということだ。


 このところ、ポルトガル反対勢力の動きが活発になってきている。

 特に、この前、打ち破ったマラッカ王の残兵が中心となり、不穏な動きをしているのだ。

 最近になって、マラッカ海峡を通過するポルトガルの船が襲撃される事件が相次いでいる。

 そこで、ポルトガルの総督が、マゼランに対し、その一味を掃討せよという命令が下ったのだ。


 「マゼラン様、今度の戦いは極めて危険です。相手は何か特別な兵器を用意しているようです」モスカーニャは、表情を変えずにマゼランに忠告した。

 「戦が危険なのはいつもの事だ。それに私はポルトガルの軍人だから断る分けにもいかんからのう」そう言いながら、自信に満ちた笑顔を見せた。

 「その自信が命取りになりますよ」

 「なら、どうしろと言うのだ?」

 「戦場においても私を傍において下さい。そうする事で、危険を近寄らせません」

 「なに、お前が戦場にまでついてくるというのか?」

 「はい、どうしても、マゼラン様には生きていてもらわなければなりませんから。こんな戦で死ぬような人ではありませんよ」

 「それほど言うのなら、ついて来い。お前こそ死ぬな!」

 それを聞いたモスカーニャは、意味ありげに微笑した。


 マゼランは、ガレオン船5隻を用意しマラッカ海峡へ向かった。勿論、菊王丸もこの掃討戦に加わっている。

 この日、天気は穏やかで、波も静かである。

 マゼランは、甲板に立って部下達に様々な指示を与えている。その傍らには、菊王丸が影のように寄り添っている。

 突然、マゼランが菊王丸に話し掛けてきた。

 「2年の契約期間は過ぎた。どうだ、今後も私と一緒にやろうではないか。面白い人生になるとは思わんか?」

 「面白い人生、それには意義はない。だが他の道を選んだら、もっと面白いかもしれん。それは誰にも分からんさ」

 「そうだ、誰にも分かりゃあせん。もっと悪い人生だって有りうる。だがな私についてくれば、お前に副官としての地位を与えてやる。だから、今より悪くなる事は絶対にない」

 「なるほど、考えておこう。ただ後で後悔するような人生にはしたくはないんでね!」

 その言葉を聞いて、マゼランは笑いながら菊王丸の肩を叩き「私を裏切ったら承知しないからな」と言った。

 冗談とも取れるような言い回しだが、マゼランの目は、決して笑ってはいなかった。

 菊王丸も、その表情を見逃す事は無かった。


 やがて、マゼランの艦隊は、マラッカ海峡へ倒達した。

 マゼランは、望遠鏡を覗きながら、何処かに敵が潜んでいないかを確認している。

 不意に、マゼランの背後から女の声がした。

 「マゼラン様、ここは危険です。あの小さな島の影に隠れて下さい」

 「何が危険なものか。近くに敵影は見えんぞ!」

 「敵は、マゼラン様が思っているほど、近くにはおりません」

 「遠くにいれば、我々に直接危害が及ぶ事はあるまい」

 マゼランが、、そう言い終わらない内に、遠くの方で、爆発音がした。

 「今のは何だ!」マゼランに以外な表情が現われた。

 「マゼラン様、砲弾が飛んで来ます」

 直後、“ピュー“という風を切る音がしたかと思ったら、後方のガレオン船に巨大な砲弾が着弾した。

 着弾したガレオン船は、たったの一発で、航行不能となってしまった。

 その砲弾は、重さ300kgはある桁違いに大きな石弾であった。

 それを見たマゼランは、ある事を思い出していた。

 『もしやあれは、東ローマ帝国のコンスタンティノープルの壁を破壊したという、伝説のウルバンの大砲では? もしそうなら射程は1.6kmはある』

 それでマゼランは、再度望遠鏡を覗いて見た。

 「あったぞ、あんな高台に2つ設置しある。それにあの砲身の長さから、やはりウルバンの大砲だろう」

 「さあマゼラン様早くあの島影へ隠れて下さい」

 「分かった、モスカーニャ!」

 そうしている間にも砲弾が飛んで来て、2隻目、3隻目が破壊されていく。

 「くそっ、手も足も出んのか!」

 「マゼラン、あれを見ろ。敵兵が森の中や、海岸に並んでいる小屋の中から出て来たぞ!」

 沈没寸前の船から海に飛び込んだ兵士が、漸く陸に上がると、敵兵が襲いかかる。

 こうして、ポルトガル兵の死骸が増えていく。

 ガレオン船の大砲で応戦しようとしても、島の影から出れば、ウルバン砲の餌食となってしまうのだ。

 「マゼラン、灯油はあるか?」と、菊王丸が問う。

 「灯油ならあるが、どうするつもりだ!」

 「小船を使って上陸し、灯油を撒いて火弓で小屋も森も焼き尽くす。しかも、それで黒煙でも出りゃあしめたものだ。こっちにも、勝目が出るぞ!」

 「そうだな、どっちにしろ、このままじゃあ負ける。やってみよう!」マゼランも意を決した。


 暫くの後、菊王丸は小船を用意し、その中へ灯油の入った樽を載せた。そこに、菊王丸の他、数人のポルトガル兵が乗っている。その中には、ミゲルや、剣技を競ったマルティノスもいる。

 小船は、島の影から出ると、直ぐに鉄砲が撃ち込まれてくる。

 「姿勢を低くしろ!」菊王丸が叫ぶ。

 だが、そのしゅん間にも、1人の兵士が胸を撃たれて、海に転落した。

 菊王丸は、その兵士に手を差し伸べたが、それも空しく、海に沈んで行く。

 『くそっ、あとは時の運に任せるのみ!』

 そう言って、自分を奮い立たせた。

 こうして、何とか陸へ辿りつく。

 マルティノスが、樽を軽々と持ち上げて、走り出す。

 そこへ多くの敵兵が剣を持って、駆け寄ってくる。

 菊王丸や、ミゲルそして、その他の兵士がマルティノスを守りながら走る。

 目標の小屋までは、100メートル程ある。

 菊王丸も、剣を振るいつつ走る。

 残り50メートル。

 そして10メートル。

 鉄砲が菊王丸の左肩を掠める。だが痛みは感じない。

 周りを見ると、兵士が次々に倒れ、見れば菊王丸とミゲルそしてマルティノスの3人しか残っていない。

 マルティノスの担ぐ樽にも弾丸による穴が開いており、灯油が流れ出している。

 ついにマルティノスは、小屋に向かって樽を投げ飛ばし、油をぶちまけた。

 そしてミゲルは、素早く火打石を使って、油の染みた布に火をつけて油のかかった小屋へ、投げつけた。

 その間も襲い来る敵兵に対し、菊王丸が立ちはだかり、その攻撃を悉く防いでいた。

 自分達の仕事をやり遂げたミゲルと、マルティノスも菊王丸に参戦してくる。

 そして、炎も次第に勢いを増し、遂に森林にまで燃え広がっていった。

 黒煙も、大きく広く立ち登っていく。

 こうなると、遠方から撃って来るウルバン砲の命中率も悪くなる。

 そこを見計らって、漸くマゼランの船が島影から抜け出し、海から大砲を撃ちながら敵兵に脅威を与え始めた。

 こうなると、上陸していた、ポルトガル兵も元気を取り戻し、次第に敵兵を圧倒していく。

 菊王丸は、今ならウルバン砲台まで掛け登って破壊できるだろうと思った。

 「ミゲル、マルティノス行くぜ!」

 砲台までは、細い道がつながっているが、相手から狙われやすい。

 そこで菊王丸は、木の生い茂る道なき道を進んで行く。

 「菊王丸、俺は一度ここに来た事がある。俺に先導させてくれ」とミゲル。

 「おう、流石はミゲル。方々遊び歩いたって分けか」と、マルティノスが茶化す。

 「ちっ、お前程じゃあねえよ!」

 「さあさあ、無駄口はたたかず、とっとと行くんだ!」イラっとした菊王丸が怒鳴る。

 「まあまあ、そんなに怒るなって!」

 砲弾や鉄砲それに人々の声が聞こえてくる中を、3人は必死にかけ登る。

 突然、菊王丸の前を走るミゲルが悲鳴と共に忽然と消えた。

 洞穴である。

 咄嗟に体が反応した菊王丸が、ミゲルの手を掴んでいた。

 更に後にいたマルティノスが穴を覗き込んで絶句した。

 穴の底には、鋭く尖った竹が何本も刺さっていた。

 そのまま落下すれば確実に死ぬところだった。

 マルティノスも手を貸してミゲルを引っ張り上げた。

 「ふう、危ないところだった」

 「はっはっは、もう少しで、お前のバカ面が見れなくなるところだった」

 「バカ面は、余計だ!」

 「さあ、もう少しだ。頑張って行くぞ」菊王丸が汗を拭いながら言った。

 暫く進むと人の気配がしてきた。

 「ちょっと待て。かなり近くまで来ているはずだ。確認してみよう」

 菊王丸は、そう言うと、木々を掻き分けながら砲台のある方を眺める。砲台は、三人のいる場所の足下にあった。

 「この大砲は化物だな。これじゃあガレオン船も敵わん筈だ。それに人が大勢いる。3人じゃ無理だな。さてどうしたものか」

 もう少し冷静になって、周囲を観察する。

 「馬が数十頭いる。あれだけの荷を運ぶのに使われたんだろう。それに、荷車がついたままの馬もいる。そしてだ、木の枠で囲まれた中に巨大な砲弾が山のように積まれているじゃあないか。フフ、面白くなってきたぞ」

 何やら菊王丸の頭に閃きがあったようだ。

 菊王丸は、急いで二人が居る場所に戻ってきた。

 「予想以上に多勢の人数がいる。3人だけじゃ勝ち目は無い」

 「それでどうするつもりだ。このまま帰るのか?」と、マルティノス。

 「それにしちゃあ菊王丸、やけに楽しそうじゃねえか?」とミゲル。

 「ヘヘ、分かるか。一緒に楽しもうぜ!」

 「お前という奴は、怖い男だな。それでどうする?」と、ミゲルも笑っている。

 「まずミゲル、お前、火打石を持ってるな?」

 「ああ、持ってるぜ。また火攻めなのか?」

 「ああそうだ、それが一番いい。それにマルティノス、お前のシャツを借りるぞ」

 「なんだと、俺のシャツだと……。そうか、俺のシャツには灯油がいっぱい染み付いている。ヘヘ、よく燃えるぞ」

 「そうだ、漸く分かってきたようだな」

 マルティノスは上着を脱ぎ、ミゲルは、火打石を準備した。

 「よし、準備はいいな。奴らが見える所まで移動するぞ」


 「よし、ここなら良く見えるだろう」


 すると、突然大きな爆発音が響く。

 「くそっ、脅かしやがって!」

 「あいつら、ー発打ちやがった」

 「だが、見ろよ、向こうは黒煙で全く見えん。めくら撃ちさ」

 「奴等も大分焦っているという事だ」

 「ゆっくり見学している場合じゃあねえ、こっちの準備はどうだ?」と菊王丸。

 「へいへい、分かってますよ、親分!」

 ミゲルは、そう言いながら、マルティノスから渡された上着に火をつけた。

 「さーてと、こいつをあの荷車の上に落とせばいいって分けだ」

 そうして、目標の荷車に投げようとして身を乗り出す。

 ところが、ふっとミゲルの姿が視界から消え、“ウワー”という悲鳴が聞こえる。

 「バカな、ミゲルの奴、転げ落ちたぞ!」

 「あいつはいつも肝心な時にミスをする」


 下では、大きな悲鳴に驚き、敵兵が剣を振り上げてミゲルに迫って行く。

 ミゲルは、急いで燃えた布を荷台へ向けて投げ、腰から剣を抜いて身構えた。


 その様子を見ていた菊王丸も、抜刀しながら、駆け下りて行く。

 当然、マルティノスもそれに続いた。

 やがて、荷台に火が燃え広がり、数十頭の馬が暴れだす。

 人と馬が入り乱れ大混乱に陥っていく。

 菊王丸は、砲弾が積み上げられている木枠に向かって走り、刀を振り降ろして破壊した。

 更にマルティノスが怪力を使って砲弾を押すと、ついに、木枠は耐え切れず、砲弾が転がりだした。

 その砲弾が多くの敵兵を飲み込んで行く。


 一方のミゲルは苦戦していた。

 敵兵数人に囲まれている。何とか打ち込んでくる剣を弾き返しているが、時間の問題だ。

 体力も消耗し、息も乱れている。

 ミゲルの正面にいる男が、猛然と襲い掛かってくる。

 ミゲルも、弱々しく、剣を持って防戦の構えを見せるが、内心、もうダメだと思っていた。

 ところが、その男がミゲルの目前で倒れた。

 「おいミゲル、手を出せ!」

 ふと見ると、馬に乗った菊王丸が、手を差し伸べている。

 「遅いぞ、菊王丸!」ミゲルの顔に生気が甦る。

 「贅沢を言うな、こっちも忙しくてね」

 こうして菊王丸は、ミゲルを馬の後に乗せて救い出した。

 「助かったぜ。ところで、マルティノスはどうした?」

 「あそこを見てみろ!」

 マルティノスもまた馬を奪い、敵を蹴散らしているのが見える。

 「よし、あそこまで行って、一緒に脱出だ。それにこの有り様じゃあ、この砲台は、もう使えまい!」

 見れば、この砲台の周辺は火の海と化している。


 さて、マゼランの方も、ウルバン砲の脅威が去った今、完全に優勢となっている。

 マゼランによる掃討作戦も、ほぼ成功したと言っていいだろう。

 だが、マゼランの艦隊も、かなりの痛手を負っている。

 5隻あった船の内、2隻は沈められ、1隻は航行するのが、やっとという状況だ。それだけウルバン砲の威力が凄まじかったという事になる。

 近くの森にまで広がった炎は、末だに燃えていて、辺りには黒煙が漂っている。

 敵の残兵もこの煙の中に潜んでいるかもしれないのだ。

 マゼランも、この光景を見ながら敗者と勝者は紙一重である事を痛感した。

 「モスカーニャ、今日の勝因は菊王丸よ。あの男がいなければ、わしの命運も尽きるところであった。船を降りて、あいつを迎えに行こう」

 「マゼラン様、まだ危険です。このまま船にいて下さい」

 「何を言うか、今日の英雄を迎える為じゃ」

 「その強情な所がマゼラン様の良い所。仕方がありません、私が貴方の盾になりましょう」

 「お前も来るのか? お前も強情だからのう。勝手にするがいい。わしの名が歴史に残るのなら、ここで死ぬ事はあるまい」そう言って、豪快に笑った。


 こうして、マゼランは上陸し、適当な大きさの石を見つけて座って待つ事にした。

 傍らには、モスカーニャと、数人の兵士が守っている。


 やがて、黒煙の中から馬の嘶く声が聞こえてくる。

 マゼランが、その方向を目を凝らして見つめる。

 暫くすると、騎馬に股がった男の姿を確認できるまでになった。

 馬は2匹、先頭の馬には2人が乗っている。

 馬上の男たちも、マゼランに気付いたらしく手を振っている。

 「はっはっは、あれは菊王丸とマルティノスそれにミゲルではないか。良くやったぞ!」マゼランが、快心の笑みを浮かべた。

 その時である、”バーン”という一発の銃声が響き、菊王丸と思われる男が落馬した。

 大きな岩影に敵兵が隠れていたのである。更に今度は銃口をマゼランに向け発砲した。。

 だが倒れたのはモスカーニャだった。

 女性の動きとはとても思えないスピードで、マゼランの前に立ち塞がったのである。

 「あの者達を許すな!」とマゼランが絶叫する。

 「マゼラン様、ここは危ない、向こうへ行きましょう」一人の兵士がマゼランの手を引っ張り、他の兵士は銃を構えて、撃ち合いになった。

 そこへ、「菊王丸とモスカーニャを救え」と言うマゼランの怒声が聞こえてくる。

 風向きが変わる。

 黒煙が辺りを覆った。


 数時間後、マゼランは、船上にいた。

 掃討作戦は成功した。だが、最大の功労者である菊王丸とモスカーニャを失った。大事な人を失ったという喪失感がマゼランの気持ちを重いものにさせていた。

 「いったいどういう事だ。菊王丸とモスカーニャの遺体がなぜ見っからん。ミゲル、答えて見ろ」

 「俺にも分からん。銃声が響き、同時に菊王丸が撃たれて落馬した。驚いた馬が、そのまま走り続けた。何とか馬をなだめて戻って来た時には、黒煙で何も見えなくなっていた。マルティノスと一緒に必死で探したが、何処にも見あたらなかった」

 「同じように、モスカーニャも不明だ。モスカーニャが撃たれた時、彼女の血飛沫を浴びた。恐らく生きてはいないだろうが、これでは手厚く葬ることも出来ないではないか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ