表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
48/71

騙し打ち

 その後、菊王丸はマゼランの側近として活躍した。

 当時ポルトガルは、インド洋の覇権をめぐってイスラム勢力と争っていた。

 1508年、インド西部にあるディウ島沖でイスラム勢力の200隻の大艦隊を発見した。

 対するポルトガルは、19隻の艦隊である。明らかに劣勢であるにもかかわらず、果敢にも功撃を仕掛けていった。

 当時ポルトガルの軍艦は小回がきき、大砲による火力も強力であり、数において劣勢ではあっても互角に戦い勝利に導く事が出来た。

 しかし、危ない場面も幾つもあった。

 イスラム教を奉じる彼等は、叩かれても叩かれても前に進んで来る。

 大砲や小銃で傷つきながらも、ついにマゼランのいる船に乗り込んで来た事があった。死を覚悟しての彼等の奮戦ぶりには凄まじいものがある。

 マゼランも剣を持って戦わざるを得ない状況に陥った。

 その時、菊王丸は鬼神の如く戦い、マゼランは負傷したものの何とか守りきった。

 ただマゼランの負った傷は以外に深く、五ヶ月間の入院を余儀なくされた。

 更に1509年には、ポルトガル遠征隊はマラッカへ行き、マラッカ王に交易と商館の建設の許可を得た。

 その為、ポルトガル人の多くがマラッカに上陸し歓待を受けた。その夜は酒を飲み、歌い、踊った。

 モスカーニャは、危ないと言って止めたのだが、マゼランは、この時ばかりはその忠告を受け入れなかったのである。

 そこでモスカーニャは菊王丸を呼び、警戒を怠るな、マゼランの命を守れという指示を受けていた。

 この時には、菊王丸もモスカーニャの不思議な力を信じるようになっていた。

 皆が騒いでいる中で、一人菊王丸だけは冷静だった。

 マゼランも、陽気に振るまっている。

 暫くすると、酔いつぶれる者も出てきた。

 菊王丸に、絡んでくる者も出てきたので、外の空気を吸おうと建物から出る。

 夜空を見上げながら深呼吸する。

 『モスカーニャよ、何も起こらんじゃあないか!』、そう思いながら再び建物の中へ入ろうとする。

 だがその時、風に乗って、遠くの方から大勢の声が聞こえたような気がした。

 その為、念のため地面に耳をつけて確認してみる事にした。

 菊王丸の顔色が変わる。

 この建物の周囲から、おびただしい数の足音と武器の音を確認したのだ。

 『くそっ、包囲されるぞ』

 菊王丸は、急いで建物の中へ入りマゼランに危険を知らせた。

 陽気にしていたマゼランの顔が、戦闘モードに変わる。決断すれば彼の行動は素早い。

 そこにいた者達に大声で号令を発し、建物の外へ飛び出る。

 「こっちに行こう。こちらの方が幾分手薄になっている」菊王丸が叫ぶ。

 「そうか、お前が先頭を走れ!」

 「任してくれ!」

 暫く走ると、多くの人影が見えてきた。松明を持っている者も大勢いる。

 向こうも、こちらを認識したのだろう無数の矢が飛んできた。

 「マゼラン、俺の後にいてくれ。矢を防いでやる」

 菊王丸は、刀を抜くや飛んでくる矢を切り伏せていく。

 だが周りを見ると、多くの仲間が矢の餌食となり、傷つき倒れる者も多い。

 やがて矢の功撃が止むと、剣を振り上げながら突進してきた。

 「中央突破するぞ!」マゼランも剣を抜き放って言った。

 菊王丸達は、混戦になりながらも、前へ前へと突き進む。

 敵は、倒しても倒しても後から後から湧いてくる。

 菊王丸も、体力が続くかどうか心配になってくる。

 それでも力の限り戦い、マゼランを守っていく。

 味方もまた散り散りになっていく。

 菊王丸も、ここが死に場所と覚悟した。次第に息も荒くなってくる。

 菊王丸も、マゼランもついに足が止まった。

 彼等の周りを敵が囲む。

 「どうするマゼラン、降参するか、最後まで戦うか?」

 「俺は降参などしない。名誉の戦死を選ぶ」

 「分かった、最後まで付き合うぜ!」

 二人は、最後の力を振り絞り、突進する。


 その時である、多数の鉄砲の発砲音が響き、続いてポルトガル兵の突撃ラッパの音が轟いた。

 「援軍が来たぞ!」マゼランが叫ぶ。


 二人を囲んだ敵兵は、浮き足立ち、退却を始める。

 「へへ、やったなマゼラン。助かったぜ」

 「はっはっは、命運は尽きていなかったな」

 散り散りになっていた仲間も手傷を負いながらも二人の周りに、集まって来る。

 みんな酷い姿をしていたが、一様に安堵した顔をしている。

 「さあ、船に戻るぞ!」

 彼等は、疲れた体を引き摺りながら、海へ向かう。

 だが、不思議な事に援軍に出会う事も、すれ違う事もない。

 霧が出て来ている。

 「おかしい、援軍は何処にいる。気配も感ずる事もない」マゼランの顔に疑問の表情が浮かんで来る。

 「静かに、誰かいるぞ!」菊王丸が、注意を促す。

 「敵か?」皆に緊張が走る。

 「いや違うだろう、一人の気配しか感じないからな」菊王丸が言う。

 「だが油断するな」

 菊王丸が霧を透かして見る。

 「いるぞ、あそこに誰かいる」

 その者は、静々とこちらに向かって歩いて来る。

 まるで雲の上を、滑っているかのように。

 「お、お前は誰だ!」誰かが叫ぶ。

 暫くの静寂が続く。

 「ふふふ」女の笑い声が聞こえてくる。

 「そ、そこで止まれ」怯えた兵士が叫ぶ。

 「ふふふ、何を怖れているのですか? マゼラン様」不思議な抑揚を持った女の声だ。

 マゼランの顔に笑みが浮かぶ。

 「なんだ、モスカーニャだな」

 「マゼラン様、お迎に参りました」

 「援軍は何処に行ったんだ?」

 「援軍ですって、そんなものはいません」

 「なんだと、確かに鉄砲の発報音と我が軍の突撃ラッパを聞いた」

 「ふふふ」女は笑うだけだ。

 「なにがおかしい。……まっまさか、あれはお前がやったのか?」

 「ふふふ、マゼラン様が私の忠告を聞かないものですから、仕方ありませんわ」

 「なっなんと、あれはお前の幻術なんだな」

 「ふふふ」女は笑うだけでまともに答えない。

 「お前という奴は……」そう言いながらマゼランも笑った。

 「ふふ、とにかく助かったよモスカーニャ!」


 この戦いでポルトガルは、60人前後が戦死し、24人が捕虜となっている。

 マゼラン達の素早い行動がなければ、被害はもっと大きくなっていただろう。

 この功績が認められ、遂に正式に船長の位を与えられたのである。

 2年後ポルトガルは、再び16隻の艦隊を投入し、マラッカを陥落させている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ