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剣技のテスト

 菊王丸が、マゼランと会ってから2時間後。

 多くの船員たちが、船から降りて広場に集まり、大きな輪を作っている。

 そして、その輪の中には、菊王丸と、それに対峙して2メートルを越す金髪の男が上半身裸で立っている。そして両手には、カットラスと呼ばれる剣を持っている。

 サーベルが陸の剣とすれば、カットラスは海の剣だ。船上でも扱いやすいように出来ている。

 菊王丸は刀を鞘に収めたまま、腕組をしたままだ。

 周りの船員や兵士達は、今か今かと、戦いが始まるのをガヤガヤしながら待っている。

 その中に、お調子者のミゲルがいて、隣で心配しているマリに話し掛けている。

 「おいおい、菊王丸もついていないなあ。あのマルティノスという男は、手加減しない男だ。かわいそうに」

 「まあ、そうなんですか。何とか無事でありますように!」マリは両手を合わせて祈るような格好をしている。

 「それにしても、モスカーニャは何を考えているんだ」

 「そうそう、あのモスカーニャってどういう人なの?」

 「あいつは、占星術師のようだ。なにしろその占いで、敵の裏をかいて、戦いに勝利したという専らの噂だ。だからマゼランは、彼女の言う事を良く聞くようだよ。なにしろマゼランが出世できたのは、彼女のおかげらしいぜ」

 「ふーん、そうなの。それで何か不思議な雰囲気を持っているのね。なんか騙されているんじゃあないかしら?」

 「さあな、何を企んでいるか分からんが注意した方がいいぜ」

 マリは、神妙な顔付で頷いた。


 そこへマゼランの大きな声が聞こえてきた。

 「ようし、試合を始めるんだ」

 同時に周りの見物人から二人に向かって色々な言葉が投げかけられた。

 「いよ、マルティノス負けんじゃあねーぞ!」

 「ひねり潰せ!」

 「菊ちゃんも簡単に負けないでね!」


 マルティノスは、猛牛のような勢いで突進して来る。

 だが、菊王丸は腕を組んだまま動かない。

 マルティノスが充分接近した所で、右斜め上から振り降ろす。

 それを体を半回転してかわすが、すぐにマルティノスの左の剣が突いてくる。

 それを見ていた見物人の多くが菊王丸が刺されたと思った。

 「なんだもう終わりか」

 「たいしたこたあねえな!」

 「菊王丸さまー」マリが絶叫する。

 だが、菊王丸は倒れない。

 どうも様子がおかしい。

 よく見ていた見物人が一人、「ゃ、やつはやられていないぞ!」

 菊王丸は、刀の鍔でマルティノスの剣を受け止めていたのだ。

 「格好つけやがって! 早く剣を抜いたらどうだ」

 マルティノスのドスの効いた低い声が聞こえる。

 菊王丸は、ニヤっと笑い、軽く受け流す。それでも、刀は抜かない。

 イラっとしたマルティノスは、右の剣を大きく頭上から振り降ろす。

 菊王丸は、それを両手で受け止める。いわゆる真剣白刃取りである。

 そのまま剣を引き寄せて、相手の体勢を崩し、足でマルティノスの首を蹴り上げた。

 マルティノスは、たまらずしりもちをつく。

 "おー“というどよめきがわき上がる。

 マルティノスも、直ぐに立ち上がり、今まで以上に二つの剣を操って鋭く斬り込んでくる。

 菊王丸は、それでも、刀を抜かずに変幻自在に動きしながら、剣の間をすり抜けて行く。

 南国の太陽が容赦なく照りつける中、マルティノスの体から汗が吹き出てくる。

 対する菊王丸は、涼しい顔をしている。

 マリは、この光景を見ながら、ただただ無事に終わる事を祈っている。

 ついに、マルティノスの足が少しもつれるようになってきた。それでも、前へ前へと向かって来る。

 それを冷静に観察していた菊王丸は、ついに刀の柄に手をかけて、身構えた。

 マルティノスが無造作に剣を振ってきたその瞬間、菊王丸の刀が宙を舞う。一閃、二閃。

 次の瞬間には、すでに刀は鞘に収まっていた。

 マルティノスも、見物人も、何が起こったのかよく分からない。

 だが、マルティノスの左の剣が真二つに折れていた。

 「くそっ小僧、やりやがったな!」そう言いながら、右の剣で斬りかかろうとした時、その剣も根元から折れた。

 それを見たマルティノスは、愕然とした。

 「ふふ、勝負あったな!」菊王丸が余裕の表情で言う。

 対するマルティノスは、それでも口元に笑みを浮かべながら「まだだ」と言った。

 「なんだ負け惜しみか?」と切り替えしたが、どうもそうでもないらしい。

 次の瞬間、菊王丸は回転しながらジヤンプし、刀を抜き放ち、空を斬った。

 見ると、矢が地面に転がっている。

 見物人達の誰かが矢を放ったようだ。マルティノスが負けそうになった時は、矢を放つように決めていたらしい。

 度肝を抜かれた見物人は、声も出ず、静寂が辺りを包む。

 「お、お前、なぜ分かった?」と、マルティノス。

 「当然だ。それくらいの事が出来なければ、とっくに俺は死んでるぜ!」

 「そ、そうか。俺の負けだ」

 それを見ていたマゼランが、パチパチと手を叩く。

 それが引き金になって、皆から歓声と拍手が沸き上がる。

 マゼランが、ゆっくりと歩いて菊王丸に近付き「おめでとう、合格だ」と言って手を差し伸べる。

 「これで俺もあんたの側近だな。ただし、約束は守ってくれ」

 「いいだろう」

 そこへマリが駆け寄って来る。

 「もう、死ぬんじゃあないかと思ってドキドキしながら見てたのよ」

 「はっはっは、心配かけてわるいな」

 「これであんたも側近という事なのね」

 「まっそういう事だ」

 「嬉しそうな顔しちゃって」と言いながら、菊王丸の腕をつねる。

 「いってえな! 何すんだ!」

 「えへっ」と言いながら、イタズラっぽい顔をする。

 「こっこいつ、なんか恨みでもあんのか?」

 「そうじゃあないわ、時間があったら顔でも見せに来なさいよ」

 「ああ、分かってる」

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