出航
龍慶と菊王丸、そしてその悪反達は、早朝船に乗り込んだ。前日には、食料も大量に積んだ。その中には、忍者の保存食で有名な“干し飯"や“佃煮“それに"兵糧丸"なども大量に入れた。
「帆を張れ!」
「錨を上げろ!」
龍慶の指示が飛ぶ。
こうして、船は大海原へ進み出た。
マストのてっぺんには、八幡大菩薩と書かれた旗が風になびいている。
船旅は順調だった。風もほどよく予定よりも早く進んでいる。
彼らは、中国沿岸づたいにひたすら南へ向かって行く。
しかし、時には保存食ばかりでなく、新鮮な物もロにしたい為、上陸する事もあった。
その時、多少のいざこざがあった事もある。
ある日、彼らが上陸したところ、突然弓矢が飛んで来たのだ。
「木の影に隠れろ!」龍慶が大声で怒鳴る。
時々中国人の大きな声も聞こえて来る。
「くそ、どうやら俺達を倭寇だと思っているらしい。何とか誤解を解かなければな」
「龍慶さん、どうする」
「わしが何とかする。お前たちは静かにしているんだ」
暫くして、漸く矢が収まった。
すると、今度は数騎の騎馬武者がやって来る。彼らは馬上で青龍刀を掲げている。中には、それをクルクルと回転している者もいる。
「よーし、良いぞ。あの先頭の武者を俺がやる。見ていろ」
龍慶は、そう言うと日本刀を抜きながら飛び出した。老人とは思えない程の素早さだ。
先頭の騎馬武者目掛けて、驚異的なスピードで走る。
騎馬武者は、青龍刀を大きく振りかぶって龍慶に斬りかかる。
龍慶は、それを落ち着いて日本刀で受ける。
一太刀、二太刀、三太刀。
大きな火花が散る。
騎馬武者は恐ろしい形相で龍慶を睨みつける。
龍慶は、その視線から顔を背けずに睨み返す。
そうしながらも、日本刀の先を地面に突き刺し、えぐるように剣を抜きながら大きく円を描く。
すると、騎馬武者の両目に向かって土が飛んでいく。
騎馬武者が、怯んだ隙に龍慶は、ジャンプし騎馬武者の背後に跳び乗り、器用に騎馬武者の、両腕の自由を奪う。
他の騎馬武者たちは、彼らの様子を見ながら回りを囲んでいる。
そうしながら、龍慶は両腕の自由を奪った中国人に中国語で語りかける。
「俺達は、倭寇ではない。勘違いするな。バラワン島へ何かっている途中じゃ」
「そんな事を言っても、何か証拠はあるのか?」
「もちろんだとも。中国皇帝の通行証を見せてやっても良いぞ」
「なに、それは本当か?」
騎馬武者たちに驚きの波紋が、広がる。所詮この武者達も田舎者なのだ。
「俺達に手を出すな、と言うんだ。それから、馬から降りるように言え」
中国皇帝の通行証の話を聞いた彼らは、とりあえず、龍慶の言葉に従った。
五人の武人が馬から降り、龍慶の出方を見守る。
龍慶も、男の両手を自由にしてやり馬から降ろさせた。
龍鹿はなおも馬上にいる。
一人の武人が、馬上の龍慶を見ながら「お主も、降りよ!」と言う。
龍慶は、回りを取り囲んでいる男達を見ながら「良かろう」と、言って馬から飛び降りた。
「さあ、通行証とやらを見せてもらえるかな」
「おうさ、見せてやろうぞ」龍慶は落ち着き払って、そう答え、懐へ手をしのばせた。
龍慶は、小さな筒を取り出しその蓋を開け書状を取り出す。その書状をその中のリーダーと覚しき人物に手渡した。
「ほう、これか、どれどれ」
その男、頷きながら書状を読んで行く。
「お手前は、龍慶殿と申すのじゃな」
「いかにも」
「なるほど、確かに皇帝の印が押されている。これは無礼をした」
「分かれば良い。幸いにも、双方に怪我人は、出なかったからのう」
そう言って、龍慶は菊王丸達へ、手を振って合図した。
菊王丸たちは、木の影から姿を現わすと、龍慶の元へ走って来た。
「ところで、龍慶殿は、何の為にここに立ち寄られたのじゃ?」
「水を補給したい。ただそれだけじゃ」
「水か! ここの水は、美味しいぞ。いくらでも持って行くがいい」
彼ら武者たちは先程とは打って変わり、龍慶たちを丁重に扱うようになった。
この者たちは、普段は純朴な男たちのようだ。一旦疑いが晴れれば、100年の知己のように親しく接してくれた。
その晩は、彼等と酒を酌み交わし大いに酔い、かつ歌い、かつ踊った。




