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転送実験室本部では

 巨大な異世界への穴を開けてから4時間以上が経過している。

 ここ転送実験室では、様々な計器を睨みながら微調整を繰り返していた。

 「神藤博士、もうパワーに余裕がありません」

 「どれ見せてみろ。うーん、かなり限界に近づいているなあ。もう少し頑張って欲しいんだが」神藤は、モニター画面を見ながら眉根を寄せた。

 「うーん、持丸を呼び出してくれ」

 神藤は、そう言いながらもモニターを睨んでいる。

 「博士、持丸と繋がりました」

 その声を聞くと、神藤は、通信装置の前に座った。

 「持丸、そろそろ転送装置も限界に来ている。もう止めたいんだがどうだ」

 「そうですか、しかし、あと30分ほど何とかなりませんか」

 「そうしたいところだが、これ以上やるとマシーンが壊れる可能性があるんだ」

 そんなやり取りをしていると、研究室のスタッフが大声で叫びだした。

 「博士、大変です。異世界の穴が不安定になっています」

 「ウワー! 装置から煙が出ています」

 「こっちもだめだー。パワーが急速に落ちています」

 あっちこっちから、悲鳴のような叫び声が交錯する。

 「持丸、持丸、聞こえるかー!」神藤もまた、マイクを握りしめて叫ぶ。

 だが、通信も途絶えてしまった。

 「異世界への穴も消滅」

 「博士、ビーコンも途絶えました」

 「なにー」とひとこと言って絶句した。

 「博士、予備電源に切り替えます」

 その言葉に神藤は、我に返った。

 「何とか手を尽くして復旧させるんだ」

 神藤は、最悪の状況を思い浮かべた。

 『悪くすると、激しい噴火に巻き込まれてしまったか、或いは太陽に転送されて溶けてしまったかもしれん』

 そんな悪い予感を感じながらも、一縷の希望を信じて装置の復旧に没頭した。

 スタッフたちも必死で働いた。

 それでも、何も良い兆しも現れないまま、残酷にも時間は刻々と過ぎてゆく。

 数分の時間が、まるで永遠のように感じた。

−−−−−−−−

 誰もが諦めかかった時、「ビーコンです。ビーコンをキャッチしました」と、一人のスタッフが叫んだ。

 神藤は、その言葉を聞き生き返ったように顔に生気がよみがえる。

 「よし、そのビーコンから位置を割り出すんだ」

 スタッフたちは、微弱なビーコンを逃すまいと必死に操作する。

 「博士、これは、さっきまでいた世界ではありませんよ」

 「何だと、まさか太陽からと言うんじゃあないだろうなあ」神藤は、訝しげな顔をして、そのスタッフを睨んだ。

 「いいえ、太陽からでもありません。全く別の異世界です」

 「全く別の世界だと? 持丸と連絡は取れるか?」

 「いいえ、さっきからやっていますが、反応なしです」

 「何度も繰り返すんだ。あいつらは必ず生きている。生きてこの世界に戻さなければ----」

 スタッフたちも懸命に頑張る。


 しかし彼らの努力も虚しく、“バン”という大きな音とともにマシーンから火花が散る。


 「博士、システムダウンです」


 その言葉を聞き、愕然と肩を落とす者、呆然とするもの、目にいっぱい涙を溜めるものなど、異様な雰囲気がその場を覆った。


 神藤が、おもむろに口を開いた。

 「私は、まだ諦めてはいない。彼らは生きている筈だ。ビーコンの位置は記憶しているだろうな」

 「はい、それはメモリーに記憶されています」

 「だったら大丈夫だ。必ず彼らを救い出す。これから忙しくなるぞ。まず転送装置を復旧しなければならないからな。ボーっとしている暇は無いぞ」

 神藤は、不屈の精神を持って、この難局を乗り切る覚悟を固めた。


 最初に神藤を苦しめたのは、資金難であった。壊れてしまった転送装置を元通りにするには予想以上の資金を必要としたのだ。

 もともとこの研究は国家プロジェクトとして出発した。

 ところが、政府はこのところの不況で資金繰りが厳しく、充分な資金を提供できなかった。

 それで仕方なく神藤は、民間企業からの資金援助を要請した。本来、この技術は企業の利潤追求の道具にして欲しくは無かったが、人命救助のために妥協せざるを得なかったのだ。

 この要請に対し、積極的だったのがパーフェクトビクトリー社である。

 パーフェクトビクトリー社は、資金は無制限に提供し、更に優秀な技術者も派遣すると言ってきた。

 これに対し神藤は、転送技術の核心部分が盗まれる事を怖れ、ブラックボックスのままにすると宣言した。

 パーフェクトビクトリー社は、多少の難色はしめしたものの、それを受け入れた。

 その後、パーフェクトビクトリー社は、数名の技術者を引き連れてやって来た。しかも、それをまとめていたのは飛鳥光一であった。

 飛鳥は神藤に、名刺を渡した。

 「飛鳥光一です。博士の信頼を裏切らないように頑張ります」

 博士は、眼鏡越しに相手の心を探るようにして名刺を交換した。

 「飛鳥君、頼んだよ。何しろ早く復旧して救助に行かなければならんからね」

 「その件ですが、救出するためには、救出する人、される人あわせて8人乗り位の乗り物を送り出さなければなりません。それで転送室をもっと大きくしたいと思いますがいかがですか?」

 「私も出来れば、そのようにしたいんだが----」

 「資金面の事なら心配しないで下さい」

 「だったらそうしてくれ」


 こうして、復旧工事は単に施設を元に戻すのではなく、更に規模を大きくするという方針で進められる事になった。

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