スーパープルーム
火山エネルギーの放出に成功した司令室では、引き続き人工的に作られた火山の情況を見守っていた。
ところがそこへ、“ビー、ビー”という大きな警告音が聞こえてきた。
司令室に再び、緊張が走った。
「変だぞ、また地中から強力な電磁波が発生しています」
「まずいぞ、巨大なマグマの塊が浮上してきているぞ!」
司令室の責任者である天城大佐が、「落ち着いて情報を分析するんだ」と一括した。彼は、地質学の博士号を持っている異質の軍人だ。
「大佐、どうやら電磁波発生装置がまだあったようです。しかも今までより遥かに強力で、より深くに設置されています」
「どうやら、この電磁波発生装置が本命のようだな。マグマの塊はどうなっている」
「これは、スーパープルームに匹敵するぐらいの大噴火を覚悟しなければなりません」
「何だと、スーパプルームだと!」
「はい大佐、スーパプルームです。2億5000万年前のスーパプルームによる巨大噴火は、地球上の95%の生物を絶滅させたと言われています。噴火による火山灰は地球を覆います。それは太陽の光を遮って急激な寒冷化をもたらすでしょう。それが何年も続いた後、今度は大量に排出された二酸化炭素により温暖化が進むことになります。この過酷な自然環境の変化で人類もほとんど死に絶えてしまうでしょう」
「なぜ敵国は、人類を滅亡させるところまでやろうとするのか?」
「分かりません。ただ敵国は、数十万人が数十年生き延びるための施設を作っているという噂を聞いた事があります。そして上層階級では、人類を浄化し選ばれた優秀な者だけでユートピアを作ろうという思想を持っているようです」
「なんと恐ろしい思想か? 何を持って人間の優劣を判断すると言うんだ」天城の顔に怒りの表情が浮かんでくる。
天城は、その怒りの心情を抑えながら続けて言った。「所でそのマグマの塊は、何処へ向かっているんだ」
「はい実は、先ほどA,B,C,D地点で人口の海底火山を作りましたが、火山エネルギーの強さが予想以上で、プレートに大きな亀裂が生じました。その亀裂に向かってマグマが動いています」
「そうか、それでどれくらいで地表まで達するのか」
「あまり余裕はありません。僅か5時間程度です」
「うーん、5時間しか猶予がないのか。あまりにも少ない」大佐は腕を組みながら唸った。
「大佐、とにかくここは危険すぎます。噴火場所から遠ざかりましょう。そうすれば、巨大噴火が起きた後で、可能な限り生き残りの策を考えましょう。ここにいれば、巨大噴火の影響をもろに受けます」
こういった状況が逐一報道された。天空の住民もパニックに陥った。
その住民を落ち着かせるように画面には女性アナウンサーが登場していた。
「皆さん、落ち着いてください。この天空の町も安全な場所に移動します。ですから安心してください」
騒然としているホールで、持丸は言った。
「スーパプルームだって。何処に逃げたっていずれ死んでしまう。早いか遅いかの違いだけだ」
「持丸、俺達はどうする? エッグへ行き、俺達の世界へ戻るか?」明智が言った。
「うーん、俺達がここに居ても何も出来んからなあ?」持丸は考えた。
「いや、ある程度は被害を抑える事が出来るかもしれんぞ!」羽柴が、考え考え言った。
「どうするつもりだ?」と、持丸。
「噴火する場所は例のA地点からD地点の場所だ。その場所を俺達の研究所へ知らせる事が出来れば、そこへ昇ってきたマグマを異世界へ転送出来るんじゃあないか?」
「うーん、そのマグマだけを転送する事はできんぞ。一緒にその周辺の地殻や火山も転送する事になる。それはそれで危険じゃあないか?」
「そうかもしれんが、今迎えようとする危険よりはましじゃあないか?」
「それはどうかな。それより、噴火口の上に異世界の穴を開けて、噴火物だけを転送するってのはどうだ?」今度は明智が言った。
「分かった。その方がいいかもしれん。しかし相当大きな穴を開ける事になるし、長い時間その状態を維持しなければならないが大丈夫か?」と、持丸。
「それはそうだが、やってみなけりゃ分からん。ただ、それだけのエネルギーが、あるかどうかも分からんぞ。下手をしたら装置が壊れる恐れもあるぞ」
「そうだな、この世界の住人の事を考えたら、それだけのリスクを負ってもやるべきだろうな! ただ装置が壊れれば、自分たちの世界へは戻れなくなるわけだ。それでもやって見るか」と持丸は、明智と羽柴の顔を窺った。
「ああ、やってやろう。この世界を見捨てる事は出来ない」と、羽柴。
「俺も意義はない」と、明智も同意した。
「おいおい、お前さんたち、何を言っておるのかのう」と、訝しそうな顔をしたお爺さんが言ってきた。
「いやあ、お爺さん、巨大噴火から、この世界を守る方法があるかもしれないんです」
「何だって、お前さんたちに、そんな事が出来るはずがないじゃろうが。大人しく噴火口から、なるべく遠くへ行っていれば良いじゃろう」
持丸は、それでは一時しのぎに過ぎないと思ったが、相手を傷つけないように慎重に言葉を選んで言った。
「お爺さんの言う事も最もですが、色々と試して見たい事があるんです。お爺さん信じてください。私達も科学者なんです」
「うーん---」、お爺さんは、持丸、明智、羽柴の顔を見た。
「なるほど、お前さんたちの顔に嘘は無いようじゃのう。それでどうするんじゃ」
「そうですね、まず私達をここに連れてきた神田橋中尉に会いたい。そして彼に、私達を拾ってくれた場所にもう一度戻して欲しいと頼みたいんです」
「そうか、神田橋か。神田橋も私の教え子じゃよ。連絡を取ってあげよう」と言いながら、お爺さんは、腕時計のスイッチを入れて話し出した。
「へえ、腕時計に電話機能がついているんだ」と、羽柴が感心しながら言った。
と、そこへ3人の制服を着た憲兵と思われる男達が靴音を響かせながらやって来た。
その男たちが、持丸たちの前に来て拳銃を構えた。
「立て、お前たちを逮捕する」
3人は、意外な成り行きに唖然とし、互いに顔を見合わせた。
「い、いったい何の容疑だ?」持丸は、大声で怒鳴りたくなるのを我慢しながら言った。こんな事で、時間を無駄にしたくないという気持ちもある。
「スパイ容疑だよ。それに、お前たちの名前は住民台帳にも無かった。さあ、つべこべ言わずにこっちへ来るんだ」
住民台帳と言われて、持丸は、焦った。
『住民台帳だって、そんなものある訳がない。さて、どうしたものか』
「まあまあ、待ちなさい。この人達は悪い人間じゃあない。何かの間違いじゃろう」と言いながら、爺さんが間に入ってくれた。
「ふん、なぜ分かる?」警官が苦笑いをしながら爺さんを見た。
「わしの人を見る目は確かじゃよ」
「あのなあ爺さん、民間人の指図は受けんよ」
結局、3人は捕らえられる事となった。
「大丈夫じゃよ、ワシが神田橋中尉に頼んでおくからのう」と、引っ立てられていく3人の背中に向かって、爺さんが叫んだ。




