天空の町
持丸は、2人に向かって「行くぞ」と言うと、起動ボタンを押した。すると、エッグ1号は半透明に変化した。
次に、いよいよ転送ボタンを押す。するとトンネルに入ったように一瞬目の前が真っ暗になる。耳にはゴトンゴトンという音が響いている。その後、胸が苦しくなったと思ったら、明るい陽射しがコックピットの窓を通して入ってきた。息苦しさも、耳への雑音も消えた。
「おお、もう異世界へやって来たのか」持丸が、窓の外を見ながら呟いた。
「おい持丸、ここは日本の関東辺だよなあ」エッグ1号の中で、羽柴が叫んだ。
「そうだ、東京の上空のはずだが? それにしても静かだぞ。さて無事に着いたことを研究室へ報告しよう」持丸は通信装置をONにした。
「こちら探索隊の持丸です。本部応答願います」
「こちら本部の神藤だ。無事に着いたようだな」
「はいそうです。位置的には東京上空にいると思われます。ただ、この世界ではここが日本かどうかも分かりませんがね」
「そういう事だ。慎重に行動してくれよ。あまりエッグから遠くまで離れるんじゃあないぞ」
「はいはい、分かってますよ」
「そうか、報告を楽しみにしている。それじゃあ通信を切るぞ。エネルギーを無駄にしたくないからな」
「ラジャー!」持丸はそう言いながら、通信を切った。
「みんな、そういう事だ。頑張ろうぜ」持丸はあっけらかんとした笑顔を見せた。
「ああ、頑張るのは了解した。それにしてもだ東京大空襲の後のように瓦礫で一杯だぞ。半壊状態のビルもかなりある」羽柴は、上空を旋回しながら分析した。
「と、言うことは、この世界は第二次世界大戦末期という事なんだろう。その内にB29の大編隊がやってくるかもしれんぞ」と持丸が、ややおどけた声で反応した。
「いやあ、そうかなあ。それにしても、人がいなさすぎるぞ」と、明智が口を挟んできた。
「うん、何か変だな。まあとにかく何処かに降りて見るか」好奇心旺盛な持丸が言った。
「そうだなあ、じゃああそこはどうだ。我々の世界では日比谷公園の辺りだと思うが」下を見下ろしながら明智が言う。
「ああそうだな。それにしても、手入れが出来ていないのか草木で鬱蒼としているなあ」と、持丸。
「その方がかえっていい。エッグ1号を目立たない所に隠しておけるからな」と、羽柴。
「よし決まりだ。おっとその前に大気の状態を調べてくれ」ニコニコしながら持丸が言う。
「もう調べてある。何の汚染もないぞ。出ても大丈夫だ」淡々とした表情で明智が言う。
3人はエッグのドアを静かに開け、周囲に気を配りながら外へ出た。
その途端、ガサガサという音とともにカラスが、数羽飛び立った。
「ちっ、カラスか。ビビったぜ!」
藪の中を、暫く歩いていると羽柴が叫んだ。
「あれを見てみろ。数十メートルに渡って地面が隆起している」
「うーん、これは巨大地震があったのか」
「そうだ、地震だ。それでこんなに荒廃してるんだ。しかも最近起きたものだ」
「それで、みんな何処かへ避難しているんだろう」
「だとすると、関東大震災か?」持丸が当てずっぽうに言う。
「いや違うな。あのビルを見てみろ。崩れてはいるが近代的なビルだ」と明智が言う。
「だがな、上空から見た時、スカイツリーは無かったようだが。まあ、地震で全壊したのかもしれんがなあ」
こうして、暫く探索を続けていると上空から微かに機械音がしているのに気が付いた。
迷彩色をした軍用ヘリコプターである。そのヘリコプターがグングン近づいてきて上空で止まった。
そのヘリコプターから、「そこを動くな」という声がしてきた。
「持丸、どうする。やばくないか?」と羽柴。
「うん、逃げた方がもっと危ないかもしれないぞ。とにかく腹を決めてここで待ってみよう」
「俺もそれに賛成だ」と明智。
やがて、ヘリは近くに着陸し軍服を着た長身の男が降りてきた。
「お前たち、ここで何をしている。避難命令が出ているはずだぞ」
男の態度から、危害を加えるようには見えなかったので、3人はとりあえず安心した。
「ああ、自衛隊の方ですか?」
「なんだって、自衛隊だと? それは何だ? 俺は大日本帝国の軍人で神田橋中尉だ」
3人は唖然とした。男の装備を見れば旧日本軍のそれとは違い、近代的なの格好をしている。
『大日本帝国だって、いったいどうなっているんだ? 第二次大戦中なのか? それにしても何と答えようか、まさか異世界から来たなんて言えないしなあ』
そう持丸が思っている内に羽柴が答えた。
「どうも自宅の地下室に、大切な物を運んでいて、避難命令を聞き逃してしまったようです」
「自分の命より大切な物があるか」と、兵士に一括された。
「まあいい、このヘリに乗るんだ。安全な所へ連れて行く」
「安全な所って?」
「ふん、上を見ろ!」
「上だって、雲しか見えないが----」
「とぼけるな」
「はあ?」
「ところで、君たちの仕事は何だ?」
「えっ、まあ科学者ですが」
「ほう、科学者か。地質学の方はどうだ?」
「私は物理が専門だが、地質学にも詳しいが」と明智が答える。
「はっはっは、なるほどな。なら面白いものを見ることになるぞ」
『くそっ、エッグから遠ざかってしまうな。まっ何とかなるだろう』持丸は楽天的にそう思うことにした。だが、明智や羽柴は少し不安な表情をして持丸を見つめている。
3人の思惑をよそに、ヘリは上空へ上がっていき、雲の上まで達した。
上から雲を詳細に見ると、ゆっくりと渦を巻いている所があった。ヘリは、その中へゆっくりと入って行く。
やがて、雲の中に金属光沢がある丸い大きな入り口があり、それがカメラのシャッターのように自動的に開いた。するとその下にヘリポートが見えてきた。そこには何台ものヘリが翼を休めている。
「おい、天空の町に着いた。降りていいぞ」
「ほう、これは巨大な飛行船だ。周りを雲で覆わせカモフラージュしているんだ」
「これが日本で一番大きな飛行船だ。皆は天空の町と言っているがね。その言葉通り1つの巨大な町がすっぽりと入っているんだ。商店街も、オフィス街も、レジャー施設も整っている。あそこのカウンターに行けばここの案内図が貰えるぞ」
3人はとりあえず兵士に礼を言い、カウンターへ行った。
カウンターには、水色をベースにしたスーツを着こんだ八頭身の女性がいる。ちょっと見るとスチュワーデスのようにも見える。
3人は、そのカウンターへ向かった。
「すみません、ここ初めてなんですが、案内図を貰えますか?」
「はい承知致しました」と、にこやかな笑顔で応じてくれた。
彼女はしなやかな動作で棚から3枚の地図を取り出し、渡してくれた。
「ちょっと聞きたいんだが、みんなこんな所で生活しているのか?」
「はい、そうですねもう半年ぐらいになるでしょうか。慣れればここでの生活も快適なんですが、やはり地上に戻りたいと思っている人が大半でしょうね。今日の実験が上手く行けば、その願いも叶えられるんでしょうが」
「実験ね。どんな実験なんだね?」
「私が言うよりも、ホールに行けば、巨大なスクリーンで、実況放送をしてますわ」
「それはいい。ところでお嬢さん、案内してくれますか?」と、持丸が甘えた。
「あら、すぐそこですわ」と、案内嬢はサラリと答える。一緒に来てくれるような素振りは微塵もない。
「そうですか」と、がっかりとした声で言う。
これには、明智も羽柴も苦笑いした。
仕方なく、三人だけで地図を見ながら歩いていった。ほんの2分程で到着した。これでは迷いようがない。
ホールの真ん中には球形のスクリーンがあり、周りの何処からでも映像を見る事が出来た。
ここには、多くの天空の住民が椅子やベンチに座りながらスクリーンを見守っていた。
そのスクリーンでは、その日行う実験の概要が話されていた。そこで一人の若き科学者が図面を手に説明をしている。その図面には、日本列島とそれに続く海底の断面図が描かれていた。
その時、後ろから声を掛けてきた人物がいる。
「おいおい君たち、ここの席が開いているから座らんかね」
見ると、白髪の眼鏡をかけたお爺さんであった。
「ああ、お爺さんわるいですねえ」と、いち早く持丸が反応した。
「なーに、悪い事なんかないよ。座ってくれ」
3人は、それぞれ会釈して座った。
「あまり見掛けん顔だ」
「そりゃあそうですよ、今来たばかりですからね。ところで、何の実験なんですかね」
「おや、それも知らんのかね。珍しい人がいたもんだ」
「まあまあ、そう言わずに世間知らずの3人に教えて下さいよ」
お爺さんは、何を思ったのか突然眼鏡を外して、持丸を見つめている。
「お爺さん、なんか俺の顔についていますか?」
お爺さんは、持っていた鞄の中から古いアルバムを取り出した。それをペラペラとめくっていたが、あるページで手が止まった。
「お前さん、この写真を見てごらん」
持丸が、お爺さんが指さしている写真を見て驚いた。
「どうだ、そっくりじゃろ!」
その写真は、零戦の脇に若者が立ち、笑いながら腕を組んでいるものだった。
「これはわしの教え子の写真じゃ。ワシは尋常小学校の先生をやっていた。この子は中々頭の切れる子でな、卒業してからもよく手紙をくれたもんだ」爺さんは懐かしそうに目を細めた。
「うーん----」,持丸は唾を飲んだ。
『なんてこった。これは俺のおじいさんの若い頃の写真んだ。確かに大戦中は零戦に乗っていたと聞いている』
「この子は持丸と言う名前だった。優秀なやつでな、なんでも率先してやる子じゃったよ。それが第二次のアメリカ本土攻撃で、敵戦闘機と渡り合って死んじっまた。惜しい男だった」
持丸は愕然とした。『俺の爺さんはまだ生きている。だがこの世界では戦死しちまったのか。という事は、俺も誕生していない事になるなあ』
「おい、お前さん、何を考えているんだ?」と、お爺さんが持丸を心配して顔を覗き込んできた。
「いやあ、実は俺も持丸というんだ。ここに写っている人はきっと俺の親父の弟だと思うよ」辻褄を合わせるために、こう答えた。
「おう、本当かね。何のめぐり合わせか分からんが驚いたねえ」
「それよりお爺さん、日本軍がアメリカ本土を攻撃したんですか?」
「ああそうじゃ。真珠湾攻撃を仕掛けたんだが、当初目論んだ戦果を上げる事が出来なかった。それで、米軍の航空母艦が停泊している港を突き止めそこを攻撃した。日本のスパイからの情報が入ったんだ。真珠湾攻撃をした直後で、相手の意表を突く形になった。日本軍も相当の犠牲を払ったが、刺し違える覚悟で戦った。そのお陰で、その後は完全に日本が制空権を握った。それで、アメリカ本土への攻撃も可能になった」
「そ、そうなんですか。それで今も戦争は続いているんですか」
「いや、そうじゃあない。山本五十六長官は、それでもアメリカの底力を恐れていた。それで、日本軍が優勢である状況で停戦を申し入れたんだ」
「へえ、それでアメリカはそれを受けたんですか」
「そうじゃ、アメリカは日本以上にナチスを恐れていた。アメリカにはアジアとヨーロッパの両面に戦力を展開する余裕が無くなっていたからの。それで日本の要求を受けいれざるを得なかったんだろう」
「それで、ナチスはどうなったんですか?」
「ナチスは滅んだ。連合軍のノルマンディー上陸作戦が成功したからな。だが日本にはかえって良かったかもしれん。ドイツの優秀な科学者の多くが日本に亡命してきたからの」
「ほう、それで大日本帝国は、そのまま残ったという分けか」
「うーん、そのままと言うのとは、ちょっと違うな」
「それは、どういう意味ですか?」
「日本は強大になった。それにアメリカとの戦いを優勢のうちに停戦に持ち込んだ海軍の人気が高まり陸軍出身の総理に代わって、海軍出身の総理が誕生しての。それから日本は大いに発展した」
「へえ、その海軍出身の総理とは?」
「何だって、その人の事を忘れてしまっては困るぞ。山本五十六に決まっておるじゃろうが」
「ああそうでした、そうでした。五十六さんですよね」持丸は慌ててその場を繕った。
「ふん、おかしな奴じゃのう。それから日本は当初の目的じゃった大東亜共栄圏を作り、アジアの盟主となったのは知っているじゃろうな」爺さんはそう言いながら、持丸を睨んだ。
「はい、もちろんですよ」持丸の額に汗が滲む。
「五十六の改革は凄まじかった。敵国であるはずのアメリカを見倣い、また西欧の植民地政策を批判した。そこで五十六は大東亜共栄圏内の国々に対して対等の権利を認め、思想、宗教の自由も認めた。その上で域内の関税を撤廃しアジアの経済的発展をもたらした。特に日本は二桁の経済成長を続け、経済の牽引役を果たしたんじゃ」
「ああそれなら知ってますよ。しかしバブルが弾けるンですよね」
「何じゃと、バブルとはなんじゃ?」
「えっ、違うんですか? 日本経済は失速したんじゃあないんですか?」
「何を言うとるんじゃ。日本経済は健全じゃよ。少なくとも1年前までは」
「えっ、1年前! 1年前に何があったんですか?」
「うーん、日本は少々有頂天になっていたかもしれんのう。それまでは、やることなす事全て上手く行っていた。宇宙開発競争でも、一番乗りで人工衛星の打ち上げに成功した。それに対しアメリカも、アポロ計画で対抗したが、結局月への一番乗りも日本じゃった。まあこれは、ドイツのロケットV2の開発に携わった科学者が亡命者の中にいたからのう」
「ああ、あの有名なドイツのロケットですか?」
「そうじゃ、その技術を日本が独占できたからのう。こうして日本は技術的にも経済的にもアジアを引っ張って来た。その結果アジアは発展し続けた。特に日本は世界からはエコノミックアニマルと呼ばれたもんだ。金の力を使ってあらゆるモノを手に入れた。世界の景勝地、リゾート地などを買い占めた。金で全ての問題を解決出来ると思っていた。しかし世界中からは嫉妬され、恨まれた。それで天罰を受けたのかもしれんのう」
「て、天罰ですか?」持丸の脳裏に荒れ果てた東京の姿が現れた。
「うーん、ひょっとしてそれは、地震の事を言っているんですか?」
「そうじゃよ。ただ一度の地震ぐらいじゃあすぐに復興させる事は出来ただろう。だがな、地震は一度だけでは無かったんじゃ。この半年のうちに巨大地震が12回以上も日本列島を襲ったんじゃ。小さい地震も含めれば数え切れないほどだ」
「それほどまでに」
「そうじゃ、地震とそれに伴う津波が日本列島とその周辺に集中している。日本の農地の半分以上、工場施設に至っては70%以上が破壊された。それに地震活動は収まる気配がない。これでは日本が滅んでしまうじゃろう」
「うーん、そんな恐ろしい事が起こっているんですか」珍しく持丸までが難しい顔をしている。
「そうですか、それでこの天空の町に避難しているんですね」と、羽柴。
「そういう事だ。そしてこの地震は何処かの国が人工的に起こしているんじゃないかと思われるフシがあるんじゃ。地震兵器じゃよ」
「地震兵器だって、いったいどこの国が?」
「それは、自明の事よ。アメリカとは停戦しているだけだからの。裏で何をやっているか分からんからな。それにこのままでは、西欧社会は落ちぶれ、アジアが世界を牛耳る事になる。白人至上主義を唱える人間には耐えられんじゃろうなあ」
「それに日本はエコノミックアニマルと言われ、嫌われているって事もあるからな」と羽柴。
「はっはっは、大分状況を呑み込んできたようじゃな。だがな日本はこんな事で負けてはならんのじゃ。もちろんエコノミックアニマルの様な傲慢さは控えなければならんがの」
「うーん、それでどうするつもりですか。まさか、こっちも地震兵器を使うんですか?」
「目には目をか。だがな、そんな事をしたら地球がメチャクチャになるじゃろうが。悪くすれば人類が滅んじまう事になるかもしれん。だからそんな愚かな事はせんよ」
「ふう、それを聞いて安心しましたよ。しかしどうやって地震を防ぐんですか?」
「それはのう、ガス抜きじゃよ」
「えっ、ガス抜きですか? どう言う事ですか?」
「マントルトモグラフィで、地球内部の状態を分析したんじゃ。すると、日本列島の地下でマントルの動きが活発になっていて、更に、火山ガスも大量に溜まっている事が分かった。それがプレートを押し上げて地震を起こしているんじゃ。だが、マグマの活動は一向に収まらず、更に大きな地震が予想されるんじゃ」
「何と、それじゃあ日本は、いつ爆発するか分からない爆弾の上にいるようなもんじゃあないですか?」
「そうじゃ、爆発すれば木端微塵じゃ。それで、ガス抜きをする」
「火山ガスを抜くんですか?」
「そうじゃ。実は火山の噴火と地震とは関係があるんじゃ。噴火が多ければ地震は少なくなる。噴火する事で地震のエネルギーを逃がすことが出来るからのう」
「うーん、それで上手くきますか?」
「上手くいってもらわなくては困るじゃろ。日本の沖合数十キロの所の海底にボーリングをした。マントルまで直ぐの所だ、そこに強力な爆弾を仕掛けてある。そんな場所が4箇所はある。火薬の量や、深さ、火山ガスの分布など緻密な計算をしてあるはずじゃ。こうして、人工的に海底火山を作るんじゃよ。これに日本の命運がかかっておるんじゃ」
「そうですか。それにしてもなぜ、日本周辺にあるマントルだけが活性化してるんでしょうね」
「そうだ、それが問題じゃ。実は、10年以上前から電波障害が多発するようになった。テレビやラジオにも頻繁に雑音が入ってな。航空機などもその影響で事故が多発したりもした。それで、その電波障害を詳細に調べていくと、日本の海底に、その発生源がある事が分かったんじゃ。しかもそれは日本周辺のマントルを暖めているんじゃあないかと思われた。それが地震の原因にもなっているという結論を導き出したんじゃ。そして、その発生場所を調べていくと、そこには巨大な電磁波発生装置が埋まっている事が分かった。日本の海底に3つの巨大な電磁波発生装置じゃよ」
「なんと、その電磁波でマントルを活性化して地震を発生させ、日本を滅ぼそうとしていたんですね。それでその装置はどうしたんですか?」
「それは、日本軍の特殊工作隊員の手によって破壊されたよ。しかしそれでも、マントルの活動は中々収まらんのじゃ。一度活性化するとそれが収まるまでに何年もかかるようだ。それでガス抜きをする必要があるんじゃよ」
持丸は、異世界とはいえ、今日本が存亡の危機にあるという事を聞き、このガス抜きが成功するように祈らざるを得なかった。
「おい君たち、また地震じゃよ。あのスクリーンを見てみなさい」
3人がスクリーンを見ると、東京の町がグラグラと揺れている様子が分かった。画面には震度5と表示された。半壊状態だったビルや住居が更に壊れていく。
「うーん、震度5か、まだいい方じゃよ」お爺さんが真剣な眼差しで言った。
スクリーンでは、画面が切り替わり、日本列島全体が表示された。それにはリアルタイムで各地で発生している地震の震度が表示されている。
また、震源地も表示されているが、日本の近海のあらゆる所で発生している事が分かる。しかもこれは、マグニチュード7以上のものだけだ。
まさにこれを見ると、日本という船が爆撃され沈没寸前になっていると言っても過言ではないように思われる。
この様子を涙を流しながら見ている人も多い。
再び画面が切り替わり、女性アナウンサーが登場した。少し目が赤く腫れている様に見える。心を落ち着かせるように、深呼吸をしてから口を開いた。
「みなさん、計画は順調にいっています。すでに3つの電磁波発生装置は、取り除かれました。そして、この火山ガスを放出させる為に、地中深く掘られた場所には強力な爆弾が仕掛けられました。これらは日本の沖合に4ヶ所設置され、海底火山を人工的に作る手はずになっています。これによって日本の地下に溜め込められた地震エネルギーを開放する事が出来れば日本を救えるはずです。みなさん成功を祈りましょう」
次にカメラはアナウンサーの後ろで作業している司令室の様子を映し出した。
その中のリーダーが言った。
「爆破までのカウントダウンをしてくれ」
「了解、カウントダウン始めます」
一瞬の静寂の後、カウントダウンの声が響く。
“テン、ナイン、エイト、セブン---”
再びカメラが切り換わる。画面は4分割されそれぞれが爆弾が仕掛けられている海の様子を映し出していた。それらは、A,B,C,Dのアルファベットで区別されていた。
波は穏やかである。太陽の光が海面で躍っている。日本人の危機意識とは関係なく、母なる海の姿を表していた。
ホールで、その映像を見守る人々は、手を合わせて祈ったり、口で小さく念仏を唱えている人もいる。
異常な緊張感がその場を覆っていた。
“スリー、ツー、ワン、ゼロ、爆破”
ついにその時を迎えた。
まず、A地点の海で泡がブクブクと浮かんできたかと思うと、今度は海面が大きく盛り上がってきた。そして、ついに大きな水柱を上げた。
続いて、B地点、C地点、D地点で次々に大きな水柱が上がっていく。
すると、スピーカーから、「成功だ!」という大きな声が響いてきた。
画面は再び切り換わり、笑顔の女性アナウンサーが表示された。
「皆さん、おめでとうございます。危険は回避された模様です」
ホールで見守っていた、人々からも「ヤッター!」とか、「イヤッホー」という歓喜の声が飛び交い、期せずして大きな拍手が湧き上がった。




