異世界転送装置
いよいよ、平賀博士の協力を得て異世界転送装置の改良が終わる。
さあ、実験だ。
神藤はその後、平賀のいる研究所へ足しげく通った。そして、しばしば平賀の意表をつく発想に驚かされた。
それから早くも一年の歳月が流れる。
漸く異世界転送装置に、ダークエネルギーの制御装置を組み込む事が出来た。
そして、いよいよ転送実験の日を向かえる。
その日の朝、家を出るときに大学生になった愛娘のミサが笑顔で送ってくれた。
「お父さん、頑張ってね。成功したら手作りのケーキで祝ってやるわ」
その笑顔が目に焼き付いている。家族の為にも頑張らなければなと、自分に言い聞かせた。
思えば、この仕事に携わってからというもの、家族サービスは縁遠いものとなってしまった。
それどころか、娘の運動会はおろか、入学式や卒業式等にも行った事がなかったのだ。
そんな事を思っていると、神藤の肩を叩く者がいた。振り向くとそこに平賀が立っていた。
「さあ、今度こそは成功するぞ。俺とお前が協力したんだ。やれない分けが無い」
「ああ、そうだな!」
準備に手間取り、午前中一杯かかってしまった。実験は午後二時からとなった。
その刻限が近づいて来ると、スタッフが転送実験室へ入ってきた。
今回も転送される動物は、ハツカネズミである。しかも2匹いる。さっきまで、互いにジャレ合っていたが、いつもと違う雰囲気を感じたのか、今は大人しくしている。と、言うより何かしら緊張を感じているのだろう。
一同が揃った。平賀博士も、すぐ近くで見守っている。また北里博士も来てくれた。
スタッフが位置につき、神藤が簡単に挨拶をした後、「それではやります」と言った。
皆に更なる緊張が走る。
ただ一人、平賀だけは穏やかな表情で見守っている。
神藤が起動スイッチを入れる。
コトコトという音が響いて来た。
その音に驚いたのか、転送されようとしているネズミがキョロキョロと辺りを見回す。
やがて消える粒子のレベルが所定のレベルに達する。続いて、ダークエネルギーもOKの表示が点灯する。すると、スピーカーから転送準備完了です、という音声が流れてくる。
そして、ついに神藤が転送ボタンを押した。
その直後、パンという音が響いて、ネズミと籠が同時に消え去った。
それと入れ替わり、転送先を表示しているモニターの画面に籠と2匹のネズミが現れた。
転送装置も今では、異世界の何処の場所に転送するかを自由に制御できるようになっている。
極力、転送先には何もない所が無難だ。それで今回は大草原の片隅に転送することにしていたのである。
モニターを凝視していたスタッフ達は歓声を上げた。
「やったあ! ネズミは生きているぞ!」
「2匹とも無事だ!」
その声とともに拍手が沸き上がった。
モニターに映っているネズミは環境の急激な変化に驚き、籠の中をグルグルと走り回っている。とにかく、命には別状無いようだ。
しかし良く見ると、籠から30センチメートル離れた所に、トカゲのような生き物がひっくり返っている。
恐らくダークエネルギーの斥力により、飛ばされたのだろう。しかし、それも暫くすると起き上がり動き始めた。
スタッフの中には、それを見てクスクス笑い出す者もいた。実験が成功した安堵感がそうさせたのだろう。
「よし、それではこちらの世界に戻すぞ」、神藤がリターンのボタンを押すと、再びパンという音がして、ネズミは生きたまま戻った。勿論、2匹とも元気そうにしている。
部屋中に、歓喜の声が沸き上がった。手を叩く者、同僚と握手をする者など、色々だ。
今までの長かった苦労が報われた瞬間である。
「おめでとう」、と言ってきた平賀に神藤も立ち上がって握手した。
そこへ、北里博士がやって来た。「君たち、頑張ったな。世界中が驚くぞ!」
老博士の顔も晴々としていた。
この、『異世界転送実験成功』のニュースは、その日の内に世界中を駆け回った。
世界中から、称賛の声が上がる。次のノーベル賞の有力な候補としてノミネートもされた。
その一方で、『あんな実験なんて、眉唾だ!』、『界世界なんてあるはずが無いだろう』、『この実験は神への冒涜だ。即刻中止すべきだ』と言う人々もいる。
そんな訳で研究室の電話は、祝福や、問い合わせ、それに嫌がらせ等で、ずっと鳴りっぱなししなっている。
しかし、当の神藤は、そんな喧騒に左右されず、『これはまだ、小さな一歩に過ぎない』として冷静さを失う事は無かった。
その後、神藤は犬や猿で実験を繰り返し行い、安全性を確かめていった。いずれも生還することが出来た。そして、体に何か異常は無いかとCTやMRI、脳波等を検査したが、どれも異常は見当たらなかった。
こうして人間が安心して異世界へ行くための準備が着々と整っていった
読んで下さり、ありがとうございます。
次は、人間の転送実験か?
御期待下さい。




