北斗大学付属応用物理学研究所
いよいよ平賀博士が登場します。
この人物、ひょっとしたら江戸時代の天才
平賀源内の血筋かも?
個性的な平賀博士に御期待下さい。
北斗大学付属応用物理学研究所の敷地は広大である。中でも一際目立つ建物が実験棟である。これは、地下2階、地上8階で、最上階はガラス張りとなっている。更に、屋上はヘリポートのようになっている。ヘリコプターが、離発着出来るようになっているのだろうか?
また、同じ敷地内には発電施設がある。この研究施設では莫大なエネルギーが消費されるのだろう。
更に、管理棟では世界最高速を誇るスーパーコンピューターが設置されていた。しかし最近になって、世界に先駆けて量子コンピューターが開発され、そのスパコンと置き換わったのではないかと噂されている。
量子コンピューターは、世界の先進国で開発競争が行われているが、この噂が本当ならば世界が驚嘆するだろう。なぜなら、今までのスーパーコンピューターを、一気に時代遅れにしてしまうほどのものだからである。
米国でも、開発されたのではないかと噂されているが、真実のほどは分からない。ただ最近、テロが未然に防がれるようになったのは、量子コンピューターが影響しているのではないかと思われている。
さて、話を元に戻そう。この応用物理学研究所でも、新規に採用したコンピューターが活躍しITテロに対しても厳重に監視して、外部とやり取りするファイルの中身を全て調べ、ウィルスへの感染を防いでいる。未知のウィルスであっても、感染させることは不可能だ。
この新型のコンピューターを、みんなはミカエルと呼んでいる。
神藤は、この平賀博士が午前中は会議が入っているというので、午後一時半頃に会う約束をした。そのため早目に昼食をとってから自分の研究室を出た。
神藤は、この1ヶ月というもの、異世界転送装置に対して様々に工夫してきたが、そのどれもが失敗していた。最近では、実験に失敗した夢を何度も繰り返し見るようになってしまった。肌につやが無く、10キロ程も痩せてしまったように見える。
今まで順風満帆だった神藤の人生にとって、大きな試練として立ちはだかっている。
午後一時半、平賀のいる研究所へ到着した。
警備員に平賀博士とアポイントがある事を告げると、3階の研究室を案内してくれた。
ドアには、"平賀研へようこそ"と書かれており、その下にはユーモアな平賀博士の似顔絵が笑っていた。
ドアをノックすると、「どうぞ」という大きな声が返ってきた。
部屋へ入っていくと、パソコンが数台置いてあり、その前に学生や院生が座って操作していた。中には海外からの留学生もいるようだ。その内の一人がこちらを向いて軽く会釈してくれた。
また、奥の方には高級そうな計器類や、複雑な研究装置が置かれている。
研究室は、おおむね整理されていたが、ただ一ヶ所だけ書類や本等がうず高く乱雑に置かれている机があった。その影からひょっこりと顔を出した男がいる。
「やあ、神藤さんですか? お待ちしておりました。私が平賀です」
平賀源一郎博士だ。この男、眉毛が太く、力強い目をしていて、一度決めた事は最後までやり抜くという気概が感じられる人物である。
「どうも初めまして、神藤といいます。今日は宜しくお願いします」、と言いながら、神藤は乱雑に散らかった机の上に目を走らせた。
「やあ、これね! ちょっと今、昔の資料を探していたところでね」と、平賀はやや照れながら言った。
神藤も、それを見て苦笑するしかなかった。
「ところで、北里先生から聞きましたが、神藤さんの研究も面白そうですね!」
「まあそうなんですが、今行き詰まっているんです。それでそれを打開する為のヒントがあるんじゃあないかと思って、ここへ来たんです」
「はい、分かっていますよ。私が今研究しているのは、ダークエネルギーです。今までは重力は引力しか無いと思われていました。この常識を覆してしまうのがダークエネルギーです」
「ええ、その辺りの事は私も知っていますが、まだまだ未知の存在で謎ばかり、ということですよね」
「まあ、一般的にはそう思われていますが・・・」,そう言いながらも、平賀の目はにこにこしている。
その表情を見ながら神藤は、不思議そうに尋ねた。「まさか、何か発見したんですか?」
「それはともかく、私たちの実験の成果を見て頂く事にしようかな。八階まで一緒に行きましょう」
そう言いながら、平賀は内線電話で「児玉君、例のもの準備しておいてくれ!」と指示した。
八階まで行くと、そこは周囲がガラス張となっており、太陽の光が溢れていた。このフロアーだけは、他の階に比べ、天井が異常に高くなっている。また床は板敷きで体育館のような趣がある。
平賀が叫んだ。「児玉君、何処にいるんだ!」
「先生、ここですよ!」
神藤は、ぎょっとした。頭上から声がしてきたのである。
このフロアーは床から天井まで5メートル程ある。その天井すれすれに銀色のスーツを着こんだ児玉という人物がいたのだ。
浮いている。しかも何の音もしない。
「児玉君、少しは慣れたかね?」
「ええ、まだ充分とはいきませんが、大分コツをつかめてきたようです」
神藤は、度肝を抜かれた。「平賀さん、これがダークエネルギーですか?」
「そうだよ、私の研究チームはダークエネルギーの謎を突き止めた。そして、それを制御する方法もね」
「これは素晴らしい。ここまで進んでいるとは思いませんでした」
「はっはっは、気に入ってくれましたか。じゃあ、もう少し見ていて下さい。児玉君、今度は仰向けに寝てごらん」
児玉は、ベルトに着いている装置を使って何やら操作している。すると、立ち姿のまま浮いていた児玉が動き出し、ゆっくりと仰向けになった。
それを見ると、宇宙飛行士が無重力の中をフワフワと浮いているが、それとは全く違う動きだ。もっとしっかりとした動きになっている。空中で完全に静止することも出来るのだ。
「よし、今度はスーパーマンのように、空中を移動してみなさい」
児玉はうつ伏せになり、徐々に前へ進み出した。スーパーマンのようにスピードは出せないようだが、それでも空中を自由に動きまわれる事は分かる。
「ここまでダークエネルギーを使いこなしているとは驚きです」、神藤は素直にそう思った。
「そうですか、あなたの研究に役立ちそうですか?」
「もちろんです。是非、ご協力をお願いします」
平賀は、快く承諾した。これで、神藤の研究にも展望が開けるというものだ。
「神藤さん、じゃあもう一つ体験してみてください。今度は屋上へ行きましょう」
「まだ何かあるんですか?」
平賀は、イタズラっぽい笑顔を見せた。そして、上方を見つめて「おい、児玉は君、もう降りてきても良いぞ」と言った。
児玉を見ると、頭を下にして逆さまに座禅をしているような格好をしていた。
「はーい。でももう少し練習してますから」
「そうか、あまりやり過ぎて体調を崩すなよ」
そう言いながら、二人は屋上へ向かった。
そこには、UFOのような円盤型の物体が鎮座していた。
「いったいこれは何ですか?」
「はっはっは、これも私たち研究チームが造った乗り物ですよ。さあ、乗り込みましょう」
神藤は、この奇妙な乗り物を見ていたが、入り口が分からない。
そのような神藤の戸惑いを横目でみながら、平賀はポケットから携帯電話のようなものを取り出した。そして、そこにあるボタンを一つ押した。
すると、円盤の上部が丸く開き、そこから円筒状のものが飛び出し、こちらに向かってきた。
それは、太陽の光を反射し、キラキラと輝いている。そして、平賀と、神藤の前にふわりと着地した。
床を除いて、他は全てガラスのようなもので出来ている。
しかし、その円筒形の物体の表面を見てもドアがない。
神藤は、不審な顔を平賀に向けた。
「何も心配は要りません。この中に入りましょう」と言った。
すると、不思議な事にガラスの表面にヒトが入れるだけの隙間ができた。
そこへ、平賀が先に入り、大丈夫なことを確認してから神藤がそれに続いた。
神藤が乗り込むと、さっきまであった隙間が音もなく小さくなり、やがて消滅した。
神藤が、不思議そうにそのガラスの様なものに手で触れてみると、それは以外にも柔らかいものであった。
「神藤さん、それは特殊素材で出来ていてね、空気の分子は通過させるが、その他の物は遮断出来る。これは、もっともっと柔らかくする事が出来るからマスクにも.応用できるよ」
「そうなんですか、こんな研究もやっているんですね」
どうも平賀は、人を驚かせるのが好きらしく、ニコニコ笑っている。
やがて、円筒形の物体は二人を乗せたまま、ふわりと浮かび円盤上部の穴に吸い込まれた。
円盤の中は、最初暗かったがその円筒形の物体が所定の場所に収まると、明かりが点灯した。
その明かりで照らし出された場所は、リビングルームのような部屋であった。
豪華なソファーやテーブル、それに冷蔵庫に飾り棚まで置いてあった。また航空機の窓のようなものがあり、そこから外を見ることができた。
「平賀さん、これはくつろげそうな部屋ですね。しかし、こんな家具が置いてあったんじゃあ飛行するのは無理のようですね。見たところ、家具は固定されているようには見えませんから。結局この円盤は置物ということなんですか?」、そう言いつつ平賀を見ると壁に掛けてあったヘルメットを被り、更に特殊な眼鏡をしていた。
「神藤さん、心配はご無用ですよ」
「そうなんですか? じゃあコックピットを見せてください」
「そんなものは必要ありませんよ」
「からかわないで下さい」
そう言われても、平賀は落ち着いたもので珈琲の準備をしている。
「神藤さん、そうカリカリせずにそこに座って珈琲でも飲みましょう」
神藤は釈然としないままソファーに座る。
「ところで、そのヘルメットは何ですか?」
「これですか、私もこのデザインは気に入らないんだ。少々大袈裟すぎるように感ずる」
そう言いながら、左手でそのヘルメットを撫でている。
「うーん、それに少し重い。もう少し改良しなければならないな」
平賀は、一口珈琲をすする。
「神藤さん、そう怪訝な顔をしないで下さい。そろそろ、あの窓から外を眺めて見ませんか?」
「さっき見ましたよ」
「もう一度見て下さい。・・・さあどうぞ!」
神藤は仕方なく、窓に近づき外を眺めた。
「あっ、なんてことだ。実験室があんなに小さく見えている。いつの間にこんなに高く上昇したんですか? 誰かが他の部屋で操作しているんですか?」
「いいえ、この円盤に乗っているのは私達二人しかいませんよ」
「どういうことですか? それにこれだけ上昇したというのに、全く気がつかなかった」
「じゃあ、ひとつひとつ疑問に答えていきましょう。まず、なぜコックピットが無いのか。なぜなら、このヘルメットがその代わりをしているからです。このヘルメットは私の脳波の微妙な変化を察知することが出来るんです。私が頭の中で上昇しろと思えば、その通り上昇する。右や左への旋回も思いのままです。そして、この眼鏡がディスプレイ装置になっているんです。それに何か障害物があれば自動的に避けてくれますからね。今は高度1000メートルと言うところですね」
「本当なんですか? ここまで応用されているとは心底驚きましたよ」
「それに、ダークエネルギーを制御することで、どんなに加速しても、旋回してもこの円盤の中に居れば、それを感じないで済むんです」
「うーん、それは素晴らしい。私の異世界転送装置においても、このダークエネルギーは必要不可欠なものになるでしょう」
「そう言ってくれると、私も嬉しいですよ」
「そうです。異世界に転送された時、その場所にあるものと融合反応をしてしまうんです。それは生物にとっては命にかかわることです。それをこのダークエネルギーの斥力を利用して排除できれば、うまく行くんじゃあないでしょうか。是非その装置の開発に協力してください」
「もちろんです」
二人の天才科学者は固く握手をした。やつれていた神藤の体にも活力が沸き上がってきたようだ。




