ネズミの転送実験
久々に、物理学者の神藤博士が登場します。
そう簡単には、異世界転送実験が上手くいかない所を表現したいと思っているのですが……
士郎が、なんでも屋ライフアシストで苦労している間も神藤は、研究に没頭していた。
彼を中心とする研究チームは、いよいよ小動物を異世界へ送り込む実験をする所までたどり着いていた。小動物はハツカネズミを使用した。
実験室の中には転送ルームがあり、壁は二重三重に密閉され、前面が大きな特殊ガラスで出来ていて、中を見ることが出来た。
転送室の外側には、ディスプレイや様々な計測器、キーボード、数字キー等が設置されている。
神藤勇一は、特殊ガラスの前に立ち、ハツカネズミを覗き込んでいた。何も知らずに餌を食べたり、毛繕いをしているがこれから世紀の大実験のモルモットにされるのだ。
『おい、無事に戻って来いよ!』、勇一は心よりこの実験の成功を願っていた。
研究所のメンバーもそれぞれ所定の位置につき、神藤の姿を見守っている。
神藤は、くるりと向き直りスタッフ一同を見つめた。
「やあみんな、いよいよ生きた動物で実験を行う。人類史上初の試みだ。まだ未知のことも多い。このネズミも無事に戻って来れるかどうかも分からない。だからどんな不測の事態が生じるかも分からない。その時には臨機応変に対処してほしい」
神藤の言葉で一同に緊張が走った。
「よしそれでは始める。マシーンを起動してくれ」
"クイーン、クイーン "という音が始めは小さく、次第に大きくなっていく。暫くすると、ディスプレイ画面に、"転送OK"の文字が表示された。
それを見て神藤が「転送ボタンを押してくれ」と言った。
すると、転送室のネズミを入れた籠がカタカタと揺れだし、“パン"という大きな音がすると、その場から消えた。
「よし、転送先のモニターを表示するんだ」
そのモニターを見たスタッフがざわめいた。
「おい、様子が変だぞ!」
「あのネズミ、グッタリしているぞ」
神藤も、そのモニター画面を食い入るように見ていた。額に汗が滲んでいる。「失敗だ。ネズミをこちらに戻してくれ」
再び転送室の中でカタカタという音がし、“パン"という音とともに、ネズミを入れた籠が現れた。
その様子を見て一同唖然となった。モニターで見た時よりも酷い状態だった。全身から出血をし絶命していたのである。
「とりあえずネズミを調べてくれ」
一ヶ月後勇一は、顧問となった北里博士の家を訪ね、応接室へ案内された。
「先生、ご無沙汰しています」
「神藤君、頑張っているようだが、なかなかうまくいかないようだね」
「ええそうなんです。無機物ならともかく、生命体が異世界を往き来するというのは難しいようです」
「ほう、君らしくもなく随分弱気な事を言うじゃあないか」
「そうです、今は弱気になっています。だから先生の助言が欲しくて来たんじゃあありませんか」
「まあそうむくれるな! ところで実験の経過を話して見てくれ」
「第一回目の時、ネズミは全身から血を流して死にました。二回目は籠ではなく鋼鉄の箱に入れて実験して見ました。やはり結果は同じでネズミは死亡、そして鋼鉄の箱には蚊が突き刺さっていました。突き刺さっていたと言うよりも、蚊と鋼鉄とが融合していたんです。これは転送した先に偶然蚊が舞っていたのでしょう」
「なるほど、今まで存在していなかったものが突然そこに現れたらどうなるか、ということだな! 何も無い空間といっても、そこには空気の分子が有ったり、様々な素粒子なども飛び交っている。また偶然そこに虫が飛んで来ることもある。そんな所へ突然物質が現れたら、いろんな反応が起きても無理はない。粒子加速機で素粒子をぶつけて反応させているが、それと同じような事が起きているんじゃあないか?」
「恐らく先生の言う通りでしょう。これを防ぐ手段は無いんでしょうか?」
「ああ難しいところだなあ。しかしB-29の事件では、乗員は爆発によって死んだだけで、他には特別異常は無かったと聞いている」
「そうなんです。そこに何かがあるんでしょうが?」
北里博士は、暫く考えてから、おもむろに話し出した。
「君はダークエネルギーを知っているかね?」
「それは知っています。宇宙物理学で立てた仮説ですね。しかしあれは謎ばかりで、実際に存在しているのかどうかも分からない代物ですよね!」
「私もつい最近までそう思っていた。それに関して面白い人物がいるから紹介してやろう。打開策が見つかるかも知れんぞ」
「そうですか、是非紹介してください」
「その人物の名前は、平賀源一郎だ。電話をしておくから、行ってみなさい」
次回はダークエネルギーの研究者平賀博士が出ます。
ー風変わった人物にしたいと思っていますが、上手くいけるかな?




