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なんでも屋稼業その2 北陽大付属病院にて

 北陽大附属病院は、通常の入院患者とは別棟にVIP専用の入院設備が整っている。

 そして、そこは最新のセキュリティシステムで守られている。

 その上、今回はパーフェクトビクトリー社の優秀なガードマンが交替で出入り口を監視しているのだ。

 また、飛鳥が使っていたのとは別のホバークラフトが2台、周囲を巡回警備している。

 東藤博士は、そんな場所に入院していた。

 また、そんな博士に付きっきりで診ているのは、脳外科の分野では世界的に知られている轟先生である。   そんな所へ士郎がフルフェイスのヘルメット姿で入ってきた。

 当然のことながら門の所でガードマンに呼び止められた。

 「おい君、ここは一般人は入れないよ。向こうの一般病棟へ行ってくれ」

 「分かっている。一之谷博士からの荷物を運んできた」

 「なんだって君、とにかくそのヘルメットを取ってくれ。確認するから」

 そう言いながら、ガードマンは肩にかけてある装置を取り出した。

 「これは、声紋分析装置だ。この装置に向かって、名前を言ってくれ」

 「へえ、声紋分析装置ねえ。洒落たものもっているねえ」

 士郎は、ヘルメットを取り、珍しそうに、その装置に見入っている。

 「さあ早く名前を言うんだ」

 このガードマン、子供のように無邪気に見ている士郎にイライラしながら言った。

 「はいはい、じゃあ言いますよ。俺の名は、城島士郞だ」

 士郎は、はっきりとした口調で言った。

 「よしいいぞ。士郎君だね。ナノマシーンを運んで来たんだろう。声紋も顔も一致した。バイクを駐輪場に置いたら、入ってもいいぞ」


 「ありがたいねえ、これで俺の仕事も無事終わる事が出来そうだ。ところで、飛鳥たち遅いなあ---」


 病棟に入りナースセンターへ向かった。

 「すみません。城島といいますが轟先生に渡したい物があるんです」

 「ああ、聞いています。でも轟先生は、東藤博士の病室にいます。ここで預かっておきましょうか」

 「いや、大切なものだから直接渡したいんです」   「そうですか、じゃあロビーでお待ちください。先生が戻ってきたらお知らせします」


 士郎は、ロビーに行き上着を脱いだ。

 そしてその背中の部分の裏地にあるチャックを開けると、そこからナノマシーンの入ったジュラルミンケースが出てきた。

 ジュラルミンケースを開け、中身を調べる。

 特に異常はないようである。  

 あとは、轟先生が来るのを待つのみだ。

 

 暫くすると、何処かで聞いたような声がしてきた。

 どうも警備員と話しているようだ。    

 「どうだね、異常はないかな」

 「はい、異常ありません」  

 「そうか、それは結構。ところで、城島君は来ているかね」  

 「はい、ロビーに座っている方がそうです」  

 「分かった、御苦労!」

 

 士郎は、その声のする方へ顔を向けた。

 その人物は飛鳥である。  


 早足で飛鳥が近付いて来る。  


 「やあ、飛鳥さん、こっちこっち」  

 士郎は、立ち上がって手を振った。  

 飛鳥もまた、その姿を見て満面の笑顔を見せた。

 「士郎君、狙撃されたんだって」 

 「ああ、そのようだ」他人事のように答える。  

 「君という男は肝が座っているな」  

 「それより、マヤといっしょじゃあないんですか?」  「ああ、マヤ君か。すぐ来るよ。何か買い物があるそうだよ。ああそうそう、お腹空いていないか。ハンバガーを買ってきたよ。よかったらどうだい」  

 「ああそう言えば、あれからずっと食っていないな。じゃあ遠慮なく頂きます」  

 「そうしてくれ、飲み物はあそこに自販機があるよ」  「あっそう、じゃあ行ってくるよ」  


 士郎は、缶コーヒーを買ってきた。  


 「おお、腹減った」そう言いながら、嬉しそうに食べる。  


 その時、飛鳥の胸にある小型無線機が鳴った。  

 「了解、すぐ行く」、飛鳥は無線機に向かって喋った。  

 「士郎君、用事ができた。じゃあまた後で会おう」  「あいよ、忙しいんだね」モグモグしながら言った。  「何が起こるか分からんから大変だよ」  

 そう言いながら、そそくさと立ちあがり早足で去っていった。 


 暫く待っていると、今度はナースを伴って、白衣の男が歩いて来る。

 白髪混じりの髪をしているが、額は広く知的で且つ意志の強そうな表情をしている。

 だが、少々疲れているようだ。  


 「先生、あそこに座っている方が城島さんです」

 士郎は、その声を聞いて立ち上がった。  


 「城島士郎と言います」  

 「ああ、一之谷さんから聞いているよ。君、忍者なんだって?」  

 予想外の質問にやや戸惑った。  

 「え、まっまあ、忍者の訓練は受けてきました」  

 「そう照れんでもいい。相当な腕前だと聞いているよ」  

 「はあ、ありがとうございます」頭を掻きながら答えた。  

 「それはそうと、東藤さんは、かなり危ない所まで来ている。君、例のもの持って来てくれたんだろう」   「はい、ここにあります」士郎は、ジュラルミンケースを掲げて見せた。  

 「よし、じゃあ一緒に来てくれ」


 士郎は 轟先生と、ナースの後を付いていく。


 一般病棟とは違い、ホテルの通路を歩いているのではないかと錯覚する。  

 東藤博士の病室の前にも警備員が立っている。ここはさすがに轟先生だけあって、すぐに病室へ入れてくれた。  

 病室はかなり広くできている。窓際には綺麗な花が活けられていた。  

 東藤博士の体には様々な管や、センサーが付いている。そのお陰で、何とか生命が維持出来ているようだ。  

 「そこのテーブルの上を片付けてくれ」と、轟先生がナースに指示を出す。  

 「東藤博士、もうすこしの辛抱ですよ」  

 轟先生は、そんな事を呟きながらジュラルミンケースをそのテーブルに置いた。

 そしてケースの蓋を開け、ナノマシーンの準備をする。  

 そうやって、冷静に準備を続けていた轟先生であるが、急に額から汗が吹き出てきた。動作も少しぎこちなく感じる。  

 「先生、大丈夫ですか?  大分お疲れのようですが」ナースは、そう言いながら、先生の額の汗を拭った。  「いや、大丈夫だ。士郎君、パスワードを教えてくれ」  

 士郎は、先生の状態を見ながら少し戸惑った。  


 「どうした士郎君、早く教えるんだ」  

再度促された。  


 「そうですか、じゃあ私がパスワードを入力しますよ」と答えた。  

 「分かった、そうしてくれ」何か焦っているような言い方だ。  

 先生をよく見ると、目が血走っているように見える。

 その時、突然ドアが開いて、飛鳥とマヤが入ってきた。  

 「やあ、士郎君」と飛鳥。  

 「士郎さん、どんな状況?」とマヤ。  

 「うーん、これからナノマシーンを注入するところなんだが、轟先生がどうもねー」  

 「あら、どうかしたの?」  

 「どうも過労が祟って、動きが変なんだ」  

 「まあ、あんなに汗をかいているわ」  

 「それでもなんとかナノマシーンを注入したようだ。あとは、ナノマシーンに任せれば何とかなるさ」と、冷静に見つめる飛鳥。

 ところが、轟の呼吸が大きく乱れ、やがてタブレットを持ったまま倒れてしまった。  


 「先生、大丈夫ですか?」ナースも大声で叫びながら、屈み込み轟の様子をうかがう。  

 轟は、痙攣を起こし今にも気絶しそうになっている。  「これはマズイぞ。ちょっと私に見せてくれ」飛鳥が、何かに気付いて轟の後頭部を探る。  


 「くそっ、これを見ろ!  何かが埋め込まれている。おそらく誰かが先生の脳をコントロールしているんだろう。それに抵抗しようとして先生は苦しんでいたんだ」


 「おいっ、大変だ。タブレットを見ると、先生は安楽死のボタンを押したようだ」と士郎が床に転がっていたタブレットを見ながら叫ぶ。  

 「まずいぞ、士郎君、早くキャンセルのボタンを押すんだ」  

 「さっきから押しているんだが反応しない。倒れた時の衝撃でタブレットが故障したようだ」  

 「なんだって、それじゃあ、やりようがないぞ。なんてことだ」飛鳥は天を仰いだ。  


 轟は、ついに気を失い担架で運ばれていく。


 病室には静寂が戻ったが、士郎や、飛鳥それにマヤには、絶望と虚しさと疲労感が残った。  

 同時に、士郎の頭の中に札束が消えていく映像が映った。  


 その時、病室のドアをノックする音が-----。  

 皆の意識がドアに集中する。  

 『いったい今頃、誰が入って来るというんだ?』と誰もが思った。  


 病室のドアが、ゆっくりと開いていく。  

 

 そして、現れた男の顔を見て、唖然とした。  


 「やあみんな、酷い顔をしているじゃあないか」男は平然と言ってのけた。  


 「おい、お前は誰だ!」飛鳥が立ち上がる。  

 士郎も立ち上がり、不思議そうに顔を見つめる。

 「どういう事だ?  飛鳥が二人いるとは」  

 「飛鳥さん、どっちが本者なの?」と、当惑気味のマヤ。 


 「飛鳥さん、忘れちゃあ困りますよ」と言って、今入ってきた飛鳥が笑っている。  

 「やだなあ、私だよ」声音が変わった。  

 「はっはっは、私が変装の名人だって事を忘れちゃあ困る」  

 そう言いながら、その男は変装を解いていく。


 やがて現われた顔を見て、士郎が、驚きの声を上げた。  「おっ、お前はジョー黒崎。なんでここにいる」  「黒崎か、まさかお前が変装しているとは」と飛鳥。  「忘れちゃあ困りますよ、飛鳥さん!」  

 「なんだ、飛鳥さんとジョーは知り合いだったんですか?」と、黒崎と飛鳥を交互に見つめる士郎。  


 「そうだ。私がアメリカの本社にいた時、迷宮入りの事件を次々に解決していった探偵事務所があってね。黒崎はそこで働いていた。そんな評判を聞いて、我社でも彼に依頼した事があったのさ。それでまあ、その黒崎が日本に来ているという事を聞いて頼んであったのさ。しかし、私も忙しかったから頼んだままで、まだ会って打ち合わせをする暇もなかったからね。だが、残念ながらこんな結果になってしまった」

 飛鳥は東藤博士が、ベッドに横たわっている姿を見て、肩を落とした。  

 「飛鳥さん、がっかりする事は無いですよ」  

 「どういう事だ?  轟先生は、安楽死のボタンを押し、今はそれをキャンセルする事さえ出来ないんだ」   「ふふ、そのナノマシーンが本物であればね」  

 「それは本物だ」と士郎が言い切る。  

 「おや士郎君、君とはさっきロビーで会ったよな」 士郎は唖然として、黒崎の顔をマジマジと見っめる。  「何だって、あの時の飛鳥さんは黒崎だったのか。とう事はまさか−−−」 士郎はキツネに騙されたような微妙な顔付きになる。  

 「その通り。そのまさかだよ。その時にナノマシーンを偽物と入れ替えた。君が自販機に行っている隙にね」  黒崎は、そう言いながら、手提げ鞄の中からジュラルミンケースを取り出した。  

 「それにしても、何故そんな事を---!」と飛鳥。  


 「今朝、轟先生の様子がおかしかった。時々別人格になったような素振りがあったからね。確信は無かったが、あとは自分の直感を信じた」  

 「なるほどな、君に依頼しておいて良かったよ」 

 「それにだ、警備員が二人買収されていた。だから、ここからの情報は筒抜けだった。もう一度、警備体制を見直した方がいいだろう」  

 「そうだったのか! 君の忠告を受け入れよう」  

 

 「くそっ、また黒崎に御手柄を盗まれたか。病院まで来たら気を緩めたのが悪かった。最後の詰めが甘いな。反省反省!」  


 「士郎君、何をブツブツ言っているんだ。そんな暇はないぞ。さあ急ごう。東藤先生を復活させるんだ。ナノマシーンの扱い方は知っているね、頼んだよ」  

「ああ、任してくれ」  


 こうして、東藤博士は、かろうじて命を取りとめた。以前のように体が元に戻るまでには、まだ一週間程はかかるだろう。

 

 だが士郎は、面白くなかった。  

 「ふん、黒崎め。今回もやられちまったな」  

 そんな訳で、今回も報酬を全額貰う事が出来なかった。それも前回とは違い、自分から言い出した。それは、忍者としてのプライドがあるからだ。  


 人生には、思い通りに行かないことの方が多い。だが、そんな時にどれだけ柔軟に対処出来るかが問題だ。

 士郎は、そんな事を自分に言い聞かせていた。

 

 なーんてね、本当はそんなに格好いいもんじゃあ無かった。

 2,3日はふてくされていたのだから。  


 頑張れ、若造!  


 「おっちゃん、ラーメンおかわり」  

 やけ食いする士郎であった。

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