なんでも屋稼業その2 スナイパー
士郎は、再び東北自動車道へ向かって行った。
先ほど、東藤博士の様態はあまり良くないと言う情報が、ライフアシストよりメールで送られてきた。急がねば、取り返しの付かない事になってしまうだろう。
途中サービスエリアで、簡単に昼食をとった以外は休まなかった。
目指す北陽大附属病院は盛岡市郊外にある。盛岡インターで高速を降り、国道46号線へ入った。
ここまでは、何の邪魔も入らず順調にいっている。
だが、北上川を渡っている時に異変が起きた。突然、士郎の乗って入るバイクのバックミラーが破壊された。
士郎は、周囲に注意をはらった。すると、橋の向こう約1000メートル程離れた所にある10階建てのビルの屋上に怪しく光る場所を見つけた。
『あんな所から狙っているのか。今日は結構風もある。風の強さも計算しながら狙っているな。なかなかの腕の持ち主だ』
そう思っている間にも、弾丸が士郎の頬をかすめた。
そこで士郎は、姿勢を低くし、バイクを蛇行運転させる。
一方、ビルの屋上の男は、スコープ見ながら狙いを定めている。
『あいつ、気が付いたな。だが無駄な事だ。次で仕留めてやる』
そう思って、再び照準を合わせた。
だが、スナイパーの額に汗が吹き出てきた。
『くそっ、どうした。あいつの姿がダブって見えるぞ。俺の目がどうかしちまったかな?』
彼は、目を細めたり、何度も瞬きして見たが、どうしてもハッキリと見えない。
ついに彼は、狙撃を諦め無線機を取り出した。
「こちらスナイパーだ。ジャック、あと20秒で通過する。頼んだぞ!」
ベンツの中で、ジャックと呼ばれた男はエンジンをふかし、いつでも急発進出来るように待ち構えている。「ああ、何時でもいいぜ!」
やがて、バイクの音が近付いて来る。
ジャックは頃合を見計らって飛び出す。バイクにぶつけるつもりである。
ところが、飛び出したはいいものの、そこは突然噴き出した白い煙で一杯になっていた。視界はゼロである。
「何じゃこりゃあ!」
突然の事に、慌てたジャックは、アクセルを強く踏んでしまった。
すると、ガシャーンという大きな音がして車が止まった。何かにぶつかったようだ。
やがて、白い煙が収まるとそれは士郎のバイクではなく、民家の壁に激突していたのが分かった。
壁は無残にも穴が空き、ベンツは、ヘッドライトが割られ、バンパーも開きかけている。
横を見ると、バイクに乗った士郎がこちらを向いて笑っている。
直ぐに窓を開けてピストルを構えようとしたが、それを見た士郎はすぐに走り去る。
ジャックも、慌ててバックし方向転換をして士郎を追った。
士郎は、バイクを左右に揺らしながら走っている。後ろの敵にも、また前方のビルの上の敵にも対処するためだ。
ジャックは、窓からピストルを持った手を出して、撃とうとしたが、前方の士郎が何かを道路にばら撒いた。
マキビシである。
ジャックは、咄嗟に手を引っ込めナビ画面の下にある赤いレバーを引いた。
すると、車は何と片輪走行を始めたのである。バランスはコンピューターが自動で行なっている。
「ほう、なかなかやるじゃあないか!」と士郎。
士郎は、それを見て急ブレーキをかけ、ジャックナイフターンをし、逆に片輪走行をしている車へ向かって行った。
腰にある飛鳥から貰った剣を取り出し、右手に高く持って突進して行く。
まだ片輪走行をしている車とスレ違いざま、鋭く剣を振り抜いた。
すると、車の右前輪が切り離された。
車が片輪走行から普通走行に戻ったが制御不能になりスリップしながら、派手に電柱にぶつかった。
士郎は、それを横目に見ながら平然と通り過ぎてゆく。
『このベンツ、川口ジャンクションからずっと俺を付けてきた車だ。やはりな----。あとは、ビルの上の敵だけだな』
士郎は、再び例のタバコのような形の笛を取り出し口に当てた。
ビルの上にいるスナイパーは、仲間がやられるのを確認していた。
「ちっ、ジャックの奴、しくじったな」と、一人つぶやくと、再度狙撃銃のスコープを覗いた。
「おや、今度はまともに見えるぞ。今度こそ、奴を仕留めてやる」
そう言いながら、士郎に照準を合わせていると、妙なことに気が付いた。
「何だ? 黒い鳥がバイクの周りを飛んでいる。あれはカラスだな。邪魔だな」
気を取り直して、再び照準を合わせる。
だが、時間が経つに従ってカラスがますます増えていく。
「くそっ、どういうことだ」
やがて、カラスに全てが覆われてしまった。
スナイパーは、焦り出し士郎がいるであろう場所を撃ちはじめた。
だが、数羽のカラスが地面に転がっただけだ。
次第に苛立ちが増してくる。
そんなスナイパーの背後から突然声がしてきた。
「おいおい君、俺になんか用なのかなあ?」
スナイパーは、ビクッとして振り向いた。
すると、何か獣のようなものが、サッと動き、同時に空気を切り裂くような音がした。
声のした方向には誰もいなかった。
更に、自分の持っていたライフルを見ると、その銃身が10センチ程斬り落とされている。
スナイパーの顔に汗が滲む。
「おーい、どっちを向いているのかなあ?」
その声は、スナイパーの斜め後ろから聞こえてくる。
スナイパーは、ライフルを捨て、胸から拳銃を取り出し、振り向きざま発砲した。
すると再び、目にも止まらぬ速さで獣は動き、構えた拳銃を持つ手に強い衝撃が走った。そして拳銃は手から離れ、空高く舞い上がる。
気がつくと、スナイパーの首に剣の切っ先が当たっている。
「ああ君ねえ、もう降参した方がいいんじゃあないかなあ」
「お前が士郎なのか?」
「へへ、俺も有名になったもんだな」
「くそっ、お前はさっきまで、下の道を走っていたはずだが?」
「さーね。お前が見ていたのはカラスだろ」
「なんだって、あのカラスの群れの中にいなかったのか?」
「直ぐに、その中からは消えたさ。だからここにいる」
「くそ、妙な技を使う奴だ」
「ふん、忍法と言ってくれ」
「日本の忍者ねえ。そう言えばスコープでお前を狙っていた時、急にお前がダブって見えたが、それも忍法なのか?」
「まあ、そういう事だ。ところで、なぜ俺を狙う」
「お前が目的では無い。東藤博士だ。ナノマシーンさえ無ければ死ぬからな。それが依頼人から受けた任務だ」
「依頼人とは誰の事だ?」
「それは言えない。プロとしては口が裂けても言えんな」
「そうか、お前のプロ根性だけは認めよう」
「なるほど、それで俺を殺すのか」
「いいや。そんな趣味は無い。警察に知らせるだけだ。ところで、なぜ直接東藤博士を狙わないんだ?」
「当然そっちも刺客を送ってはいる。だが、パーフェクトビクトリー社の連中の守りを突破するのはなかなか難しいだろう」
「なるほど、それで俺を狙ったという分けか」
「なんだ、不服か?」
「まっいいさ。俺は俺の仕事をやるだけさ」
そう言いながら士郎は、縄を取り出し、スナイパーを縛った。
「もう直ぐ警察が来る。のんびり待っていてくれ。じゃあ俺は急ぐんでね」
士郎は、スナイパーの目の前からかき消えた。
士郎は、再びバイクに乗り、目指す北陽大附属病院へ急いだ。




