表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/71

なんでも屋稼業その2 士郎死す?

 士郎は覚醒した。視界が次第にはっきりしてくる。

 両腕と足をロープでしっかりと縛られ、床に転がされていた。

 どうも、何処かの工場の資材置き場にいるようだ。天井には、ハロゲンランプが点灯している。

 体が動かないので気配を探っているが、士郎の周囲には3人の男と一人の女がいるようだ。

 一人は白衣を着た男で皆からはドクターと呼ばれているようだ。この男は、例のアタッシュケースに入っていたタブレットを操作している。

 また、そのテーブルの上には試験管が数本とシャーレ、それに何かの測定器が置かれている。

 もう一人の男は、黒のスラックスに黒の縦縞の入ったシャツを着ている。上2つのボタンを外しているが、そこから胸毛が見えている。プロレスラーではないかと思えるほどに体を鍛えているようだ。座っているから分からないが、立てば2メートルほどはありそうな巨漢だ。

 そして後ろにいるのは、恐らくナミルだ。あいつの独特な気配を感じ取る事ができる。

 もう1人の女はよく分からない。

 「おや、気が付いたようだね」、白衣の男ドクターが靴音を響かせながら近づいてくる。

 『ちっ、こいつにやついた顔をしているな。嫌な奴だ』

 「なあ君、パスワードを教えてくれないかなあ。このナノマシーンが本当に役に立つものかどうか試したいんだよ」、そう言いながら士郎の顔を覗き込んでくる。

 「なんだと、試すのか?」

 「そうだ、本物でなければどうにもならんからなあ」

 「俺が知っているパスワードは24時間しか有効にならんぞ。その後はナノマシーンを持ち帰っても何にもならん」

 「そんな事は心配しなくても良い。パスワードなどホームに帰ればスーパーコンピュータで解いてやるさ。複雑なパスワードでも1日もあれば充分だ。それよりも、このナノマシーンが本物かどうか確かめるほうが重要だ」

 「そういうことか。しかし俺がそれを教えてしまったら、東藤先生を救えなくなるからなあ。教える分けにはいかんなあ」

 「ふん、東藤など俺たちには関係ない。どうやら少し痛い目にあいたいようだな。ジーク、ちょっと遊んでやれ!」、そう言いながらドクターは、あの巨漢に目を向けた。

 ジークは、持っていた缶コーヒーを一息に飲み干し、椅子から立ち上がった。

 やはりでかい。

 「悪いな、小僧!」、そう言うと、大きな足で士郎の腹を蹴った。

 一瞬、息ができなくなるほどの衝撃だ。腹筋は相当に鍛えてあるつもりだが、それでもきつい。

 「ほう、うめき声も上げないか。こりゃあ遣り甲斐があるなあ」、ジークはにやりと笑い、更に強烈な蹴りを加えた。2度、3度・・・・。

 今度はさすがの士郎も、苦しそうな顔になる。

 ジークは次に、士郎の首根っこを右手で掴み、軽々と持ち上げて壁に向かって投げた。

 恐ろしいほどの衝撃が背中に走る。

 ジークは、士郎の顔を覗き込んだ。「おやこいつ、まだまいっていないようだ」

 体中に痛みがあるが、それでも目は輝きを失っていない。

 ジークは巨漢ながら、早い動きで士郎に迫ってくる。

 今度は左手で士郎の胸ぐらを掴み持ち上げる。そうしておきながら、右手で士郎の顔にパンチを食らわす。

 顔の形が変わってしまうかと思うほどのパンチだ。

 その強烈なパンチを3発食らわした後、ジークは士郎の様子を窺う。

 「おいどうだ、パスワードを教える気持ちになったかな?」

 顔は腫れ、口からは血が流れている。

 だが、ジークの目には、士郎が笑ったように見えた。

 「こいつ、まだ足りんか!」、そう言って再びパンチを食らわそうとした時、士郎の口から 赤い血しぶきがジークの目に向かって吐きかけられた。

 ジークは、たまらず目を押さえた。

 士郎は胸ぐらを掴んでいたジークの左手を掴み、一本背負いを決めた。

 士郎はジークの攻撃を受けながらも、いつの間にか縄をほどいていたのである。

 すかさずハイジャンプをして、両膝でジークの腹を直撃する。更に、ジークに反撃の機会を与えないまま続けて右腕を捻り、肩の関節を外した。

 ジークは獣のような声を張り上げ、右肩を押さえ、よろめきながら立ち上がった。

 「ぎ、ぎざまー、よくも!」、腹の底から押し出したような声だ。

 士郎は口に付いた血を拭いながら「へへ、まだやる気があるようだなあ」、と毒づいた。

 その時、背後から強い殺気を感じ、身を翻す。

 士郎の目の前を風を切って飛んで行った物がある。

 吹き矢だ!

 それはそのままジークの首に突き刺さった。

 ナミルだ。

 間髪を入れず、クナイを放つ。

 だが、ナミルはそれを避けようともせず、両腕を素早く動かしてクナイの方向を反転させ、士郎に向かって飛ばしてきた。

 ナミルのオーム返しの術は健在である。

 士郎もまた、飛んできたクナイを避けようともせず、右手で受け止めた。

 その時、後ろで大きな音を立てて、ジークが床にぶっ倒れた。吹き矢の毒が回ったのだろう。

 ナミルは、腰に付けていた刃渡り40センチ程の剣を2本抜き取る。

 それを見て、士郎はナミルの体制が整う前に、懐に飛び込み、正拳突きを数発食らわし、続けて払い腰を決める。

 床に転がったナミルの左手から剣を奪い取る。

 だがナミルも即座に足を使って、下から士郎の腹を蹴り上げる。

 士郎は咄嗟に、後方宙返りをしてかわすが、そこへナミルが剣を振りかざして飛び掛ってきた。

 凄まじい剣さばきである。

 士郎もまた奪った剣を使って応戦する。

 このナミルも身軽な男だ。士郎の剣をジャンプして避けたり、壁を駆け上り、後ろ宙返りをして、頭上から攻撃を仕掛けたりする。

 士郎は自分自身と戦っているような、そんな気持ちさえしてくる。

 こうして戦っている最中に、「キャー」と言う女性の悲鳴とともに「やめるんだ」と言う大きな男の声が飛んできた。

 声の主は、あのドクターである。

 士郎とナミルは剣を握り、睨み合ったまま止まった。

 士郎がドクターの方を見ると、そこには恐怖に怯えた女性がいる。その背後にいるドクターは女性の首に短剣の切っ先を当てていた。しかもそこからは一筋の血が流れている。

 士郎は、その女性の顔に見覚えがある。

 そう、それはマヤだ。あのサービスエリアで会った女性である。

 「し、士郎さん、ごめんなさい!」、マヤが悲しそうな目をして言った。

 暫しの沈黙の後、士郎の高笑いがした。

 「はっはっはっは・・・・・」

 「おい、お前、気でもおかしくなったか?」、ドクターが困惑したような顔つきになった。

 「安心しろ、自分が非情になれないのが可笑しくってね。俺の負けだよ」、そう言って士郎は自分が持っていた剣をナミルの方へ放り投げた。

 それを見てドクターが「ナミル、奴を縛っておけ。今度はしっかり縛るんだ」と命ずる。

 士郎は再び縄で縛られた。

 「ところで、そのナノマシーンを誰に使ってみるんだ?」

 「喜べ、お前だよ」

 「俺か、まあマヤでなければいいよ。じゃあ俺の治療をしてくれるんだな」

 「治療? ふん安楽死というものを試してみるんだよ」

 「なるほどな、甘くはないねえ、人生と言うものは。それでも苦しまずに死ねるというのは嬉しいぜ。それで、あっちのテーブルにある試験管には俺の血が入っていたんだな」

 「そういう事だ。お前のDNA情報などは調べてある」

 「あんがとよ。それじゃあひと思いにやってくれ」

 「その前に、パスワードを教えるんだ」

 士郎は潔く暗記していた12桁のパスワードを伝えた。

 「おい、ナミル。士郎をあのテーブルの上に寝かせるんだ」

 士郎はテーブルに横にされ、観念したように目をつぶった。

 そして最後に一言「マヤ、元気でな!」と言った。

 マヤはその言葉にうつむき、涙を流す。

 ドクターはタブレットにパスワードを入力し、安楽死のボタンをクリックする。そして手早くナノマシーンのペンシルを士郎の上に持って行き、放出した。

 数分の後、士郎は気持ち良さそうに眠りに入った。

 更に数分後、突然士郎の呼吸が止まった。

 すぐにドクターは脈をはかり、続いて瞳孔を調べた。

 「ふん、あっけないもんだ。奴は死んだ。それと、このナノマシーンは本物だ」

 その後すぐにドクターはナノマシーンの回収を始める。

 「ドクター、誰か来るぞ」、ナミルの押し殺したような声。

 「くそ何者か分からんが、俺がナノマシーンを持ち去るまで時間を稼いでくれ」

 ナミルは無言で頷き、侵入者を迎え撃つために出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ