なんでも屋稼業その2 超人ナミル
士郎が熟睡した後、士郎の頭の上の天井板が音も無く動き、隙間が出来た。
その隙間から、小さな錨の形をした金具が付いた紐がするすると降りてきて士郎の枕元に置いてあるナップサックの肩掛けに器用にひっかけた。何も気配を感じさせないように、ナップサックはするすると上がっていく。
熟睡していたはずの士郎が、やおら起き上がり、ナップサックに手を掛けると同時に、その隙間目掛けてクナイ放つ。
だが、そのクナイはオーム返しのように、今度は士郎に向かって、しかもスピードを上げて返ってきた。
意表をつかれた士郎は、かろうじてそのクナイをかわすが、ナップサックにかけていた手を不覚にも離してしまった。
その瞬間、ナップサックはスーと、天井裏へ消えて行く。
士郎もすぐに天井裏に飛び上がり、賊を追いかける。すると黒い影が音も無く猛スピードで遠ざかって行く。
士郎も負けじと、その後を追う。
その賊は、獣の様に素早く、また音も立てないで動く。
やがて、屋根裏の換気口を蹴破って外へ飛び出した。
士郎も続いて飛び出そうとして、顔を出したら吹き矢が飛んで来た。あわてて顔を引っ込めて、外の様子を窺う。
外には、どうやら3人の男が闇に紛れて、士郎が飛び出してくるのを待ち受けているようだ。
「ナミル、よくやった。だが、注意しろ、あいつはどんな手を使うか分からんからな」
彼らのささやき声が聞こえる。
士郎は、聴力を鍛えている。そのお蔭で通常の人間の数倍の能力を持つ。
『ふん、あの賊はナミルというのか、覚えておこう』
男たちの吹き矢には、痺れ薬が塗ってある。士郎を生け捕りにするつもりらしい。
やがて、士郎が換気口から飛び出してきた。
男たちは一斉に吹き矢を放つ。
士郎は着地に失敗するが、それでも腹ばいになりながら動く。
だが、やがてその動きも止まった。吹き矢が当たっていたのだろう。
それを見て、男たちは士郎のそばに寄って来た。
だが、そこに士郎の姿が見えない。ただ、黒い布切れが地面に落ちているだけだ。
その布地が少しもっこりしているので、布地を剥ぎ取ると、そこに足を痙攣させている猫が横たわっていた。
そう思った途端、何処から現れたのか、彼らの背後から士郎の鉄拳が炸裂し2人が倒される。
しかし、士郎のナップサックを背負った男、ナミルだけが士郎の攻撃をかわし、身軽に木の上に飛び上がった。そこからすかさず吹き矢が飛んで来る。
士郎はそれを最小限の動きでかわしながら、素早く手裏剣を3枚放つ。
だが、その手裏剣もまた前と同様に士郎に向かって戻ってくる。
士郎はその手裏剣をかわしながら思った。
『奴には飛び道具は効かないのか!』
士郎にはやや焦りの気持ちが沸いて来た、『よし、飛び道具がだめなら接近戦か!』
そう思うと士郎は胸から何かを掴み、夜空に向かって投げた。
すると、木の上にいるナミルの頭上や目の前で、“パンパンパン”という音を立てながら、火薬が炸裂し、まぶしい光が溢れた。
ナミルが、あまりの眩しさに目がくらんだ時、背中のナップサックをいつの間にか取られると同時に蹴落とされた。
それでもナミルはバランスを崩しながらも、何とか着地した。しかし、すぐに士郎も飛び降りてきて、ナミルの延髄を蹴り上げた。ナミルはたまらず地面に倒れこみ、うめき声をあげる。
この男の姿はサルに似ている。腕が長く、やや猫背となり、また強力な足を持っている。
『なるほど、ナミルの奴、サルのようにすばしっこい分けだ』、士郎を手こずらせた強敵を見ながらなぜかにんまりした。
そのナミルの姿を見ながら、士郎はナップサックの中身を確認すべく、チャックを開けた。
すると、途端にガスが勢いよく噴出して、覗き込んでいた顔にまともにかかってしまった。
『くそっ、これは毒ガスか!』
すぐに意識が遠のいていくのが分かる。
やがて、全身の力が抜け、ナップサックを地面に落とし、膝を付き、そして倒れた。




