第十話 意外な発見
確認試合の直後、あの空き教室で僕たちは冷酷な現実を突きつけられた。
隣校による「吸収」の脅威、そして担任が提示した、犠牲を前提とする本校舎での籠城作戦。誰もがここで戦うしかないと呑まれかけたその時、通信機を介して直正さんが放った一言が、教室の空気を一変させる。
「防御じゃない。主導権を取る」
前線を外に置き、敵を迎撃する――それは「守り」の枠を超え、自ら戦いに赴くことに他ならなかった。
担任が下した決断は、防御を基本としつつも外部迎撃の余白を残すというもの。
形はまだ、固定されていない。
けれど、確かなことが一つだけある。
――この戦いはもう、“守るだけの戦い”ではない。
三日後の決戦に向け、僕たちの運命が静かに動き出す。
作戦会議が終わって、僕は学園の校門に向かっていた。
門をくぐった時に左側で声が聞こえた。
「もう~...遅いよ」
見てみると、そこには澄花がいた。
「ごめんって。今まで憑霊者じゃなかったからね」
「それはそうだけど......それで、作戦は決まったの?」
「いや、まだ決まってはないよ」
そうだ、作戦はまだ決まっていない。いまだにカチッと決まった作戦は出ていない。
防衛⇒攻撃、場合によっては遠距離攻撃。正直言ってかなり漠然としている。
でも、僕たちには知識がない。そこではある意味仕方ないかもしれない。
「なんか、頭使ってたり戦ったりしたから疲れたよ。早く帰りたい」
「こっちだって。ずっと立ちっぱなしだったからね」
そんな、いつもと変わらない少し軽口の混じった会話をしながら、僕たちは家路へと歩を進めていく。
「今日、家着て久しぶりにアレやらない?」
「うん。当然お菓子とかあるよね?」
「もちろん!」
僕の家に来るのは、澄花にとってはもう半ば習慣のようなものだ。
玄関を開けて、自分の部屋に入る。
澄花は「お邪魔しまーす」と口では言いながらも、慣れた足つきで、台所の床に入っていった。
冷蔵庫を開けて、飲み物と、家に余ってるお菓子を手に持ったまま僕も澄花のもとに行く。
「よし、とりあえず一戦やろ。あの時の疲れをゲームで上書きする!」
「画面に向かってまで戦うのかよ……まあいいけど」
僕も自分のコントローラーを手に取り、澄花の隣に座った。
テレビ画面が明るくなり、いつもの対戦ゲームのタイトル画面が映し出される。
「あ、ちょっと待って。今日こそはボコボコにしてあげるから」
「こっちのセリフ。作戦会議で頭使った分、こっちは直感で動くからな」
お互いにキャラクターを選び、ステージがロードされる。
画面の中でカウントダウンが始まるその瞬間だけは、現実の難しい戦術も、三日後の脅威も、すべて頭の隅へと追いやることができた。
「いくよ、はい先制攻撃ー!」
「うわ、容赦ねぇな!」
指先をせわしなく動かしながら、僕たちはいつものように画面の向こうの勝負に熱中し始めた。
ゲームの後の日常会話から、ふと作戦のヒントを閃き、澄花を見送るまでの流れをすっきりと短くまとめました。
「よし、私の勝ち! はい、これで通算三勝二敗ね」
画面に表示された『YOU WIN』の文字を前に、澄花は勝ち誇ったように笑った。
「あー面白かった。……って、気づいたらもうこんな時間じゃん。明日から新学期の本番だし、遅刻とか絶対にナシだからね?」
「わかってるって。ただでさえ憑霊者になってからバタバタしてるんだから」
「そうだよ。維真は昔っから朝には弱いんだから、ちゃんと早く寝ること」
澄花のその言葉に、頭の奥で何かが繋がった。
「遅刻」――つまり、あえてタイミングをずらす。
相手がこちらの防衛陣形を警戒して攻めてくるなら、予定より「遅れて」動いたり、わざと「遅らせ」を作ることで、敵の裏をかけるんじゃないか。
「……澄花、それ作戦のヒントになるかもしれない」
「さっきの遅刻の話のこと? 確かに使えるかもしれないね。だからって明日、本当に遅刻しちゃダメだからね。じゃ、私はそろそろ帰るわ」
「おう、気を付けてな」
澄花を玄関で見送り、静かになった部屋でテレビの電源を消す。
新学期の日常、そして三日後に迫る決戦。
僕はスマホのアラームをセットして、ベッドへと横たわった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
前回の投稿からかなりの時間を空けてしまい申し訳ありません。
それはさておき、前回の重苦しい作戦会議から一変、今回はいつもの澄花とのゲームタイムでした。非日常に巻き込まれつつも、こうして変わらない日常のやり取りがあるのが二人の良さだなと思っています。
そして、まさかの「遅刻」から作戦のヒントが……?
次回、いよいよ新学期が本格始動します。維真がどんな作戦を組み立てるのか、お楽しみに!




