第3話 魔王候補と不思議な依頼
王都の工房には、今日もさまざまな依頼人が訪れていた。
ルーチェは黙々と作業を進めながら、頭の片隅で思った。
(勇者や王女の依頼だけでも十分なのに、また誰か来るのかしら……)
扉が軽く開き、黒いマントに身を包んだ青年が入ってきた。
「……あなたが、ルーチェか?」
低く、落ち着いた声。瞳は冷たく光り、明らかに王都の常連ではない空気を漂わせている。
「えっと……はい、私がルーチェですけど……」
ルーチェは少し警戒しつつも、作業台の椅子に座ったまま答えた。
(なんだか、ただならぬ雰囲気……まさか……)
「私、魔王候補だ」
青年は無表情のまま名乗った。
「あなたの噂は、王都だけでなく各地にまで届いている。壊れた武具を、想像を超える力に変える――それが本当なら、手を貸してほしい」
ルーチェは口元に手を当て、思わず吹き出した。
「えっ、魔王候補……ですか? えっと、戦うのはそっちですよね? 私は作るだけですけど……」
青年は少し目を細め、真剣な声で言った。
「戦うのは確かに私だ。だが、最強の武具がなければ勝てない。王国の勇者も、魔法使いも、全てを凌駕する武具が必要なのだ」
ルーチェは頷き、作業台の上のボロボロの剣や鎧に目を向けた。
(ふふっ……まあ、任せて。戦わなくても、作るだけで最強になれるのが私の特技だもの)
青年が差し出したのは、鋭利な剣。刃の一部は欠け、柄もぐらぐらで、放っておけば折れそうだ。
ルーチェは手を触れると、金属が軽く震え、欠けた部分が光を帯び始めた。
「……はい、これで大丈夫」
ルーチェの一言で、剣は完全に生まれ変わった。握る者に応じて刃の形を変え、攻撃の力を最大化する――まるで生き物のような武具になっていた。
青年は剣を握り、驚きの表情を浮かべた。
「……これは……まさか、戦わずして、これほどの力を……!」
ルーチェは肩をすくめる。
「戦わないで最強って、私の日常ですから」
その瞬間、工房の扉が再び開いた。王女のエリシアが息を切らして駆け込んでくる。
「ルーチェ! 新しい依頼よ! 勇者も手が足りなくて、どうしても今日中に!」
さらに、先ほどの勇者も遅れて到着。
「ルーチェ! 俺も手伝うから!」
ルーチェは目を丸くした。
(え、今日の私の作業台、もう戦場じゃない……?)
三人の依頼人が一度に集まった工房で、ルーチェはにっこり笑った。
「はいはい、落ち着いてください。戦うのはあなたたちですから。私は作るだけ――今日も世界をちょっと面白くするお手伝いね」
こうして、壊れた剣や鎧、古びた指輪たちは、ルーチェの手で次々と伝説級の魔導具へと生まれ変わっていく。
戦わない彼女が、最強の武具で世界を揺るがす――その不思議な日常は、ますます混沌を帯びていった。




