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反転

 その叫び声に言い返す人は居なかった。恨めしそうにめあちたちを睨み付けてどこかへ行ってしまった。また一からやり直さなきゃ。ううん。マイナスから一に戻してくれた気がする。

「なんかスッキリしちゃった。めあち悪い子だ」

「良いんじゃねえの? 人ってそんなもんだよ。たまには人として同じ目線に立つのも大事だろ?」

「そうだね」

 あるはずのない翼をそっと撫でる。まだ感触は残ってるよ。ふわふわで温かい大きくて白い翼に包まれた感触が。

「………めあちってなんだろうね?」

「はぁ? 人じゃねえのは確かだろ。変だもん」

「うん……」

「だから、なりたいめあちになりゃ良いんじゃねえの? あんたは何になりたいんだよ?」

「そうだね。めあちは――」

 きっと笑われちゃうかな。ううん。サクは笑わない。それに、どれだけ笑われても良いんだよ。それがめあちだもん。

「大空をふわふわ飛びながら悲しむ人に愛を振りまいてあげたい。ハートをいっぱい振り撒いてあげるの。困ってる人のところへ一瞬で飛んで行って、心に降る雨雲をとびっきりの笑顔でかき消してあげるの。真っ白の大きな翼でどこまでも飛んでいきたいの!」

「良いじゃん。なろうぜ?」

「でも……ううん。頑張ってなる! 天使になって見せる!」

 ズタズタの心が元気になって行くのが分かる。サクはすごく優しい人。その優しさがめあちの心を癒してくれる。救ってくれる。

「めあちは気付いたんだよ」

「ん?」

「幸せは自分で選んで良いんだって。サクが教えてくれたんだよ!」

「そんなこと言った覚えはないけど。まあいいや」

 気だるげに伸びをしながら教室へと帰って行った。めあちはもう折れない。太陽の象徴になるんだ。めあちが来ただけで少しでも笑顔を浮かべてくれるように。

「………」

 心が一瞬で晴れ渡って行く。さっきまでの大雨が嘘のように。どこまでも続く青空が心の中に広がって行く。心も体もすごく軽い。曖昧だった決意が輪郭を帯びて行く。どれだけ矢が飛んで来ても良い。その数だけ愛と優しさで返してやるんだ。悪意を降らす雨雲は飛びっきりの笑顔で。めあちは今分かったよ。

「………そんな顔しないで」

 そんな悲しそうな顔しないでよ。今、この瞬間にめあちは人であることを完全に捨てきれたんだから。めあちの道、進み方を理解出来たんだから。

「近い内にめあちから会いに行くよ。レオ」

 教室へ入った瞬間に向けられる憎悪の視線。よく見といてよ。

「良く戻って来れたね? 何も思わないの? 気持ち悪い」

「お前が居たせいでこっちは苦しんでるだぞ! お前が壊れちまえば良いんだ!」

 うん。全部聞こえてるよ。めあちが居るから、めあちのせいで。消えてしまえばこの人たちの悩みは解決される。訳ないよね、めあちが居なくなったら別の人がターゲットになるだけ。

「っ!? なんで笑ってんのよ? なんでこの状況で笑顔になれんだよ!?」

「分かってるからだよ。向ける矛先が無いからめあちを選んだこと。めあちに憎しみをぶつけることで自分を守ろうとしてること」

「なに? 説教でもするつもり? バカにすんなよ!」

「説教なんかしないよ。めあちはあなた達を否定するつもりはない。でもね、きっとめあちを串刺しにしても雨は止まないんだよ」

「………知らねえよっ! お前が悪いんだ。だからお前が俺たちの言葉で壊れるまで――」

「舐めて貰っちゃ困るよ! キミたちの憎しみや怒りは全部受け止めて優しさで返してやるんだ!」

「お前にそんなことは出来ない!」

「出来る!」

「なんでそう言い切れるんだ?」

「甘く見て貰っちゃ困るよ! みんなが相手にしようとしてるのは――」

 全てを受け入れる。人を護り、愛すると決めた。まだ天使には到底なれる気がしないけど。それでも。



「めあちだぞっ!」



 みんなが受けた理不尽や憎悪。根本的な部分を解決していくよ。めあちは無力じゃない。出来る。やってみせる。みんなの怒った顔を笑顔に出来るように。めあちは走り回るよ!

 さぁ。真っ黒を真っ白に変えて行くよ。今度はめあちの番。めあちの信じる道を突き進ませてもらうよ。

「こんな酷い事言われてるのに……やっぱり変だよ。お前」

「それで良いんだよ。みんな違うんだもん。傷付く言葉だってそれぞれ違う。育ってきた境遇だって環境だって。どれ一つとして一緒なんてことはないんだよ」

 そう言い残してめあちは教室を後にした。果てしなくとげとげしいイバラの道を突っ切ることになる。やってやろうじゃんか! めあちだぞっ! 何だってやってやる!

「あれ?」

 廊下の窓ガラスに反射しためあちが見える。髪の毛、ちょっと白くなってる? 気のせいかな? 鏡で見てる訳じゃないから気のせいだ。光が当たってちょっと白く見えてるだけだよね。


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