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祈り

第二章 『祈り』


 人の恨みとか呪詛ってね、無尽蔵に湧いて出て来るんだよ。怒り、憎しむ。人ってそういう生き物なんだよ。今のめあちに足りないのは何だろう。救われる人の笑顔が原動力になってるけど、それで良いのかな。もっと根本的な、もっと大事な感情があるはず。人を人であるとしている感情が。

「こんにちわっ!」

「……なに? 今日も来たの?」

「うんっ!」

 いつしか悩みを持つ人間の区別が付くようになっていた。手当たり次第に救い続けてた末に色として感情が見えるようになった。

「誰もが救われたいなんて願ってないよ。あなたに向けてあげられる笑顔なんて無い」

 それもそうだ。みんながみんな救われたい人ばかりじゃない。無論そういう人だって居るのは分かってた。ただ、いざ目の当たりにすると何も出来なくなっちゃう。どうすれば……放っておくの? もう後悔なんかしたくない。それは嫌だ。

「じゃあね」

「あっ……」

 救われたい人間しか救えない。あの子みたいに出来ないよ。どうすれば良いんだろう。今のめあちとあの子には明確な違いがある。それが何か分からない。

「あっ! めあちだ!」

「やっほ~!」

 頑張ったおかげで友だちが増えた。笑顔で手を振ってくれる友だちを見ると、やって来た努力が報われる気がする。心があったかくなる。

「………そっか」

 知らない人から同じように言われてもこの感情になるのかな? ううん。違う。仲が良いから? 仲が良いってどういう状態なんだろう。

「めあち悩んでる?」

「うん」

「相談乗るよ!」

「ありがと! でも大丈夫!」

 誰かに悩みを話せなくなった。それは元々だった気がする。でも、そうやって話し掛けてくれるのはすごく嬉しい。心配してくれる友だちがすごくありがたい。

「心配……そっか」

 慈しむ心。人を思いやる気持ち。愛情だ。愛を振り撒けるような人にならないと。根本的、心の底から人を救う力になってあげられない。

「うん。そうだ!」

 あの子と私の大きな違いはそこだ。人を愛する気持ちが無かった。元々人に興味なんて無かったから当然だと思う。気付けたことが大きな一歩だ。

「もう一回。頑張ってみる」

 さっきの子を追いかける。分かってもらえるなんて期待していない。それでも、やれるだけやりたい。

「待って!」

「なに? しつこいよ?」

「あのね! めあちとお話して欲しいの!」

「はぁ? 急になに? 話すことなんか無い」

「キミはなにが好きなの? キミのこともっと教えて!」

 人を知ること。人に興味を持ち、喜びや悲しみを今まで以上に近くで寄り添えるように。

「どうせ、その人助けってのも自己満でしょ? 他所でやってよ」

「そうだよ! めあちは人の力になるのが好きなの! 笑顔とか幸せとか、そう言うのが大好き! あなたは?」

 目を丸くして驚いている。めあちの出した答えが思ってた答えと違ったみたい。

「面白いな。そんなこと真っ直ぐ言える奴居るんだ。良いよ。話付き合ってあげる」

 人に興味を持つこと。人に興味を持たれること。相手の全てを包み込んであげられるくらいの愛情で。

「なんか、お母さんと喋ってるみたい」

「めあちはあなたのお母さんと似てるの?」

「全く似てないよ。こんなお母さんだったら良かったのにって思っただけだよ」

 家庭の事情。足を踏み入れてはいけない領域。話を聞き出すことなんて本当はしちゃダメだ。絶対に。

「あんたは将来の夢とかある?」

「夢って言うか目標だけどね、みんなの悩みや悲しみを全部抱えて笑顔溢れる世界にしたい」

「それであんたは幸せなの? 人の汚い感情に塗れて生きて行くなんて正気じゃないよ」

「それでも、めあちは人に笑顔で居て欲しい」

「あんたは人として生きて行くの?」

「え? それってどういうこと?」

「……何でもない。自己犠牲もそこまで行きゃ立派なもんだよ。あんたの場合はそれを幸せと言えるんだから大したもんだよ。人には無理だ」

 この子の言ってること、まだよく分かんない。褒めてくれてるのは分かるけど。

「あんたは私をバカにしないから教えてあげる。私もあんたと同じ夢を持ってたことがある。なんか記憶のどこかに居るんだよ。あんたと同じくらい人を救うのが好きだった奴がさ。実在するかどうかは知らねえし、変な夢でも見てた気がする」

 中には記憶として存在が残ってる人も居るんだ。この子にも何かを託したりしたのかな?

「あなたは何を託されたの?」

「………何を託されたんだろうな。私は」

「あっ……えっと……」

「きっと、それを思い出せたらあんたとはもっと仲良くなれるだろうし、力を貸せるだろうけど。今は私自身の問題と向き合わなきゃいけない。もう諦めるのは終わりにするよ」

「めあちに出来ることはない? その問題を一緒に背負わせて欲しいの」

「無い。これは私がケリをつける。全部終わったらあんたに話すよ。そん時はまた笑顔で聞いてくれよ」

「うん……」

「そんな心配そうな顔すんな。前を向いた私は誰よりも強いんだ」

 その後ろ姿は堂々としていて凄く格好良かった。めあちもあんな格好良くなりたい。前を向いた人の強さ。あの子だからってのもあるけど、底の見えない心の強さ。その姿を見ためあちも、もっと頑張ろうと思える。やっぱりそうだ。頑張る姿は誰かに勇気を与えて頑張ろうと思わせてくれる。心は弱点なんかじゃない。無尽蔵に人の強さを引き出せる凄い魔法なんだ。

「めあちも前を向こう。あの子が帰って来た時に格好良いって思ってもらえるように」

 背負う。全部背負わせてくれなくても良い。両手が塞がってる人に傘を差せるように。一生懸命歩いてる人の為に、飛んでくる悪意の矢を叩き落としてあげられるように。

 誰かの為に自分を捨てる覚悟だってある。こんなこと、怒られそうで口に何か出せそうもないけど。

「よしっ!」

 前を向いて歩く。空を飛ぶことも瞬間移動も、そんな非科学的なことめあちには出来ない。もっと愛を目に見える形でふりまけるようになったら救われる人も増えるはず。愛を見える形で……ハートとか? この空をふわふわ飛んで大量のハートを沢山の人に届けて、たまには心をハートで撃ち抜いてみたり。

「そんな非科学的なことも出来るようになったら良いのにな」

 地に足を付けて一歩ずつ歩く。この一歩が誰かの為になることを願って。いつかきっと世界中が愛で溢れかえるように祈りながら。


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