第二の職業 第七章
エリアマネージャーから会議室に来るよう呼ばれ、会議室に向かった。
T「いろんな部署を回ったと思うけどどうだった?」
私「仕事は楽しいです」
T「パートTさんに怒られたよ。Mさんの心のケアを出来ていなかったね」
私「どの部署に行っても力不足なんだと思います」
T「それはすぐに部署移動になるから、自信を無くしてしまったという事かな?」
私「私は自分に自信を持った事ないです。力不足による戦力外通告で部署移動になっていると思っています」
T「まじかぁ~。俺のせいだね。ごめん!!」
私「どうゆう意味でしょうか?エリアマネージャーが私を部署移動させていたという事ですか?」
T「結論から言うと、そうだ」
私「私に何の説明も相談もなかったですよね。理由を聞かせて頂けますか?」
T「その前に全ての部署に配属されたんだけど、Mさんはどの業務が一番自分に合っていると思った?」
私「内勤が良いです。どの部署でも楽しく働かせて頂けました。一番はないです」
T「Mさんには、この部署に戻りたいって思う部署はないの?」
私「特に無いです。強いて言えば長くいて人間関係をしっかり築けた営業課ですかね?ただ、聞いた話しですが今のOHさんと一緒に働くのは怖いので、OHさんがいる営業課は避けたいです。実は私、大声で叱責されたり、大きな音を出されたりすのが苦手なんです。特に暴力や罵声に弱く、されると思考停止してしまい言葉が出なくなり、反論する事も出来なくなってしまうんです」
T「Mさん物静かな人だもんね。OHさんみたいなタイプとは合わないよね」
私「申し訳ございません。仕事なので、どんな人と働く事になっても仕事はしっかりさせて頂きます」
T「Mさんの気持ちはわかった。まずは各部署を転々としMさんを不安な気持ちにさせてしまった事を謝罪をさせてくれ。申し訳なかった」
私「いえ。終わった事ですしエリアマネージャーが平社員の私に頭を下げるのは止めて頂きたいです。どのような対応が正解なのか分からないので」
T「これから何故全ての部署を回って貰ったのか、Mさんに大きく関わる事を話すから、真剣に聞いてくれるか?朝だし時間が無ければ夕方か時間外に居酒屋でも良いが、かなり時間を貰うと思う」
私「用件だけ完結に教えて頂いて、もし私に選択の余地があるなら後日返答させて頂く形は難しいでしょうか?」
T「難しいね。用件と一緒に俺の気持ちも聞いて欲しいから」
私「エリアマネージャーはいつまでこの支店に留まれますか?」
T「できれば今日中に話しをしたい」
私「わかりました。ご相談ですが、本日残業を早めに切り上げますので、業務終了後、会議室で再度面談して頂けないでしょうか?」
T「わかった。他の支店に行かないと行けないから、これから出発して日帰りで戻ってくる。もしかしたら待たせるかもしれないけど、それでも良いか?」
私「それだとエリアマネージャーのご負担が大きいと思いますので、私と面談するだけなら後日でも大丈夫ですよ?」
T「いや。早く話したいんだ。今日で頼む」
私「ご迷惑ではないでしょうか?」
T「迷惑や面倒と思う気持ちがあれば、面談なんてしないよ。俺がMさんとしっかり話したいんだ」
私「わかりました。1つだけ先に聞いても宜しいでしょうか?」
T「なんだ?」
私「辞職という事実上のクビになりますでしょうか?」
T大笑いしながら「クビにする人間に時間作ったりしないから、そんな心配はしないで」
私「良かったです。夜、よろしくお願い致します」
T「すぐにこの支店出るけど何かあったらメールか着信入れておいて」
私「お気遣いありがとうございます。道中お気をつけて下さいね」
夕方になり、残業時間の目途がついた為、エリアマネージャーにメールを入れておいた。
時間の30分前にエリアマネージャーから支店に到着したと連絡があり、待たせる訳には行かず、すぐに残業を切上げ会議室に向かった。
私「お時間頂きありがとうございます」
T「仕事大丈夫か?終わらせてからで良いんだぞ?」
私「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
T「本題に入ろう」
T「Mさんを苦しめる事になるとは思ってなかったんだが、全ての部署を回って貰ったのは、Mさんをエリア統括主任に任命しようと思ったからなんだ。統括主任になる為には全ての部署の勤務実績が絶対条件だったんだ」
私「え?」
T「これは俺だけの意見じゃなくて、多くの社員から寄せられた声をもとに俺が動いた。それだけの事なんだ」
私「エリア統括主任になるって事は先輩のOHさんより先に私が役職を持つって事ですよね?」
T「そうだ。OHさんのみならず、このエリアの社員全員の上に立つって事だ。社員も俺もMさんにはその実力があると思っているし、俺から見ても下からの信頼が厚いMさんの為なら下の社員は協力的に働いてくれると思っている」
私「お断りさせて頂きます」
T「決断が早いって。もう少し考えてくれよ」
私「私は目立つ事が苦手なんです。そして、社歴が浅い私がエリア全ての社員をまとめる事なんて出来ません。以前にも、お話しさせて頂きましたが私は仕事をして給料を貰う。それだけでじゅうぶんなんです。役職を持ったり上を目指す気持ちなんて一切ないです。上を目指す向上心がある人間が役職を持つべきだと思います」
T「Mさんの気持ちもわかる。だが、俺が動かないといけないくらい多くの社員が望んでいるという事をわかってくれないか?」
私「エリアマネージャーと社員さんのお気持ちはとっても嬉しいです。ですが私は統括主任の器をもっていません」
T「わかっている。初めては皆上手くできない。それを含めて社員がMさんを支えるって言ってくれているんだ。もちろん俺も出来る範囲でサポートする」
私「こうゆう時に個人名を出すのは、いけない事だとわかっておりますが、2人しかいないので言わせて頂いても宜しいでしょうか?」
T「後から言うぐらいなら、Mさんの気持ちを今全部吐き出してくれ」
私「ありがとうございます。はっきり言ってOHさんが私の指示を聞いてくれると思えません。1人が反抗すると波紋ができ、大きな波となって返ってきます。私にはその大きな波を乗り越えられる実力がありません。波を起こさない為にも私が役職を持つべきではないと思います」
T「わかってる。OHさんのプライドは更に傷つき反抗的になるだろうな。だがな、Mさんが今回の役職を受け入れてくれるなら、支店長O抜きで俺とMさんのみでOHさんを好きなように出来るんだ」
私「支店の事で支店長の印鑑なく、そんな事が可能なんですか?」
T「可能だ。報告書には役職者2名の印鑑があれば可能なんだ。現状だとエリアマネージャーの俺と各支店の支店長しかいないんだ。だからこの支店の様に社員と支店長がプライベートな関係を持ってしまうと、現状打つ手がないんだ。他の支店でも同じような事が起きている可能性もある。それを止める為にMさんに力を貸して欲しいんだ」
私「仮にです。仮に私が受け入れたとして、統率が取れなかったり、エリアマネージャーが転勤となり他の方になった場合、私は退職に追い込まれる事になりますよね?」
T「俺が転勤になる場合、そのような事にならないように、しっかり引継ぎをしてMさんのサポート態勢は変わらないようにする。統率が取れない場合、Mさんを支持している社員・支持しない社員と俺が話して、どうしたら良いのか最善策を出してMさんに指示の出し方を変えて貰ったり、まとまるように俺と社員でしっかりサポートする。Mさんに丸投げは絶対にしない」
私「私は目立つ事も人に指示を出すことも誰かを頼る事も苦手です。お気持ちは嬉しいですが、やはりお受けする事は出来ません」
T「社会人をやる以上、克服できる苦手は克服する努力は必要な事だ。Mさんが出来ないと思ったらこんな話はしない。みんなMさんなら出来ると思って承諾しているんだ」
私「完全な過大評価です。私はそんなすごい人材ではありません」
T「頼む!!受け入れてくれ!!みんなの為なんだ!!」
私「ずるいですよ。私が押しに弱いのを理解している上で言ってますよね」
T「俺が悪者になるのは構わない。俺を恨むなら好きなだけ恨めば良いし、嫌えばいい。それを受け止めるのも俺の仕事だ」
私「なんか選択肢なさそうですね…」
T「わかってくれるか!!」
私「確認ですが、受け入れ昇進したとします。最短で降格となった場合、私の処遇はどうなりますでしょうか?」
T「そうならないようにするが、もしもの話しだな。降格になった場合は希望する支店で希望の部署で平社員に戻るだけだ。給料も今と同じになる。そのぐらいだな。クビになったり辞職に追い込まれたり、嫌がらせを受けたり、Mさんが想像している事は起こらないよ」
私「お断りしたいですが、出来ないのであれば業務内容について詳しくお教え頂けますでしょうか?」
T「わかった」
それからエリア統括主任の業務内容などを教えてもらい大まかな内容は
・拠点は現状の支社で良いので引っ越し等はしなくていい
・給料は残業代の代わりに基本給と役職手当を含めプラス15万
・主な業務は各支店を数日~数週間訪問し、作業効率化や業務改善の指導
・各支店の人間観察をし、人間関係や業務に悪影響を及ぼしている人材を突き止めエリアマネージャーに報告し処分を2人で決め、決定後、支店長と3人で話し合いをする
・人材不足で社内を回せない支社へ業務支援として滞在する
・既存の社員では仕事量をこなすだけで1日が終わってしまう為、新入社員の教育担当
・エリアが広い為、他の支社に行く場合、会社の経費でビジネスホテルに長期滞在となる
・内勤業務には営業車が与えられないので、公共の機関やタクシー移動が基本となる
・私に対して不満があがればエリアマネージャーに声が届くようにしてある
という内容だった。
不安は沢山あったが、給料が爆上がりするのが嬉しく、何よりも他の支店に行けばYがいる家に帰らなくて良いという事が飛び跳ねたくなる程嬉しかった。
とにかくYと別れたかった。
距離を取りたかった。
仕事で叶ってしまった。
本当に嬉しかった。
ルンルンな気持ちで帰宅した。
Yが次の休みいつ?と聞いてきた。
〇日の予定だけど、人事異動が今日決まったから、予定は未定と答え、すぐにお風呂場に向かいYを無視した。
数日たち、パートTさんに
T「この時を待ってたんだ」
と小声で話しかけられた。
私「何か良い事でもあったんですか?」
T「まだ発表前だから口にしてはいけないんだけど、Mさんがエリア統括主任になる事だよ」
私「さすが情報早いですね。ゴタゴタに巻き込まれたくないので、人事発令が出るまで絶対に知られないようにして下さいね」
T「私は言わないよ。ただ嬉しくてMさんに応援するって伝えに来ただけ」
私「出来るかどうかわかりませんが頑張ります」
T「全力で支えるから、あなたは人を頼る努力をする事ね」
私「痛い所つかれました。努力します」
T「じゃぁね」
颯爽とパートTさんは営業課に戻って行った。
発表前に以前聞いた派閥で私派の人達にはすぐに広がったようだった。
皆さんすれ違いざまに小声で
支えるから大丈夫だよ
不安な事も多いと思うけど、みんな望んでいたんだ。ありがとう
Mさんを裏切る奴は、自分らで落とし前つけさせるからね
などちょっと過激で温かい言葉を沢山頂いた。
翌日休暇となる前日自宅で、いつもの様に帰省の用意をしていた。
Y「明日は実家に行かなくて良いから」
私「なんで?」
Y「俺から連絡して明日は行かなくて良い許可を貰った」
私「だからなんで?」
Y「明日一緒に出掛けるから」
私「帰省しなくていいなら休みたいんだけど。明日平日でしょ。Yは仕事休まず仕事行ってよ」
何も言わずYはゲームを始めた。
嫌な気持ちしかしなかったが、無視して眠った。
翌朝、Yから出かけようと言われたが拒否し、家の大掃除を始めた。
しかし、無理矢理連れ出され、着いた先は中古車ショップだった。
もうヤダ…
この気持ちのみに支配された。
車に籠城し、一人で行くように言い精いっぱい拒否をしたが、無理矢理引きずられて店舗内に連れて行かれた。
店員の前で騒いでやる。決心した。
購入予定車両は決まっていたようで、オプションなど全て込みでピッタリ200万円の契約書を出される。
私「Yの車でしょ?私関係ないから」
Y「店員の前で騒ぐなよ」
私「私には関係ない」
店員「お調べした所、Y様ではローン審査が通りませんでした。婚約者様でローン審査が通るかお調べするという事で本日ご来店頂くとお聞きしておりましたが…」
私「婚約者?そんな関係ではありませんし、私がローンを組む予定もありません。購入者はYですので支払いについて私は一切関係ありません。Yと話し合って下さい」
Yはブチ切れ、ちぎれても構わないという力任せで引ったくり犯の様に私のカバンをむしり取った。肩には紐で締め付けられた痣が出来た。
この行動には店員も動揺していた。
鞄の中から財布を見つけ、キャッシュカードを取り出し店員にローンが組めるか調べるように手渡した。
私「やめてください!!私のカードですよ!!」
店員はかなり動揺し、挙動不審になっていた。
Y「調べるだけなら犯罪にならないですよね?早く調べて下さい」
売り上げをあげたい店員は渋々カードを照会にかける
店員「カードの持ち主様は今までローンを組んだ実績がございませんので、問題なく審査が通ります」
Y「契約をお願いします」
私「私は関係ない。契約書も書かない。私の名前を勝手に使う事は犯罪ですよ」
Y「良いから書けよ!!店に迷惑かけるな!!」
私「お店に迷惑かかろうと私には関係ない。絶対に知らないから」
Y「今日中にもう一度来ます」
Yに引きずられ店の外に出て、建物の影に隠れる場所に連れて行かれ
Y「何考えてんだよ!!早く契約書かけよ」
私「私は知らないって言った。お金が必要なら自分で用意してとも言った。私に押し付けないで」
Yは怒りに任せて腹など服で隠れる場所をひたすら殴る蹴るをしてきた。
それでも私は頑なに断り続けた。
Yの怒りは頂点に達し、「顔を殴っても良いんだぞ!!」と言ってきた。
私「好きにすれば?何があろうと私は知らないから。早く別れてよ」
しかしボコボコにされ結局、契約書にサインをさせられてしまうのだ。
ローンは組みたくなかったので、店員にYに内緒で現金一括で支払いたいがカードの限度額が一日100万までになっていると相談すると1週間期限をくれた。
Yには毎月5万私に返済し返済が出来ない場合は私名義に名義変更し、私の車にすると約束させたが返済されたのは月3万で数回のみだけだった。
本当に助けて欲しかった。
Yと離れられる方法をお金を払ってでも教えて欲しかった。
悔しくて悲しくて惨めだった。
簡単に稼いだお金じゃない。
私が一生懸命働いて貯めたお金だ。
なんでいつもYに取られないといけないんだ。
自分が惨めで惨めで仕方なく、殴られた痛みも重なり一晩中泣いて過ごした。
日数がたち遂に人事発令が正式に発表となった。




