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私の話  作者: M
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第二の職業 第六章

人事発令が出ると営業課の社員は声を出し、残念そうにしてくれた。

すぐに「送別会」という声が出て、社員の温かさに涙が出そうだった。

送別会は営業課で1回と、仲良くしてくれた人達で1回と、個別に3回と合計5回もして頂き、盛大に送り出して貰った。


新しい部署はやはり覚える事しかなく大変だった。

人事部は支社の社員管理が主な業務だが、他にも求人を出したり、面接日のセッティング、新人研修の配属などやる事が多かった。

前部署の営業課の業務も大変だったが、何よりも残した後輩たちが心配だった。

だが次第に心配よりも自分の事でいっぱいいっぱいになり、仕事に集中するようになった。


ある日、宣言通りエリアマネージャーの「自分の業務を他人に振るな!!みんな自分の事で手一杯なんだ!!自分の業務は自分でやる。当たり前の行動をするんだ!!」と優しく低姿勢なTからは想像がつかない怒号が社内に響いた。

みんな驚き部署から顔を出し様子を伺っていた。

私もその一人だった。

悔しそうに俯き立っているOHとエリアマネージャーの姿があった。

知らし合わせたのか、ここぞとばかりに社員が畳みかける。

「ふざけんなよ。毎日やってもやっても終わらない業務に悲鳴を上げながらも皆自分でやっているのに他人に、しかも後輩に仕事押し付けるなんて正気じゃない」

「お願いして了承を得たなら良いけど、先輩が後輩に一方的に仕事を押し付けるなんて、人としてどうよ」

「前支店長みたいな事してんじゃねーよ」

「せっかくアイツを追い出したのに社内の雰囲気悪くする事するなよ」

「聞くだけで気分が悪い。人の気持ちを持っていたら出来る事じゃない」

などといっせいにOHを責め立てる大声が響く。


そうか…

エリアマネージャーはOHを辞職に追い込む事にしたんだ…

漠然と考えていた。


ところが、OHは仕事を辞めなかった。


しばらくたった頃、営業課の社員に飲みに付き合ってと言われ承諾した。

やはり結託してOHを皆の前で責め、プライドが高いのを逆手にとり辞職に追い込む事が目的だったらしい。

しかし、他部署にも届く声で責められたにも関わらずOHは仕事を辞めなかった。

今まで楽をした分、今さら通常業務をこなす事が出来ず、更にプライドが傷ついたようだった。

次第にOHは感情のコントロールが出来なくなり、精神科を受診し精神安定剤を処方される程になったようだ。

精神安定剤を服用しても効果はないらしく、会社にいる時は常にイライラし話しかけても、怒鳴り口調でケンカ腰で話すようになっているようだった。

営業課の雰囲気は一気に悪くなり、収拾がつかないようになっているらしく、早く私が戻って来るのを心待ちにし、私の存在を支えにして皆何とか耐えていると聞かされたが、私は他部署に配属されてしまったから、戻れるかどうか分からないと話すとガックリとした様子だった。


私はというと、業務を覚え部署に馴染んだ頃にすぐに新しい部署に配属され、たらい回しのような状態になっていた。

社会に出ても役立たずで、父の「誰からも必要とされない存在」という言葉がフラシュバックし、私の存在は邪魔になるんだ。一緒にいると嫌な気持ちにさせてしまうんだと毎日落ち込んだ気持ちで出勤していた。


ある朝、社員用出入口でベテランパートTさんと一緒になった。

私「おはようございます」

T「おはよう」

T「あんた何考えてんの?」

私「え?」

訳がわからず回答に困っていた。

T「最近のMさんの様子気にして観察してたんだけどさ、みんなの前では明るくふるまって、一人になると暗い表情してる。口出ししないで様子見してたけど、誰かに相談している素振りもない。悩んでいるんでしょ?なんで相談しに来ないの?」

私「私の問題なので自分で解決できます。お気遣い頂きありがとうございます」

T「あんた弱音吐くことが悪とでも思ってんの?」

私「思ってないです」

T「今日残業終わる時間わかったら連絡して。いつもの店で待ってる。絶対にあんたの気持ち言わせるから」

私「連絡致します」

怒られているのか、気遣って貰えているのか良くわからず、気分が落ち込んでいた私には怖く感じた。


夜になり帰宅時間の目途が立ったのでパートTさんにメールを入れておいた。

当時はスマホが当たり前になっていたが、私はまだガラケーのままだった。

退勤し、いつもの居酒屋に向かった。

T「お疲れ様」

私「お疲れ様です。お時間作って頂きありがとうございます」

T「仕事とプライベートどちらで悩んでいるの?」

Tはストレートな人だ。

ド直球に聞いてきた。

プライベートは悩みしかないけれど、結局消える選択しか思い浮かばない。

私「仕事ですかね?」

T「営業課みたいに上手く立ち回れない?」

私「そうみたいです」

T「何に悩んでいるのか聞かせて貰える?」

私「私なりにどの部署でも頑張っているつもりなんです。でも、部署の方から見たら、つもりでしかないんだと思います」

T「何か言われたの?」

私「言って頂ければどんなに楽かと思います。何も言って貰えないんです。なので自分の何が悪いのか気づく事が出来ないんです」

T「何も言われてないのに、どうしてMさんが悪いって思うの?」

私「どの部署に行っても、ようやく仕事を覚えて部署にも馴染んできたかな?と思う頃にすぐ新しい部署に異動になってしまうんです」

T「それで?」

私「配属先の部署に長くいられないのは、どの部署に行っても私が邪魔になっているからだと思っています。努力しているつもりが、つもりで終わっていて、力不足による戦力外通告だと思っています」

T「そうゆう事か。そんな風に思っていたのならMさん辛かったね」

私「どの部署の方も皆さん優しかったですし、しっかり教育もして頂きました。なのに、答えられず不愉快な気持ちにさせてしまった部署の方達に申し訳ない気持ちでいっぱいです」

T「Mさん。今は信じられないと思うけど、私の言葉聞いてくれるかな?」

私「もちろんです」

T「私ね、Mさんが行った部署の人達にMさんの事聞いて回ったの。どの部署の人も覚えも早いし、何よりも性格に問題ありな人とも分け隔てなく業務を出来るし、ずっといて欲しかったって言っていて、各部署の役職者も手放したくなかったって口を揃えて言っていたの」

私「え?」

T「信じられないと思うけど、これが真実なの」

私「Tさんの事は信じたいです。ですが真実だとしたら、なぜ現状のような状態なのでしょうか?本当に手放したくないと思って頂けたのであれば、1つの部署に留まっているのではないでしょうか」

T「そう思うよね。でもね、あなたは社長や会長じゃないの。会社員なの」

私「わかっています」

T「会社員として会社にいる以上、会社から出る人事発令には従わないといけない」

私「もちろんです」

T「つまり、あなたに問題があるって事じゃなくて会社の方針で移動が決まっているって事なの」

私「申し訳ありませんが納得できません。社員みんなが同じように部署移動になるなら普通の事として受け入れられますが現状私だけが転々としています。つまり部署内で必要ないと判断されて移動になっているという事だと思います」

T「疑心暗鬼になっちゃうよね。今は私が聞いて回った社員の声を受け入れて貰えないかな?」

私「わかりました。私は今まで通り仕事を覚えて仕事をする。それだけで良いのでしょうか?私自身何かを変えなくてはならないと思うんです。このままだと会社で孤立して皆さんにとって邪魔な存在になり、業務にも支障が出るのではないかと思っています」

T「あなたはあなたのままで良いと思う。もう少し自身を持って欲しいけどね」

T爆笑しながら「自信を持ちすぎてOHさんの様な性格にはなって欲しくないけどね」

私「あそこまで自分に自信を持てたら人生の価値観が変わると思いますが、私には無理ですね。聞きましたが、営業課かなり雰囲気悪くなっているそうですね。大丈夫ですか?」

T「あなたは自分の事より他人を心配するよね。営業課は確かに今の雰囲気は最悪だと思うよ。でも私がいる限りは好き勝手にはさせないよ。私にだって我慢の限界がある。普段は一線を退いたババァと思っているから正社員に口出しはしないけど、言う時はめちゃくちゃに言うんだから」

私「普段でもTさん怒ったら怖いのに、自分でめちゃくちゃをつけると想像できない恐怖が襲ってきます」

T「営業課は私を信じて安心しなさい。私はMさんの心が心配なの。会社の方針と割り切って自分を追い込まないで欲しいな」

私「努力致します。再度確認ですが本当に私が改善すべき点はないのでしょうか?」

T「自信を持つ!!これだけ!!」

私「お忙しいのに他部署まで訪問して頂き本当にありがとうございます」

T「私がやりたくて勝手にやっただけ!!」

私「夜遅くにお時間頂き、相談にものって頂き本当にありがとうございました」

このような内容で解散となった。


会社の方針?

パートTさんを信じたい気持ちと自分がおかれた現状の狭間でモヤモヤが晴れず、気持ちは少し上がっただけで、沈んだままだった。

帰宅し毎日やるYが散らかした部屋の掃除。

シャワーを浴びパートTさんの言葉を思い出す。

みんな手放したくなかった。

どういう会社方針なんだろう…

各部署の役員が断れば部署移動の話しは消滅するはず、なのに受け入れ私はたらい回しになっている。

考えても考えても平社員の私には答えは出ない。

モヤモヤした気持ちを抱えながらお風呂から出ると、Yが話しかけてきた。


Y「もうすぐ俺の車、車検なんだけど」

私「だから?」

Y「走行距離もかなり走っているし、車検通すのに修理費用としてかなりの金額がかかるみたいだから、車を新しく購入しようと思う」

私「勝手にすれば?私には関係ない」

Y「俺はブラックリストに載っているからローンが組めないんだ」

私「修理するか、現金一括で買える車を買えば良いだけでしょ。勝手にしてよ」

Y「修理する金も、現金一括で買えるだけの貯金もない」

私「車を買うって事は、月々のガソリン代・保険料・車検・自動車税に今乗っている車がダメになった時の事、全部含めて車を持つって事だよ。そんな当たり前の事も出来てなかったの?私には関係ないから自分でやりなよ。」

私「大人として当たり前の事だから」

Y「金がないから話しているんだろ」

私「私には関係ないよ。維持できないなら車を手放せば?」

Y「車がなかったら現場までいけないだろ。仕事が出来なくなるって事なんだぞ」

私「車持っていない若い子はどうしているの?」

Y「家が近い職人が車で送迎してる」

私「Yも車維持できないので手放す事になりました。誰か送迎して下さいってお願いすれば良いだけでしょ」

Y「そんな事出来る訳ないだろ!!何年働いてると思ってんだ!!」

私「知らないよ。生活費も貰ってないし、借金も押し付けられてる。聞いているだけで2つの金融会社の借金完済してるよね?なのになんの貯えもしてなかったの?それはYのせいでしょ?これ以上Yの不始末を私にさせないで。私は知らないから、家族なり親戚なり他の人に頼めば?」

Y「家族や親戚には、もう借金しているから、これ以上は貸せないって言われてる」

私「だから自分でどうにかしてってば。私は全部やってるよ。家賃も生活費も家の家事にYの借金返済、仕事だってYより長時間働いてる。更に休日前は実家にも行ってる。これ以上私に求められても困る」

Y「Mには貯金があるんでしょ?」

私「ある訳ないでしょ。Yの借金返済で全部消えるよ。余裕なんて無い」

Y「Mには金持ってる親がいるでしょ。親に頼んでよ」

私「私の車じゃないからYが直接頼めばいいじゃん。私は毎月学費を返金しているの。これ以上、返金額を増やしたくない。親に借りたいならYが頼んで、Yの借金としてYが返金して」

Y「あんないい人達が返せなんて言わないでしょ。Mが勝手に学費を返しているだけでしょ。Mから親に頼んでよ」

私「話にならない。これ以上私を頼るなら、今すぐ私が家から出ていく。それが嫌なら自分で何とかして。二度と私を頼ろうとしないで」

Y「2人の話しをしてんだ!!」

私「何が?Yの車の話しでしょ?私には関係ない。私の車の事でYに頼った事なんて無いでしょ?」

Y「俺が働けなくなったら借金の返済も出来なくなるんだぞ」

私「借金を作ったのも、車を維持するための貯金をしなかったのも会社に車を手放す話を恥ずかしくてしたくないのも全部Yの問題でしょ。私を巻き込まないで」

Y「2人でこれからも生活していく為の話しだろ」

私「2人で生活をしたいのはYだけでしょ。私は別れたいって伝えているのに聞き入れてくれないのもY。家賃も生活費も家の契約金もYの借金返済も家の家事も全部私に押し付けられて苦しい思いしかしてない。これ以上私を苦しめて何が2人の生活?笑わせないでよ。とにかくYの車の事は自分で何とかして。もう寝るから、どうするのかは自分で考えなよ」

私は寝室に向かった。

Yは怒りが収まらず物に当たっている。

寝室のドア越しに「騒音の苦情来たら部屋追い出されるけど、それを招いたのもYだからね」と大きめの声で言うと、音がなくなり、ドアの音が聞こえた。

部屋から出ていったようだ。

やっと静かに寝れる。

そう思い眠った。

いつ戻ったのか朝起きるとYは部屋にいた。

2人とも無言で用意をし出勤した。


数日たった頃、会社の朝礼終わりにエリアマネージャーから呼ばれた。

朝は早く出勤し、始業前にメールなどのチェックは済ませ終わらせられる事は終わらせるようにしていた為、朝一の呼び出しでも対応可能であった。


そしてエリアマネージャーから衝撃的な人事異動を告げられたのだ。

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