第二の職業 第五章
営業Aと話した後、今までは自分の仕事のみに集中していたが、社内全体を気にかけるようにした。
結果OHはとにかく自慢話しが大好きで忙しく働いている人の手を止めさせて長話しをしていた。
役職持ちや容姿が良い男性社員には媚びるような態度をとり、女性社員や後輩社員に対しては理不尽な叱り方をしたり、威張り散らかし、仕事中にスマホゲームをし、二日酔いで出勤し仕事をせず寝て過ごし、二日酔いどころかまだ酔っぱらっている状態で出勤したり、飲みに出かけてた後に家に帰るのが面倒という理由で会社で寝て、内側から施錠してしまい出勤した社員が会社に入れないなど、やりたい放題な事をしていた。
内側から施錠事件の時、私は休みだったので、そんな事があったのを知らなかった。被害を被った社員から怒りの愚痴として聞かされ事実を知った。
出退勤は指紋認証で管理していた為、本人の指紋が無ければシステムに反映できない。
直行・直帰の場合は前日の退勤前までに申請しなければならず、社員の勤務管理は厳しく、出勤時に出勤認証を忘れると、本社、人事部からすぐに支店に電話が入り、本人が出勤しているのか確認が入る程徹底していた。
結局どうやって会社に入ったのか聞くと、会社とOHの携帯を鳴らすしかなく、酔っぱらったOHはその程度では起きず、1時間程外に閉め出されたようで支店長Oの計らいでシステムの不具合という事にしてごまかしたらしい。
支店長Oは面倒な自分の業務をOHに押し付け楽に過ごす為に容認しているようだった。
エリアマネージャーも元本社勤務のよしみがある為か強く注意はせず、どちらかというと放置している感じだった。
私が一番嫌だったのはOHは風邪をひくと「風邪は誰かにうつせば治る」と自分勝手な言い分を押し付け、激しい咳をしていていても、絶対にマスクをしたり、周囲にうつさないように一切配慮しない姿勢だった。
結果、支店内にインフルエンザが広がり、年中無休としているのに支店閉鎖になってしまった事もあった。
これは残業代で稼いでいる平社員全員が金銭面的に大きな痛手となる出来事だった。
こんなにある仕事量をさぼりながら、どうやって捌いているのか気になった。
私「離席時間が長いと思うのですが、この仕事量をどのように捌いているのですか?」
OH「私がやらなくても良い事は他の人にやらせれば良いだけじゃん。残業代の為に会社にいるだけだから、退勤時刻になってから仕事すれば良いし。残業時間で終わる量しか仕事なんてしないもん」
私「そうなんですね」
私「地元がここで戻って来たんですよね?」
OH「本当の地元は○○なの」
私「○○なんですか?○○にも支店ありますよね?」
OH「ここから車で5時間の距離あるし、ここより田舎だし、ここの方が友達多いから、この支店にしたの」
私「実家から通勤した方が貯金できるし良い事だらけじゃないですか?」
OH「両親が離婚していて、父は再婚して違う家庭持ってて、母は生活保護貰っているから、所得ある私が戻る場所ないんだよね」
私「そうゆう事情だったんですね。プライベートな事まで聞いてしまい申し訳ございませんでした」
OH「言いたくなければ言わないから、別にいいよ」
OHは自分の仕事すらしていなかった。
残業時間に仕事をすればいい?
仕事中に業務が終わらないから残業になっているのに?
理解できない。
まじめに仕事して残業している社員に対して何も考えていない。
OHに仕事を押し付けられている社員を探す事にした。
社員が多いし自分の仕事もある為、不本意ではあったが営業Aに頼み派閥の力を貸して貰った。
OHの被害者が4人も出てきた。
4人とも私の後輩だった。
ただでさえ定期的に社内システムが新しく導入されたり、既存システムのアップデートに伴い使用方法が大きく変わる会社だ。
日々の業務に食らいつくだけで必死だ。
そんな状況なのに、寄りにもよって私よりも後輩で業務にも会社にも慣れている最中の社員だ。
ふがいない…
自分の業務のみに集中し、周りを気遣ってあげられなかった。
後輩に苦しい思いをさせてしまった。
私は先輩達に支えられて育ってきたのに、支える側に立ったのに何も出来ていなかった。
自分に失望した。
会議室に4人を呼びだした。
何故かエリアマネージャーも聞きつけ同席した。
4人に今まで気づいてあげられなかった事を謝罪し頭を下げた。
4人は精神的に限界だったのだと思う。
私に怒られると思っていたようで、謝罪を聞いた瞬間に泣き崩れた。
・辛かった
・威圧的なOHの言い方に断れないようにされた
・自分の仕事もあるのにOHの仕事を優先してやるように強要されていた
・自分の仕事すら終わらせられないのに、自慢話しを聞かされ仕事の邪魔をされる
・喘息を持っているから、風邪をひいて咳をしている時は配慮して欲しいとお願いしたら叱責された
・毎日OHからメールが届くたび、OHがそばに来るたびビクビクしていた
・OHが会社にいるだけで苦しい
などと今まで耐えていた物が一気に言葉となって聞かされた。
情けない。
ここまで追い込んでしまった。
何が先輩だ。
私は新人よりも不甲斐ない。
私「ここまで追い込んで、こんな事を言わせてしまった責任は全て私にあります。動くのが遅くなってしまい本当に申し訳ありませんでした。この職場に来るのが辛いですか?退職の意思がなく、まだ一緒に働いてくれるのであれば、今後皆さんは自分の業務のみに励んで頂きOHさんの業務は全て私にまわしてください。業務に対して疑問点がありましたら、いつでも私に聞いて下さい。相談しにくい話しかけにくい雰囲気を無意識に私が出してしまっているかもしれないです。今回の件についても私が気づくまで皆さんが言えなかったのは、私に原因があると実感しております。他の方に聞いて頂いても大丈夫ですが、私はいつでも皆さんの声と真剣に向き合います。答えられる部分、答えられない部分はありますし、頼りないと思いますが少しでも、力になれるように頑張らせて頂きますので一緒に頑張ってくれないでしょうか?」
後輩たちは泣きながら何度も頷いてくれた。
落ち着いたら部署に戻り、OHの業務は早急に私に渡すように伝え会議室を後にしようとしたら、エリアマネージャーTに呼び止められ、別の会議室で2人で話したいと言われ2人で移動した。
T「OHの業務を1人で受け持つのは負担が大きく無理だと思う。そもそもOHの業務はOHにやらせるのが正解だと思うのだが、なぜMさんがやろうとする?」
私「OHさんと話しましたがOHさんは楽を覚えてしまいました。今さら元通りに働けるとは思えません。なら現状維持で私がOHさんの業務を受け持てば、今まで通り業務が回ると思います」
T「Mさんが潰れると思うよ」
私「毎日の業務に慣れ、仕事量をこなせるようになったので、最近は自分の業務を終わらせた後は他の人の業務を行っていたので問題なくこなせると思います」
T「俺から話せばOHさんが自分の業務は自分でやるようにならないかな?」
私「エリアマネージャーが目を光らせている間は、やると思いますよ。ただエリアマネージャーがいない日は反動でどんな行動をとるのか想像がつきません。状況が悪化してしまう可能性の方が大きいと考え、私が業務を受け持つのが早い改善策だと思います」
T「支店長Oはこの状況を知っているのか?」
私「わかりません。今回の事を調べるに当たって営業A君を頼りました。A君が誰に調査を手伝って貰ったのか、この事を知っているのは私と当人・A君、他に誰がいるのか私は知らないです」
T「これはMさんが考えている以上に会社として大問題な事なんだよ。OHさんの仕事をMさんがやればいい。そんな単純な事じゃないんだ。それが蔓延してしまったら?組織として崩壊する事なんだよ」
私「今回の事を誰にも言いませんし大ごとにするつもりもありません」
T「Mさんはそうだろうね。でもね。人の口には戸が立てられないんだ。必ず明るみ出るよ」
私「私はOHさんの後輩でOHさんを咎める立場にありません。この事を前提にエリアマネージャーは私に何を求めているのでしょうか?」
T「難しい選択だよね。はっきり言ってこの支店にOHさんは必要ないと判断せざるを得ない状況だよね」
私「OHさんはこの場所に友人が沢山いるようなので転勤を受け入れず騒ぐと思いますよ。逆に私が邪魔になっているのであれば、私が退職しても構いません」
T笑いながら「Mさんに退職して欲しいなんて話しは一切してないから、そんな怖い事言わないで」
私「これ以上は私ではなく、支店長とエリアマネージャーが話し合う事だと思いますので、退室させて頂いても宜しいでしょうか?」
T「ちょっと待って。Mさんの本心を聞いてない。本音を聞かせて欲しい」
私「私はただ仕事をして給料を貰えれば満足なんです。上を目指そうとか一切考えてないです。ゴタゴタに巻き込まれるのは避けたいです。なので今回の事も大ごとにせず何も無かったかの様にし、いつもと変わらない日常を過ごしたいです」
T「OHさんに対して思う事はないのか?」
私「何もないです。人の性格はそう簡単に変わらないので、OHさんの事は個性として受け入れています。思う事は後輩に対して申し訳なかった事と、気づいてあげられなかった自分が不甲斐ないという気持ちだけです」
T「今回の問題はそう簡単に結論を出せる事じゃないから考える時間が欲しい」
私「私は仕事をして給料が貰えれば満足なので、エリアマネージャーにお任せ致します。ただ人事異動や私に関わる事であれば、発表前に教えて頂けると助かります」
T「わかった。悩んだら相談しても良いか?」
私「私にですか?私に答えられる事は少ないと思いますが、構いませんよ」
T「これからも宜しく頼む」
私「こちらこそ宜しくお願い致します」
話し合いに予想以上の時間がかかってしまい急いで業務に戻った。
社内ツールやメールなどでOHの業務が大量に送られてきていた。
仕事にとりかかる前に全ての業務を書き出し、納期別や優先度別に仕分けし、淡々と仕事を終わらせていった。
OHの丸投げは酷く、仕分けし業務をこなしている最中にも、どんどん新しい仕事が増えていく一方だった。
数日後、普段業務を手伝っていた複数の社員が私の席に来て、急に頭を下げ謝罪してきた。
何事???
意味が分からず、社内で目立つ事を嫌う私は困惑して、すぐに頭をあげるように言い場所を移動した。
私「なに?どうしたの?みんなの前で急にやめてよ。びっくりするじゃない」
社員「僕たちMさんの事怒らせたんですよね?」
私「なんのこと?怒った記憶ないんだけど…」
社員「今まで毎日僕たちの事を気にかけてくれていたのに、一切声をかけてくれなくなったじゃないですか…」
社員「私が頼りすぎたのが悪かったんですよね?」
私「あ~ごめん。ごめん。今違う案件で、毎日納期に追われて余裕がなくって声をかけてあげられる時間をとれなくなってしまっただけなの。勘違いさせてしまってごめんね」
社員「え?怒ってたんじゃないんですか?」
私「そんな性格に思われていた事にショックだよ。嫌な事や間違っている事は、はっきり言うよ。無視したり、急に距離をとったり、そんな小さい嫌がらせみたいな事しないよ」
社員「ですよね。Mさんはそうゆう人だと思っていたので、急に話しかけて貰えなくなってショックでした。そしてその原因を作ったのが僕たちだと思いました」
私「酷い勘違いだね。ごめんね。しばらくはこっちから声をかけてあげられないけど困った事があれば、いつでも声かけてね」
社員「ありがとうございます。勘違いしてしまい申し訳ありませんでした」
私「仕事に戻るぞー」
うーん。
なんか違うな。
OHが後輩に押し付けた仕事を私がすれば、それで問題は解決すると思った。
実際に業務はこなせているし、納期も落としていない。
しかし結果はどうだ?
他の社員への気配りや思いやりは持てているか?
答えはノーだ。
私はまた選択を間違えたのか?
何が正解だったんだろう…
ただ社内環境が少しでも良くなって、みんなが仕事をしやすい環境を作りたかった。
残業が多く過酷な会社だが、仕事に行くのが嫌だと思うような職場にはしたくなかった。
せっかく前支店長がいなくなり、みんなの士気が上がって良い方向に向かったと思ったんだけどな。
そうか…私の処理速度が遅いのか。
OHの業務を言い訳にして、余裕がないフリをしているだけだ。
全部自分で決めた事だ。
もっと作業効率を上げて、処理能力を上げなければ。
気合を入れ、より一層業務と真剣に向き合った。
2ヵ月程でOHの業務をする前と変わらないように、仕事をこなせるようになった。
自分の仕事・OHの仕事を終わらせ、余った時間は他の社員の仕事を手伝う余裕も出来た。
ある日、エリアマネージャーから呼ばれた。
T「他の部署に異動して貰えないか?」
私「転勤ですか?」
T「違うよ。この支社内で。人手不足でMさんが欲しいって声が上がってるんだ」
私「外勤ですか?あと新人扱いですよね?給料が減りますか?」
T「同じ内勤で給料も同じ。雇用契約書も新しく交わす必要もないんだ」
私「私は構いませんが、私が抜けた穴を埋められる人材は確保出来ていますか?自分の業務とOHさんの業務がありますよ?」
T「そこが問題でさ~。どうしたら良いと思う?」
私「部署移動しないで現状維持が良いと思います」
T「それは無理なんだよね。俺がしばらくこの支店に留まり、OHから仕事を振られたら俺に連絡するように内密に通達を出して、OHが誰かに仕事を振ったら大げさに大きい声でOHの仕事はOHがするようにって注意するようにしたら、プライドが高いOHは自分で自分の仕事をせざる負えない状況になると思うんだけど、どう思う?」
私「エリアマネージャーがいる間はそれで回ると思いますが、いなくなった時が怖いですね。せっかく頑張ってきた社員がOHさんを理由に辞めてしまう事態が最悪だと思うので、それは避けたいです」
T「そうなんだよな~残業多くて会社がきついって理由で辞めるのは止められないけど、OHが理由っていうのは最悪だよな」
私「なぜ私の部署移動は決定になってしまったんですか?私は現状で満足していたのですが…」
T「今はまだ言えないんだけど、移動は受け入れてもらうしかないんだ」
私「そうなんですね。会社の方針であれば従います。ただ後輩達の事を考えると気持ちよく移動はできないですね」
T「OHの件については支店長が頼りにならないからな。俺が何とかするように頑張るよ」
私「支店長は無理でしたか」
T「Mさんも知っているんだろ?」
私「何がですか?」
T「本当に他人の事は言わない子だよね。OとOHの関係の事だよ」
私「エリアマネージャーの耳にも入りましたか…」
T「かなり前にね。だから余計にOHを放置せざる負えなかった。Mさんに業務が集まってしまっているのも知っていたが、Mさんがこなしているようだったので甘えてしまっていた。申し訳なかった」
私「いえ。無理な時は無理と言いますので、言わなかったという事は可能な業務量だったというだけです」
T「本当にMさんに助けられたよ。ずっと同じ部署で独占する訳にはいかないから、新しい部署で頑張って欲しい」
私「初めての事は失敗もするし、ご迷惑をおかけすると思いますが、精いっぱい頑張らせて頂きます」
そうして翌月の人事発令で私は人事部への移動となった。




