第87話 影と前を向く想い
紅い月夜のなか、一人の者が窓に手を当て空を見上げながらつぶやく。
「へぇ?高度な水魔法ね」
「主だったら連れてこいとか言うんだろうなぁ」
「……めんど」
片側の口角を下げながら片方の手で口元を覆い零した言葉は宙に消えていく。
「でも、報告はしないとだからなぁ」
「……まぁいずれでいっか」
「バレないようにするのめんどいし」
そう、つぶやいた者は窓辺から離れの部屋へと消えていく。
――紅い月が濃くなる夜空で、だんだんと暗い雲が明るい星を隠してしまう様子にまだ、誰も気づかない。
★★★★★★
あれから僕ラヴィア・ゼフィールは四年の月日が経ち、王立フレアリス魔法学園の入学準備をしていたのだけど……。
「ラヴィ、本当に行ってしまうのかい……?」
いつもの穏やか声じゃない兄上は寂しそうな顔で準備をしていた僕を後ろからそっと抱きしめてきた。
(……兄上は昔から優しいな)
そんなことを思いながら少し不安だった心があたたまり、僕は兄上の腕に手を重ね少し振り返りながら兄上に微笑んで伝える。
「僕も寂しいですけど、兄上がいたから頑張れたんです!」
「休みの日はちゃんと帰ってきますので、兄上も休みながら仕事……頑張ってください!」
「兄上を目指して僕、頑張るんで!」
そうニコニコしながら伝えると兄上は綺麗なアクア色の瞳を揺らし、なぜか口角を上げ大きく笑っては僕を抱きしめる力を少し強めていた。
「嬉しいよ、ありがとう」
「……けど、もうちょっとだけ」
「もう少しだけこのままでいさせて欲しい」
「……はい」
こーなることは珍しくないためいつものようにじっとしながら兄上の腕をそっと撫で、されるがままになる。
すると、兄上は僕の肩に顔を埋め鼻をすする音が僕の耳元で聞こえ、思わず撫でてた手を止めてしまう。
(……兄上、泣いてるの?)
少しだけ振り向こうと思うけど、僕は良くないと思いそのまま止めてた手をそっと撫で続けると小さな声が僕の耳元でした。
「……ありがとう」
そう聞こえた時、兄上は僕から離れた。
「それじゃあラヴィ、気をつけて行くんだよ?」
「お見送りはちゃんとするからね」
「私はそろそろ仕事に戻るよ、じゃなきゃファリオンに怒られちゃうからね」
ケラっと笑って言う兄上に僕はまた胸が締め付けられる感覚になってしまう、だから僕は兄上に伝える。
「兄上も気をつけてくださいね?」
「……うん、気をつけるよ」
「またね、ラヴィ」
僕がそう言うも、兄上は瞼を伏せ儚く笑って言うだけで、僕が手を伸ばそうとした時には……もう部屋を出てしまっていた。
(……なんであんな顔したんだろ)
(兄上はたまにあの表情をするのはなんでなの?)
(今でもわかんない)
(兄上はすごい人だからきっと僕とは違う)
(でも僕は、兄上が憧れだから学園でもっと勉強して兄上のようにすごい人になりたい)
(なにより……魔法がない兄上を護れるくらい強くなりたい!)
ぐちゃりとしたわだかまる感情に隠されそうになるが、僕は首を振り前を向きながら明日の入学準備をメイドや側近たちと始めた。
ここまでの読了お疲れ様でした!
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