第8話 月夜の涙と新たな事件
ゼファーが勧めてくれた宿に泊まり、寝る支度もできた私はベッドに座り、窓から見える夜月を見上げながらふと思う。
「……シルやアル様、カラム様にも言わず」
「一人で国を出たのは、まずかったかしら」
ぽそりと小さく呟くも、夜風が言葉をさらってしまう。
(……私は自分の決断力には自信がある方だけど、時より迷ってしまう)
(大事にしてくれた人たちへの想いが本物であるほど考えてしまう)
(そんなことを考えても、答えがでないことなんてわかってる……わかってるけど)
(……考えてしまう)
「私はアル様、カラム様、シルのおかげでここまで生きてこれた」
「なのに、何も言わず国を出たことは……私にとっていいことだったの?」
「本当にこれで、よかった……かしら」
その時、頬に静かに涙がつたい、ぽたりと膝にこぼれ落ち自分が泣いていることに気づいた。
(……いつぶりに泣いたのかしら、泣いても無駄だと思ってから数年)
(我慢して、我慢して、堪え前を向いてきたのに……なぜ今、私は泣いてるの?)
呼吸が浅く、しゃくり上げてしまうほど涙はとめどなく溢れだす。
「……なかないで」
「だいじょぶ、だから」
いつかのように私自身をぎゅっ、と抱きしめ声を殺しながら「大丈夫」と私に伝え続ける。
――そして、涙も心も落ち着いてきた頃……私は深く呼吸をし、月を見つめながら届かない想いを月へと手を伸ばしこぼす。
「……アル様、カラム様。今までありがとうございました」
「お二人のおかげで私はここまで生きて、冒険者人生を歩めそうです」
「素敵な方たちとも出会えました、きっとお二人のおかげです」
「そしてシル、手紙だけ残して勝手に去ってごめんなさい」
「シルが幸せになれる選択を私は心から祈ってるわ」
涙に濡れた顔で月に微笑み、カーテンを閉めた私はベットに寝転ぶ。
(……明後日から任務)
(明日は何もないし、ゼファーにセルズの街を案内してもらおうかしら)
そんなこと思いながら私はぼやける視界を閉じ、眠りの世界へと沈んでゆく。
★★★★★★
そして次の日、私はゼファーにセルズの街を案内してもらっていた。どこもかしこも見たことない物や景色ばかりで全てが新鮮だった。
「ゼファー、この国すごいわね……」
私は真剣な眼差しでゼファーを見つめると、ゼファーは優しく微笑んだあと誇らしそうに告げた。
「だろ?セルズの街はこの国で一番栄えてる街なんだぜ!」
「貿易も盛んで、市場も他の国で買えないものまで揃ってる……だから色んな人達がいるんだ」
最初は楽しそうに話してたのに、最後は伏し目がちな、どこか遠い目をして話すゼファーにどこか胸が痛む。
(……ゼファーに何かあったのかしら)
(私がそれを知りたいなんて思ってしまうのは、無理な話だろうか)
そんなふうに思う感情から目を逸らしたその時――、キョロキョロと辺りを見回す挙動不審な女性と手を縛られた子供が路地裏へと入っていくのを目撃してしまい、私は嫌な予感がし咄嗟に走り出してしまっていた。
「クロエっ!?」
ゼファーの叫ぶ声が聞こえたが、そんなこと気にしていられるず、私は見失わないうちに走り出してしまった。恐らく……アレは――。
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