第2話 物思いにふける過去の思い
ガタ─、ゴト……
揺れる馬車の窓辺から見える夜月に目をやりながら私は物思いにふける。
私は幼い頃からルイ殿下が嫌いだった。自分より弱いものは見下し、強いものには媚びを売る……まるで。私の父親を見ているようだったから。だけどルイ殿下の兄のアル様とその婚約者のカラム・リュゲイル様は会うたびに色々なことを私に教え、時には遊んでくださった。
私が十歳の頃だった。お茶会がつまらなくなり、広間から抜け出した私は庭園を覗いたところ王宮にくると必ず話をする六つ上のアル様と五つ上のカラム様が声をかけてくださったのを今でも覚えてる。
『クロエ嬢、この花は薬草になるから覚えて損はないのよ』
優しい微笑みで薬草について話してくれたカラム様は本にも載っていなかった知識を私にたくさん授けてくださった。暗い赤茶髪のショートヘアに濃い紅色の瞳と凛とした顔立ちが一見冷たく見えるようでも、根は優しく聡明な人で私の憧れの存在でもあった。
『またお茶会を抜け出したのか?クロエ嬢。庭園に来る時は退屈な時だと私は知ってるぞ』
冷ややかな翡翠の瞳で私を見おろしたのは首まである黄金色の髪を紐で結んだアル様。相変わらずお綺麗な顔立ちだが、ルイ殿下と性格は一切似ていない。
そして庭園への入室許可はルイ殿下ではなくアル様が出してくれている、私の家の事情を話した際に"休息ができる場所があるといいだろ"……とのことでたまに休ませてもらっていたのを思い出し、笑みが零れる。
「あの時のお礼、まだ言えてなかったな……」
頬杖をつきながら夜月を見ていたが、道を進むごとに雲で月が隠れゆくのが嫌な記憶とリンクするようだった。
私はルイ殿下と婚約破棄を願っていたのだけど、手を回しても婚約破棄にはいかず学園に入るまでは上手いこと流していた。
それが続いたのがルイ殿下は気に食わなかったのだろう。ルイ殿下は学園に入ってから色んな女子生徒と交流を持つようになり、その1人がメリー・バレット子爵令嬢だった。
彼女はルイ殿下にだけ甘い声をだしながら近づき自分しか味方が居ないと思い込ませた……などの噂をたった当時。それが本当のことだと知り少しの安堵と気味悪さが全身に巡った。
あのクソ親父と一緒だと思うと憎悪が胸にこびりつくのを感じたが、私はそれをチャンスだと思い、試行錯誤しながらどう婚約破棄させようと考えを数日にわたってしていた頃。
廊下を通ったある日、教室から声が聞こえ耳を澄ますとルイ殿下とよく居た女子生徒数名が話していた。
『ルイ殿下、学園卒業パーティーの日にスティード様に婚約破棄するらしいわよ』
その噂話を聞いた私は全身の力が抜けると共にやっと解放されるという感覚が全身に生き渡った。そこから私は今日まで隣国にある"ゼフィール王国"について色々調べると分かったことがある。
ゼフィール王国はスチュワード王国よりも広大な大地に盛んな街市場、多人種が住む国でもあった。…それよりも私は、"冒険者"という自由で縛られない職業があると知った時。人目でこの"冒険者"をしたい!─と心から思ったのがきっかけで、冒険者について調べながら、父親や使用人から隠れ義弟のシルと魔法や剣の鍛錬をしていた。シルは鍛錬する時にいつも私に言ってた─
『僕、姉さんよりも強くなるから!!』
鍛錬の休憩中。シルは出会った時からよく私に真剣な瞳をしながらそう言うのだ。でも仕方ないことだと思っている。私はシルを育て、何があっても守りそばに居たから懐かれている。
シルは実家の子爵家の末の子で私と似ている黒髪に金色の瞳が兄たちからは"呪いの子"と言われいじめの日々だったらしい。だけど何を考えたのか知らないが、あのクソ親父はシルが私と似ているという理由だけで公爵家の跡継ぎとして養子へと向かい入れ、あとは放置していた。……でもまぁ、唯一の救いは女性遊びが激しかったクソ親父がほぼ家に居なかったことくらいだろう。居ても私や使用人を見くだし、時には暴力を振るうのだから居なくて良かった思う。
考えれば考えるほど公爵家という立場には似合わない行動ばかりするクソ親父に反吐が出そうになり、私は首を振り窓辺を見上げると夜月は雲に隠れていた。
……シルは今、学園の寮にいるため家には帰ってこない。なにより公爵家の養子だから私を追って来ることはないと思うが、もしかしたらシルが追ってくることも考慮し理由はシルにしか伝わらない置き手紙を残そうと心に決めていた。
そんな暗がりの夜空で物思いにふけていたら馬車が公爵家に到着し、私はクソ親父がいる執務室へと向かった──
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