第2話「因縁」
どうして僕と高嶺涼那が、こんな任務に、いやこんな事態になっているのか。
今こうして、目の前で僕を殺そうとしている彼女を見ながら。
そんなことを考えていた。
今回の任務の対象は、異能犯罪者。
ただし、普通の異能犯罪者ではない。
確認されている能力は、精神干渉。
人間の意識に入り込み、思考や行動を操る。
詳しい条件までは分かっていなかったが。
少なくとも接触した人間を洗脳し、本人の意思とは無関係に操ることができる。
だから今回の捜索では、単独行動が禁止されていた。
一人で行けば。
操られた瞬間に終わる。
そのため、二人一組で行動する。
片方が操られた場合、もう片方が対応する。
そういう任務だった。
だから。
僕と涼那が組まされた。
だが――
僕と彼女の実力が拮抗している、なんてことはない。
少なくとも、僕自身はそんなことを思っていない。
むしろ逆だ。
今、目の前にいる高嶺涼那と僕の間には。
はっきり言って、かなり大きな差がある。
僕だって遊んでいたわけじゃない。
鍛えた。
戦った。
自分なりに努力もしてきた。
ランキングも、それなりの位置にはいる。
異能者ランキング496位。
決して低い数字ではない。
だけど。
涼那は153位。
そして彼女は、ただランキングの数字が高いだけじゃない。
実際に戦えば分かる。
その差は、数字以上に大きい。
若手最強。
今の彼女は、そう呼ばれている。
そして。
その呼び名に相応しいだけの力を、本当に身につけている。
目の前に広がる氷の城塞を見れば、それだけでも十分に分かる。
僕は今、その中心にいる。
そして。
その城塞を作り出した本人が、目の前に立っている。
洗脳されている。
それも分かっている。
だからこそ。
僕には「彼女を止めればいい」なんて考えは浮かばなかった。
止められるわけがない。
そんなことは、最初から分かっている。
僕が本気を出したところで。
今の涼那には届かない。
ましてや、彼女は今僕を倒すことに一切の躊躇がない。
僕が知っている高嶺涼那なら、絶対にしないような致命の攻撃まで平然と使ってくる。
だから。
今の僕にできることは、一つしかない。
逃げる。
ひたすら逃げる。
どうにかして時間を稼ぐ。
洗脳が解けるまで。
それだけだ。
……正直。
それすら、かなり難しい。
目の前の彼女はあまりにも強すぎる。
一度でも攻撃をまともに受ければ、そこで終わる。
だから僕は、勝つことを考えていない。
彼女を力ずくで止めることも考えていない。
そんなことができるとは、最初から思っていない。
そして――
僕と涼那が二人で組まされた理由は、同じく若くしてランキング上位者――
それだけではない。
僕と彼女には。
もう一つ、理由がある。
過去に一度だけ、僕たちは本気で戦ったことがある。
僕がまだ、中学二年生だった頃。
あの日。
僕は高嶺涼那と学校ランキング一位を懸けて戦った。
当時の僕にとっても、彼女は強かった。
そして。
僕は彼女に、一つの嘘をついた。
その嘘が。
数年経った今でも。
こうして僕の前に立つ彼女との間に、残り続けている。
あの日の僕は。
その嘘が、こんな形で今に繋がるなんて。
知る由もなかった。




