第9話 ルート変更
上機嫌になったレミーリアを連れて、ギリアムは最後の場所を案内する。最後に案内した場所はこれからレミーリアが使うことになる船員室である。
案内された室内を見て、レミーリアが目を細めた。
「ギル、これは何かしら?」
「念のためだ。備えはあった方がいい」
「ないわよ! 今回だってなかったじゃない!」
レミーリアが見つけたのは大人用のおむつだった。自分の操縦が荒いことに自覚があるギリアムが念のため準備したものである。
今回はすぐに追っ手が来たため、はかせることができなかった。しかしどうやら、無事だったようである。
「女性用の服はよく分からなかったので、HGに聞いて適当な服を用意した。サイズが合わなかったら我慢してくれ。数日だけの辛抱だ」
「ありがとう。助かるわ。さすがに同じ下着をずっとつけておくわけにはいかないものね」
どんな下着をギリアムが選んだのかはとても疑問だが、素直にお礼を言うことにした。いかに陰でじゃじゃ馬と呼ばれているレミーリアでも、ノーパンですごくのは恥ずかしかった。
「先ほど説明したように、シャワールームの近くにランドリーがある。それを使ってくれ。何かあればHGに言うように。なんとかしてくれるはずだ」
「それってHGに丸投げじゃない」
すがすがしいまでのHGへの頼りっぷりに、なんだかちょっぴりモヤモヤするレミーリア。ギリアムとHGは他を寄せつけないほどのコンビになっているようである。
それが意外なような、うらやましいような、そんな気持ちにレミーリアはなっていた。
そうして船内の説明を終えると、ほおが膨らんだレミーリアを残して、ギリアムはコクピットへと戻った。
ここからは移動経路の再設定をしなければならない。共和国にも、任務を失敗したことが伝わっていることだろう。第二、第三の矢を放ってくる可能性はある。
「さてと、ルート変更だな」
『それがいいかと思います。予定ではだれも利用しないルートを選択していましたが、それなりに宇宙船の往来があるルートがいいでしょう』
「そうだな。隠れて移動するつもりが、見つかってしまったからな。これ以上隠すより、他の目があるルートの方がいいだろう。何かあったら、すぐに星系軍が駆けつけてくるルートがいい」
そのルートなら、仮にワープ先で共和国の手の者が大量に待ち構えていたとしても、ギリアムの技量とハイペリオンの能力をもってすれば、星系軍が到着するまでの時間稼ぎをするのはたやすい。
だが、主要なコロニーから離れた、だれも使わないような不便なルートでは、星系軍の到着も遅くなる。
『再計算が完了しました。ルートを表示します』
正面のモニターに、赤色の線が表示される。最初に計画していた、銀河帝国の外縁側を通るルートよりも、より内縁側のルートである。
それをしっかりと確認し、ギリアムはうなずいた。
「これならよさそうだな。あとは道中に何かトラブルが起きないことを願うだけだ」
『人、それをフラグと言う』
「よせ、HG。その言葉は俺に効く。姫さんがこの場にいなくてよかった。いたら間違いなくにらまれてたな」
「なんの話かしら、ギル?」
ギリアムが振り返ると、そこには用意していた服に着替えたレミーリアが立っていた。
服の寸法は問題なかったようだ。だがしかし、体のラインがハッキリと浮かび上がっている。
傭兵はヒラヒラした服よりも、動きやすい、ピッチリとした服を好む傾向がある。それに準じた服をギリアムが選んだのは当然と言えるだろう。もちろん悪気はない。
「ああ、姫さん、なんでもないぞ」
「なんだか気になる言い方なんだけど……さてはHGと、何かよからぬことをしてたわね!?」
「よからぬことってなんだよ!?」
『キャッ』
「HG、お前は黙っておけ!」
このままでは妙な誤解をされるそれがあると判断したギリアムは、ルートの変更についてレミーリアに話す。
ギリアムの話を聞いて、ひとまずレミーリアは納得することにした。だが、納得できないこともある。
「ルート変更についてはよく分かったわ。問題はこの服よ」
「サイズが合わなかったか?」
「いいえ、その逆。どうしてこんなにピッタリと、私の服のサイズが分かったのかしら?」
「ああ、それか。それならHGが教えてくれたぞ」
「……HG?」
モニターに対して、白い目を向けるレミーリア。その冷たい視線にギリアムが縮こまる。
女性を怒らせると怖い。美人を怒らせると、もっと怖い。
しかしさすがのHG。いつもと変わらぬ口調で会話を続ける。
『プリンセスに快適な船内ライフを過ごしてもらいたい。ただそれだけです』
「その気持ちはうれしいけど、だからってさあ」
『大丈夫です。体重までは公開しておりません』
「当たり前よ!」
クワッとレミーリアが吠えた。よかった、レミーリアの体重まで聞かなくて、本当によかった。ギリアムは安堵した。
HGから聞いたスリーサイズがすごかっただけに、その情報は今もギリアムの脳内に焼きついている。口にはとても出せないが。
「まあまあ、落ち着くんだ姫さん。短いつき合いなんだし。俺ももう姫さんの服のサイズは忘れた。それよりも、その傭兵向けの服はすごいぞ。汗もニオイも吸い取って、分解して外に放出するんだ」
「へ~、これってそんなにすごい服なのね」
『そのため、プリンセスが少々お漏らしをしても大丈夫です』
「HG! 待つんだ、姫さん、モニターを壊しても、HGは無傷だぞ!」
慌ててモニターを殴ろうとしていたレミーリアを止めるギリアム。今、モニターを壊されてはたまらない。
羽交い締めすることによって、ようやくギリアムはレミーリアの蛮行を止めることができた。
「ああもう、むちゃくちゃだよ」




