第8話 船内案内
「ねえ、HG」
『なんでしょうか、プリンセス?』
「ギルはいつもあんな感じなの?」
『どうでしょうか? この船に女性を乗せたのは初めてなので、分かりません』
「そうなんだ。なんだか意外だわ。傭兵の船って、もっと女性を乗せるものだと思っていたわ」
レミーリアはその手のホロ小説をいくつも読んでいた。傭兵と美女のラブロマンスは、ごく一般的にありふれた設定であり、いつの時代も、どの世代にも人気があった。
学園ではあまりに傾倒しすぎる者がいるため、一部のホロ小説は禁止されていたくらいである。
もちろんレミーリアはその禁書を、友達と共に隠れて見ていた。
そんなことがあったため、レミーリアはとても意外だと思っていた。ギリアムはとてもかっこいいオジサマだ。女性からの人気も、さぞ高いだろうと考えていたのである。
そしてこの事実が、ギリアムが奥手だと、陰で言われるゆえんである。
女性関係でのトラブルを避けるため、ギリアムはこれまで女性を乗せることを避けていた。
男の宇宙船に女が乗り込むということは、「そういう関係であると見なされる」という風習が、古くから伝わっているのである。
「毛布を持ってきた。落ち着いたら船内を案内する。とは言っても、これから姫さんに使ってもらう部屋と俺の部屋、それからシャワールームとトイレ、トレーニングルーム、医務室くらいしかないがな」
「あとはこのキッチンルームね」
「一応、貨物スペースもあるが、おまけ程度だ。そんなに荷物を載せることはできない」
傭兵の中には、宇宙船の貨物スペースを利用して、コロニー間や惑星間で交易をしているものもいる。
もちろんそれは、依頼のために移動するときの片手間であるのだが、予想外の利益が出るときもある。
ギリアムには真似できない、お金稼ぎの手法だった。
「ハイペリオンは戦闘に特化した宇宙船なのね」
「もう少し宇宙船が大きければ、交易とかもできたかもしれないが、俺はデカイ船の操縦と細かい計算が苦手でな。できることなら遠慮したい」
『私に任せてくれたらよかったのに』
すねたようなHGの声。それを聞いてギョッとするレミーリア。
先ほどからHGに感じていた「違和感」の正体に気がついた。なんだか、人間と同じような反応をする。汎用AIのはずなのに。
その一方で、ギリアムはそんなことなど気にすることもなく、またHGが無茶振りをしてきたぞ、と内心で苦笑いしていた。
HGのこの手の対応はいつものことである。軽く流しておかないと、本気でHGが動きかねない。
その後、温かいコーヒーを飲んで落ち着きを取り戻したレミーリアを連れて船内を案内する。
初めて乗るタイプの宇宙船に、レミーリアはとても興奮していた。
「まずは医務室からだ。カプセル型のユニットを使っている。このタイプの物を使ったことはあるか?」
「これだけ小さなタイプは初めてね。起きるときに頭を打ちそう」
「……気をつけてくれ。俺たち傭兵の間では一般的な大きさだ。俺の使っている物はその中でも一番いいやつだから、性能面については安心してほしい」
「狭い宇宙船の中だと、やっぱりスペースの問題があるわね」
フムフムとうなずきながら、せっかくなので一度、この装置を使ってみたい衝動に駆られるレミーリア。ギリアムの許可をもらい、装置の中に横たわった。
カプセルの蓋を閉めることはなかったが、閉所恐怖症の人には不向きだなと思う。もちろんレミーリアは閉所恐怖症ではないので、問題はなかった。
「貴重な体験だったわ」
「そうか。姫さんが満足したようで何よりだ。次はシャワールームとトイレ、それからトレーニングルームだな。それと、ランドリーもそこにあるな。どれも同じ場所にある。こっちだ」
医務室からほんの数歩のところにそれらはあった。トレーニング終わりに、すぐにシャワールームへ行けるようになっている。シャワールームとトイレは別である。
他に人を乗せる予定はなかったが、念のため別にしておいてよかった。あのときの決断をギリアムは内心でほめていた。
「いい意味でコンパクトね。トレーニングルームは私も使った方がいいのかしら?」
「その方がいい。バロン公爵のところまで行くには数日かかる。その間、途中でどこかのコロニーに立ち寄る予定はない。運動不足になるぞ」
「確かにギルの言うとおりね。食べて寝るだけの生活にはならないようにしなきゃ」
シャワールームとトイレ、トレーニングルーム、ランドリーの使い方を一通り教えたところで、次の場所へと向かう。
二人が向かったのは船長室である。この船の中で、一番広い面積を占めていた。
「ここが俺の使っている部屋だ。姫さんがくることはないだろうけど、一応、案内しておく」
「ここがギルの部屋……たくさん武器が飾ってあるわね?」
「……趣味と実用を兼ねている。仕事によっては武器を使い分ける必要があるからな。エネルギーパックを抜いているとはいえ、勝手に触るんじゃないぞ」
「もちろん分かっているわよ。……射撃訓練とかもできるのかしら?」
様々な種類のレーザーガンを目の前で見て、自分を抑えきれなくなったレミーリア。活発な女の子であるレミーリアは、当然、レーザーガンに憧れていたのである。
しかし、レミーリアは銀河帝国のお姫様。レーザーガンを撃たせてもらうことはできなかった。
だが、今ならその願いがかないそうな気がする。レミーリアはここぞとばかりに、上目遣いでギリアムの顔色をうかがった。
一方のギリアムは、レミーリアが退屈するだろうことは予測できたので、暇を持て余すくらいなら、そのくらいはいいか、と軽く考えていた。
「もちろんできるぞ。興味があるならやってみるといい」
「やるやる! 約束だからね、ギル!」




