第7話 ギリアムとレミーリア
ギリアムの乗る船は次の敵船に追いついた。そして先ほどと同じようにレーザーキャノンを発射して、難なく撃破する。残すは指揮官が乗っていると思われる船だけである。
そしてすぐにその船に追いついた。
『ダメです、振り払えません!』
『ええい、どうしてこうなった! 後方のタレットは攻撃していないのか!?』
『攻撃していますが、回避されていて、ほとんど当たりません! 当たったとしても、シールドによってすべて無効化されています!』
『逃げ続ければ、あの船もエネルギー切れを起こすはずだ。それまで踏ん張れ!』
『シールドが削られています! 長くは保ちませんよ!』
ピッタリと敵船の後ろに張りついたギリアムは、容赦なく、上部と下部にある半天型レーザー砲を容赦なく浴びせた。
いくつもの光線がシールドに弾かれて、赤い閃光を放つ。
『マイロード、ミサイルを使った方が早いと進言します』
「確かにそうだが、途中で補給できるか分からないからな。現段階ではできるだけ消耗を避けたい」
『了解です。マイロード』
間違いなく、共和国軍はギリアムの船を迷うことなく追いかけてきた。
学園内でも、コロニー内でも、警報などは一切鳴らなかった。おそらくだれにも気がつかれていなかったはずだ。それにも関わらずにである。
こちらの動きが共和国に読まれているとすれば、途中でコロニーに立ち寄るのは悪手でしかない。
「さすがは共和国軍の最新鋭の宇宙船なだけはある。なかなかしぶといな」
『そう言いつつ、敵船のデータを収集しているだけですよね、マイロード?』
HGがとてもいい声で聞いて来た。ギリアムが本気で敵船を落とすつもりならば、船首についている二本のレーザーキャノンを使うはずである。
だが、今のところ、それを使う素振りはなかった。
「いいデータは取れたか、HG?」
『もちろんです。いい値段で売れますよ』
「それじゃ、終わりにしよう」
「ずいぶんと余裕があるのね。さすがはブラックリーパーだわ」
ギリアムとHGのやり取りを聞いてあきれるレミーリア。先ほどまでの固くなっていた体も、この状況に慣れてきたのか、いくらか力が抜けてきた。
この船の中で、一人だけ怖がっている自分が、なんだか恥ずかしい。
レーザーキャノンがターゲットをロックする。すでにシールドがボロボロになっている敵船がそれを食らえばひとたまりもない。
逃げ回る敵船から少し距離を取る。そして緑色のレーザーを二本発射すると同時に、船首を上に向けた。
前方で爆発が起こる。それをきれいに回避したところで、ギリアムの船はボイドスペースへと突入した。
船が一気に加速して、点だった星々が流れ星になり、後方へと線を引きながら流れていく。
「ようやく一息つけそうだ。そういえば、自己紹介がまだだったな。この宇宙船、ハイペリオンの船長、キャプテン・ギリアムだ。よろしく、姫さん」
「レミーリアよ。レミーリア・グランガレオン。私のことはレミーって呼んでちょうだい。ギル」
「はいはい、分かったよ、姫さん」
「全然、分かってない」
レミーリアがフグみたいに膨れた。ギリアムはシートベルトを外すと、ヘルメットを取った。
キッチリと整えられた、清潔感のある短めの髪に、手入れの行き届いた顔。それを見たレミーリアは目を見開いた。そして体に電撃が走ったような気がした。
ドストライクだったからである。
「あー、ところで姫さん」
「な、何かしら」
「今すぐ全部脱げ」
「え」
レミーリアが両腕で自分の胸を隠した。その大きな胸がほんの少しだけ小さくなったような気がした。
「いやー、すまない、すまない。言葉足らずだったな」
『マイロード、セクハラです。訴えますよ?』
船内にある食堂へやって来たギリアムは、テーブル席に座るレミーリアの前に座った。
「本当にそんなつもりはなかったんだ。許してほしい。これは姫さんに返しておく」
そう言ってギリアムは一枚のカードをレミーリアへ差し出す。そしてもう片方の手に持っていた、ストローで吸い上げるタイプの栄養補給用ドリンクを飲み始めた。
「……この学生証に発信器がついてたの?」
手元に戻ってきた、カード型の学生証をマジマジと見つめ、裏表を確認するレミーリア。
どこにそんな機能がついていたのか、サッパリ分からなかった。友達が持っている学生証と、見た目はまったく同じような気がする。
「おそらくだが、学園側がつけていたものだろう。すべての学生証に備わっている機能だと、俺は思っている。学園に通う生徒が行方不明にでもなったら、大変だろうからな」
「なるほどね。確かにそうだわ。アルバート通商連合は中立国家を宣言している。そこに通う生徒に何かあれば、中立の立場だと言っても、それが通用しなくなるかもしれないわね。え、それじゃ」
レミーリアが顔を上げ、正面に座っているギリアムを見た。ギリアムはレミーリアと目を合わせることなく、吸い込んでいた栄養補給用ドリンクを下ろす。
「どうやら姫さんの情報が共和国へ売られたみたいだな。発信器のコードと共に」
「だからすぐに私たちを追いかけてきたのね。だれよ、私の情報を売ったやつ。まあ、いいわ。こうして無事なのだから、許してあげる」
「姫さんはずいぶんと心が広いな」
普通なら怒りそうなものなのだが大したものだ。ギリアムはレミーリアの評価を改めた。
反撃することで、銀河帝国と通商連合との争いに発展することを恐れたのだろう。冷静な判断だ。自分が同じ年齢のころなら、殴り込みに行っていたはずだ。
そうギリアムが思う一方で、レミーリアはただ単に、ギルに会えたことを感謝していた。
誘拐事件がなければ、ギルに会うこともなく、退屈な人生が待っていたはずである。そしてゆくゆくは、どこのだれかも分からない男と、結婚することになっていただろう。
「寒いのか? HG、空調はどうなってる? すぐに毛布を持ってくる」
「あ……う、うん、ありがと」
もう一つの未来を想像して、思わず震えたレミーリア。そうとも知らずに、ギリアムは部屋へと毛布を取りに行った。
今回の救出作戦を引き受けるにあたり、ハイペリオンの船員室には必要になりそうなものをそろえてある。それがさっそく役に立った。
船員室は元々が二人で使うことを想定しており、それを一人で使うのであれば、船長室と同じくらいの広さがある。お姫様が使うとしては、ギリギリセーフだろうというのがHGの見立てだ。
だが、そもそもレミーリアは部屋の広さなど気にしないタイプだった。それよりも、自由を束縛されることを嫌うタイプなのである。




