第6話 宇宙戦
「ちょ、ちょっと、危ないじゃない! 何やってるの!?」
「ちょっとした目くらましだ。もしかすると、相手の力量が分かるかもしれない。それよりも、口を開くなと言っただろう?」
「そんなこと言われても……きゃあ!」
後方から飛んで来た赤色の閃光にレミーリアがすくみあがる。命中はしていないが、後ろから打たれるのは心臓に悪い。
「大丈夫だ。この宇宙船にはシールドがついている。どうやら姫さんを生け捕りにしたいみたいだな。なめられたものだ。あのレーザーなら、何十発と当たらなければ、この船のシールドは破壊できない」
「そ、そうかもしれないけど……ひゃっ!」
ギリギリの距離でギリアムが小惑星を回避する。
そのとき、追いかけてくる敵船が、先ほど破壊した小惑星の付近で速度を少しだけ落とした。それはもちろん、砕け散って散乱した小惑星の破片を避けるためである。
それを確認したギリアムはすでに相手の力量を見切っていた。
それなりの手慣れではあるが、自分の相手にはならない。問題は、隣に座っているレミーリアである。
ここからは相手の後ろ側に回り込むために、急速旋回する必要がある。しかも隠れながら、かつ、最短ルートを進む必要があるので、小惑星の表面スレスレを飛ぶ必要がある。
慣れない者には恐怖体験でしかないだろう。だが、このまま追いかけっこをするわけにもいかない。今のままだと、いつまでもボイドスペースへ突入することができない。その間に共和国の援軍がくると厄介だ。
「HG、盗聴開始」
『了解です。盗聴に成功しました』
「え? もう!?」
ギリアムは再度レーザーキャノンを発射し、目の前に迫る中型の小惑星を破壊する。それと同時に船の速度を上げ、近くにあった大きめの小惑星に急接近する。
「ちょ、ちょっと、ぶつかる、ぶつかっちゃうわ!」
「問題ない。計算どおりだ」
「計算どおりって……ちょ、近い、近い!」
「あー、お姫様、口を開くと、大変危険です」
「わ、分かっているけども!」
ついでとばかりに、船の上部と下部に、それぞれ二門ずつついている、四つの半天型レーザー砲を先ほど壊した小惑星の残骸に向けて連射する。
それにより、小惑星はさらに小さな破片となって飛び散った。
『クソッ! 目隠しのつもりか? こざかしい』
『隊長、回避する必要があります。このままの速度では無理です』
『ええい、少々シールドを消費しても構わん。速度を落とすな! あの船はこちらの船よりも速いぞ!』
『た、隊長、あの宇宙船の照合が完了しました。あの船は、ブラックリーパーの船です。ブラックリーパーのハイペリオンです!』
『なんだと!?』
明らかに動揺する声がハイペリオンのコクピットに響いた。
ギリアムは傭兵ギルドに所属しているので、所有する宇宙船についても登録している。もちろん中のデータはシークレットである。
「どうやら敵さんは驚いているみたいだな。盗聴されているとも知らずに。見ろ、陣形が崩れてる。速度もバラバラだな。よほどびっくりしたらしい」
「何がどうなっているのか、全然、分からないし、ブラックリーパーの名前を聞いて、びっくりしない方がおかしい。それからこんな速度で地表スレスレを飛ぶのは頭がどうかしてる」
「なかなか刺激的だろう?」
「いかれてるわ」
レミーリアは現実逃避した。これは悪い夢。目が覚めれば、またいつもの退屈な日常が続くはず。
だが、体にかかる遠心力も、目の前をものすごい速さで通過する岩の破片も、とても夢には思えない。
『マイロード、少しは速度を落とした方がよいのではないですか? プリンセスの心拍数が上がっています。恐怖していると断言します』
「却下だ。姫さんには悪いが、チャンスを逃すのは俺の好みじゃない」
『そうでしたね。マイロードは胸とお尻の大きな女性が好みでしたね』
「……そうなの?」
「後ろから追いついたぞ。やつら、なかなかいいケツをしてるじゃないか」
「ああ、なるほど。そういうことね」
大きな小惑星をグルリと周り、共和国軍の後ろへ飛び出した。
共和国軍は速度を落としたり、シールドの出力を上げて無理やり小惑星帯を通過したりと、足並みが乱れてる。
もちろんそれを見逃すギリアムではない。
『た、隊長! いつの間にかハイペリオンが、う、後ろに!』
『バカな……どうやって回り込んだんだ!? レーダー、何を見ていた!』
『小惑星の欠片が邪魔をして、発見が遅れました!』
『ええい! 反転だ、反転しろ!』
『無理です! もうすぐ後ろまで来ています!』
にわかにハイペリオンのコクピット内が騒がしくなった。
それを聞きながら、ギリアムはさらに船を加速させる。そして一番遅れている敵船に照準を定めた。
ハイペリオンの船首についている、二本のレーザーキャノンが、わずかにその位置を微調整する。
そして緑色の光線が二本同時に、二回、発射された。それは敵船に命中し、敵船のシールドが緑色のひときわひ明るい光を放つ。敵船がグラリと傾き、速度が落ちた。
『シ、シールドがはがされたぞ!?』
『バカな!? なんてパワーだ……』
『クソッ、エンジンが一つやられた!』
混乱する声をよそに、加速したハイペリオンが敵船へ迫る。
ハイペリオンの下部にある、二つの半天型レーザー砲が敵船に狙いを定めた。そしてすれ違いざまに、何本もの光線を浴びせる。
後方で敵船が爆発四散するのを確認することもなく、ギリアムは次に狙いを定め、船を動かす。
青い顔をしたレミーリアが、正面のモニターにくぎづけになっていた。
「運がよければ、銀河帝国の星系軍に回収されるさ。ブラックボックスと一緒にな」
「あなたにとっては、これは日常的なことなのよね?」
「まあ、そうだな。だが普段はだれにも見つからないように動いているし、こんなふうに軍用の宇宙船と戦うことなんてそうそうないぞ」
「……それって、私のせいよね?」
「気にするな。これも仕事だ」
「仕事……ね」




