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レミーリア姫の黒騎士  作者: えながゆうき


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第5話 追っ手

 時折通る人からの視線を避けつつ、ギリアムとレミーリアは整備用ハッチのある区画までやって来た。あとは宇宙船へ戻るだけである。

 再度振り返り、つけられていないかをギリアムが確認した。追っ手はいない。


「この先に船がある」

「ここを進むの? なんだか汚いんだけど」

「大丈夫だ。気になるなら息を止めて進めばいい」

「そんなことをしたら死んじゃうわよ。私にもあなたみたいなヘルメットがあればよかったのに」

「すまない。準備するのを忘れていた。次の機会があれば用意しよう」

「……ないといいわね」


 レミーリアは両手を上げた。こんな脱出劇はもうこりごりである。縄ばしごを下りるという恐怖体験は、もう二度とやりたくない。

 ギリアムに押されつつ、整備用通路を進む。いくつかの区画を抜けて、コロニーの外縁部までやって来た。この辺りになるとさすがにだれもいない。それだけに、通路に転がるゴミの量も増えてきた。ゴミに気を取られ、バランスを崩したレミーリアを補助しつつ、整備用ハッチへと向かう。


「ねえ、このままだと宇宙空間に放り出されることになると思うんだけど?」

「大丈夫だ。俺の宇宙船とハッチとの間はしっかりと非常用チューブでつないでいる」

「宇宙船から宇宙船へ、緊急脱出するときに使うチューブのことよね? 初めて使うんだけど」


 それがどのようなものであるかは知っているが、レミーリアからすると、それはとても頼りない物に見えた。


「怖いんだったら目をつぶっておけ。俺が宇宙船まで引っ張る」

「ちょっと不安だし怖いけど、目をつぶるほどではないわ。そうよね、緊急脱出で使うくらいだから、簡単に破れたりしないわよね」

「何度も利用したことはあるが、一度も破れたことはない。再利用はできないけどな」


 目的地のハッチが見えてきたところで、ギリアムは近距離通信回路を開く。すぐに返事が戻ってきた。


『こちらHG』

「HG、船内の気圧は大丈夫か?」

『問題ありません。ハッチから船内まで、問題なく移動できます』

「今、ハッチの前にいる。すぐにそちらへ移動する。エンジンを起動していてくれ」

『了解です』


 ハッチの状態を確認し、ギリアムはレミーリアを引き寄せた。ここを開ければ、目の前は非常用チューブである。


「バロン公爵のところへ送り届けるまでの間、少し窮屈な思いをさせるかもしれない。そのときは許してほしい」

「分かったわ。……ねえ、今、だれと話していたの?」

「宇宙船に乗り移ったらすぐに紹介する。行くぞ」


 ハッチを開き、地面を蹴り、レミーリアを引っ張りながら宇宙船へ飛び込んだ。さすがに非常用チューブの中は無重力である。

 無事に宇宙船へ乗り込むことができたギリアムとレミーリアは、そのままコクピットまで移動する。

 ここはまだ危険地帯だ。だれにも気づかれないうちに、急いで移動する必要があった。


『ようこそ、プリンセス。歓迎します』

「HGだ」

「なるほど、人工知能と話していたのね。てっきりだれか他にも人が乗っているかと思ったわ」

『私にもプリンセスのように魅力的なメタルボディがあればよかったのですが、マイロードが買ってくれないのですよ』

「必要ないだろ、そんなもん」

『ほらね?』

「……仲がいいのね」


 レミーリアの目が細くなった。人工知能はごく当たり前に使われている存在ではあるが、ここまで自由にしゃべる人工知能はそうはいない。基本的には指示したことしか話さないのだ。


「そこに座ってくれ。オペレーターシートだ。何があるか分からないから、念のためシートベルトをしっかりと着用しておくように」

「それって、襲われる可能性があるってこと?」

「まずないと思うが、念のためだ」


 そう話しながら、ギリアムは操縦席に座る。エンジンはすでにHGが起動してくれていたので、いつでも飛び立てる状態だ。

 ギリアムは非常用チューブを切り離し、宇宙船のハッチを閉めた。すぐに宇宙船がゆっくりと移動を開始し、ラピスⅠコロニーの外壁から離脱する。


 完全に離れたところで、宇宙船はそのスピードを上げていく。それに応じて、バックモニターに映るラピスⅠコロニーがだんだんと小さくなっていった。


「まさかこんな形で学園を去ることになるとは思わなかったわ。友達にあいさつもできなかったし」

「つけられてる」

「え?」


 レミーリアが正面モニターに映ったレーダーを見る。確かに三つの赤い点が、後ろから追いかけて来ているように見えた。思わずレミーリアが身構える。

 その赤い点を見て、もしかして夢ではないかと思っていた感覚が現実になった。

 モニターの画面が切り替わる。拡大された画面に映っていたのは、宙賊が使うような宇宙船の姿だった。


「これって、宙賊?」

「違うな。宙賊の宇宙船が俺の宇宙船と同じ速度を出せるはずがない。見た目は宙賊の宇宙船に見えるが、中身は別物だろう」

「別物」

「おそらく、共和国の軍用の宇宙船だな。それも、最新式の軍用艦だろう」


 そうでなければ、ギリアムの宇宙船に追いすがることはできない。

 このまま逃げ続けるのは得策でないと判断したギリアムは、すぐに頭を切り替えた。倒すしかない。


 相手は交代しながら宇宙船を動かすことができるが、こちらはギリアムしか動かせないのだ。HGはあくまでも操縦のサポートしかできない。HGの言う、「魅力的なメタルボディ」があれば、話は別だが。


「どうするの?」

「共和国に恨みはないが仕事なんでな。破壊する。HG、近くにある小惑星帯を探してくれ」

『二時方向にあります』


 進行方向を変えると、ギリアムは小惑星帯へ直進した。後ろから追いかけてくる宇宙船も迷わず同じ方向へ舵を取る。

 たまたまではなく、間違いなく、ギリアムの宇宙船を追いかけてきていることが判明した。


「姫さん、しっかりとシートベルトはつけたな?」

「も、もちろんよ」

「それじゃ、俺がいいと言うまで、口を開くんじゃないぞ。俺の操縦は荒いからな」


 ギリアムはそう言うと、宇宙船の船首についている二本のレーザーキャノンを発射した。

 前方にある小惑星を、緑色の閃光が破壊する。その破片をかいくぐるように、ギリアムの宇宙船が全速力で通り抜けた。

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