第10話 軍用レーション
事前にHGから、レミーリアがじゃじゃ馬姫であることは聞いていた。だが、まさかここまでとはギリアムも思っていなかった。
皇帝陛下がレミーリアを外に出したのは、レミーリアを制御することができなかったからではないだろうか。そんな疑惑がギリアムの中に浮かんだ。
「ひとまず、食事にしよう。姫さんはまだ夕食がまだだろう?」
「ええ、そうね。そういえば、これから食べるところだったわ」
「ならちょうどいい。俺もこれから食べるところだ。食料が置いてある場所を教えておく」
コックピットから食堂へと移動したギリアムは、キッチンのコンテナの中に入れてある、軍用レーションを取り出した。
レミーリアにはそれに見覚えがあった。夢にまで見た、長期保存用の食料である。ホロ小説の中で、よく食べられていたものである。
「すごいわ、そんなものまであるのね!」
「……そんなに目を輝かせるほどの物でもないけどな。ちなみにこれが傭兵の一般的な食事だ。というか、この船にはこの軍用レーションしかない。もちろん、色んな種類があるがね」
「一度、食べてみたかったのよね」
興味津々な様子のレミーリアに対して、もはや食べ飽きているギリアムは苦笑いを浮かべた。
どこまでその笑顔が続くのか。ちょっと見物ではあるな。
最近は色んな料理を作ってくれる、自動調理器具が広まりつつある。そろそろそれに乗り換えるべきかと、ギリアムは考えていた。
今回の救出作戦の報酬なら、最新型の自動調理器具を購入しても、余裕でお釣りがくるだろう。
テーブルに向かい合って座り、軍用レーションを開ける。数年間の保存が利くように、味は濃い物が多い。そしてクラッカー系の物が必ず入っていた。
もちろんデザートもある。今回はようかんのようである。
「ギルのと私のでは中身が違うみたいね」
「種類だけは豊富だからな。軍だけでなく、宙賊も似たような物を食べているはずだ」
「そう考えると、ちょっと微妙ね。これはソーセージかしら? そのままかじりつくには大きすぎるわね」
「待ってろ。すぐにナイフとフォークを持ってくる。すまないな。普段、使うことがないから、忘れていた」
「なかなかワイルドな食べ方をするのね」
ギリアムが持ってきたナイフとフォークを使い、レミーリアがソーセージっぽい何かと、チーズっぽい何かを食べる。
長期保存できるように加工しているため、本来の姿とはずいぶんと違う物になっていた。
「ちょっと味つけが濃いけど、思ったよりもおいしいわね」
「初めて食べるとそうだろうな。色んな種類があるから最初はそうでもないが、そのうち飽きてくるぞ」
「長く傭兵をしているとそうなっちゃうのね。ギルは何歳から傭兵をやっているの?」
ブラックリーパーと呼ばれている、ギリアムの過去を知る者は少ない。ギリアムがあまり自分の過去を話さない性格であり、こうしてだれかと話ながら食事をすることが珍しいからである。
「十五歳のころからだな。あのころは生きるだけでギリギリだった」
「私よりも若いときから傭兵だったんだ。それなら強くもなるわね。それから何年くらい傭兵をやってるの?」
「三十年くらいだな。そう考えると、よく生き残ったもんだ」
ギリアムが真空パックされていた、サラダチキンのような物をかじる。懐かしい味がした。あのころは確かに仲間がいた。
そうとも知らず、レミーリアは質問を続ける。
「あと何年くらい傭兵を続けるつもりなの?」
「五年か、十年くらいが限界だろうな。肉体的にも、精神的にも。それまでに、どこか定住先を見つけなければならないか」
これまで、引退してからのことなど、考えたことがなかったギリアム。今回、レミーリアに尋ねられて、初めてその課題にぶつかった。
ギリアムの手が止まる。金ならそこそこある。問題はどこに住むかだ。
「ギリアムほどの実力なら、傭兵ギルドの職員にでもなれるんじゃないの?」
「俺には向いていないと思うぞ? デスクワークなんて、俺の性分じゃない」
「そんなの、やってみないと分からないわよ」
傭兵ギルドの職員になれば、傭兵を引退したあとでも、安定した収入を得ることができるだろう。
実際に、傭兵を引退した者が傭兵ギルドに就職することは多い。だが、ギリアムはそれをするつもりはなかった。
老後くらいはゆっくりと生活したい。ささやかなギリアムの夢である。
食事のあとはそれぞれで自由に過ごすことになる。ルートを変更し、多少は移動距離が短くなったとはいえ、それでも数日かかるのだ。お互いに気疲れしていては、とても耐えられないだろう。
周囲は真っ暗闇のため、船内の明かりだけが昼と夜を分けていた。船内の明かりと共に起きて、消灯と共に眠りにつく。そんな生活が続くことになるのだ。
翌日、レミーリアはギリアムの部屋にいた。昨日話した、射撃訓練を受けるためである。
「すごい、部屋の中でもできる射撃訓練のシミュレーションがあるのね」
「動けないから、それなりの訓練しかできないな。本来なら、遮蔽物に隠れてから撃つのが基本だ」
そう言いながら、射撃訓練用の装置を操作し、初心者用プログラムを立ち上げる。レミーリアが持っているのは、訓練用のレーザーガンである。当然、本物のレーザーが発射されることはない。それでもレミーリアは十分だった。
「まずはレーザーガンの持ち方から。こうやって握って、肩の力を抜いてだな……」
『マイロード、セクハラには気をつけてくださいね』
「分かってる。HGはいい感じにプログラムを変更してくれ」
『お任せください』




