第20話 別れ
共和国軍の将軍、ファルケンが討たれたというニュースは、瞬く間に銀河帝国内だけでなく、周辺の国々へと伝わった。
悪名高きファルケン将軍が亡くなったことを、多くの人たちが祝福する。
その中に、ゴードンの姿があった。
「やった、やったぞ! 我が友ギリアムが、やってくれた! 見ているか、リリナ、アーサー、ヘルベル! お前たちの仇をギルが取ってくれたぞ! まさか生きている間にこんな日がくるだなんて。なんて今日はいい日なんだ」
泣きながらゴードンは酒を飲む。この場にギルがいれば、浴びるほど酒を飲ませたことだろう。
妻と子供を「コロニーの事故」で失ったゴードンは、共和国を離れ、グランガレオン銀河帝国へと移り住んでいだ。
いつの日か、妻と子供の仇を取るために。
数日後、銀河帝国の本国に一番近いコロニーにギリアムたちはいた。
レミーリアのことを表に出すのはよくないと思ったギリアムは、HGと画策し、秘密裏に送り届けることにしたのである。
もちろんそれには銀河帝国側も賛成だった。特に喜んだのが、現銀河帝国の皇帝である。
皇帝はバロン公爵が亡くなった件について当然、知っており、レミーリアが行方不明になっていることも知っていた。
そして先日、バロン公爵を襲撃したと思われる船団を発見し、調査したが、すでにそこにはレミーリアの姿はなかった。
激しく失望した皇帝は職務を休んだ。これまでそのようなことが一度もなかったため、家族や側近はとても心配した。
そこへ届いた知らせが、レミーリアが生きていて、現在、帝都へ向かっているという情報だった。それをコッソリと知らせたのは、人工知能の祖、マザーである。
「ここまで来たんだから、家まで寄って行けばいいのに」
「バカを言うな。本土の惑星に降りることができるのは、限られた人だけだ。俺はその中には入っていない」
「ギルなら隠れて入れそうな気がするけど……」
「無理に決まっているだろう? 惑星を管理しているAIに船が捕まって終わりだ。身動きさえ、取れなくなるだろう」
「そうなの、HG?」
『どうでしょうか?』
「そこはできないと言っておけ。その言い方だと、できるのかもしれないと誤解されるぞ。お、どうやらお迎えが来たみたいだな。降りるぞ」
こちらへ向かってくる集団を見つけて、船から降りる。その集団はすぐにレミーリアの姿を確認したようだ。先頭集団が足早にギリアムとレミーリアのところへとやって来た。
「レミーリア姫、よくぞご無事でした。これで皇帝陛下も仕事をしてくれるはずです。レミーリア姫を心配するあまり、部屋に閉じこもっておりましたので」
「え、そんなに心配してたの!? 私のことをかわいがってくれているとは思っていたけど」
「もちろんだ。心配していたに決まっている」
「お父様!」
集団の中から現れたのは皇帝陛下だった。城で待つことができなかった皇帝陛下は、周囲に命令してまでここまでやって来たのだ。
元気なレミーリアの姿を見たからなのだろう。皇帝陛下の顔が緩んだ。
「無事でよかった。だから他国への留学はダメだと言ったんだ」
「それは結果論でしょ? まさか売られることになるだなんて思わなかったわ。ちょっと、ギル、どこに行くつもり!」
無事にレミーリアが皇帝陛下のところへ戻ったところで、ギリアムは静かにその場を離れることにした。影のように去るギリアムを目ざとく見つけたのはレミーリアだけである。
「俺の仕事は終わった。元気で暮らせよ、姫さん。追加の報酬を期待しているぞ」
「ちょっと、ギル、これからお父様に紹介しようと思っていたのに!」
「大変ありがたい申し出だが、その必要はない」
そう言って船へとギリアムは戻って行った。不遜な態度ではあるが、それを止める者はいない。
この場でブラックリーパーと戦うことになれば、どれだけの被害が出るか分からないからである。
そもそも、ここへくる前に皇帝陛下から言われていた。何も手を出さず、口出しもしないようにと。
ギリアムはグランガレオン銀河帝国の市民ではないのだ。それならば、別に王族に対して、敬意を払う必要もない。建前上はそういうことになる。
まさか本当にそれをするとは、さすがの皇帝陛下でも思わなかったが。
ハイペリオンに戻ったギリアムは宇宙船をゆっくりと動かし、再び暗い闇へと飛び立った。
レミーリアはその姿が見えなくなるまで見守っていた。
「あれがウワサのブラックリーパーか。黒い死神と呼ばれるだけはあるな。敵には回したくない男だ」
「私にとっては黒騎士なんだけどな……」
ポツリ、とレミーリアがつぶやいた。
「何か言ったか?」
「なんでもない」




