第19話 脱出
曲がり角で待ち構えていた兵士たちを、スパークグレネードでまとめて処理し、後ろから現れた増援の眉間を残らず撃ち抜く。
そうして安全を確保したところで、レミーリアを誘導し通路を進む。ギリアムとレミーリアが通ったあとには、物を言わぬ兵下たちが転がっていた。
「思ったより少なくて助かったな」
「ギリアム、何かやったの?」
増援は打ち止めになったらしい。ギリアムはそう判断する。通路の前からも後ろからも、声も気配も感じない。
そのため、ギリアムとレミーリアにも話す余裕が出てきた。
「ああ、もちろんだ。この戦艦のメインエンジンとカタパルトデッキを爆破しておいた」
「さっきのあの揺れはそれだったのね。派手にやるじゃない」
揺れの原因と、兵士たちの焦りの原因を知り、感心するレミーリア。だれにも気づかれないように仕事をするだけが、ギリアムの本領ではなかったようである。
あえて派手に動いて、そちらへ注意が向いている間に仕事もするらしい。
「この戦艦に乗っているやつらは、俺たちよりもそっちを優先したらしい」
「でもおかしいわね。私をさらったあのクソ野郎なら、私の確保を最優先にしそうな気がするんだけど」
「残念だがそれは無理だな。そいつならもうこの世にはいない」
「……さすがはギルね」
ブラックリーパーという通り名は飾りではなかったようである。そのことを改めて実感するレミーリア。味方でよかったとつくづく思う。もし敵ならば、あのとき学園で出会った直後に、そこに転がっている兵士のように、眉間に穴が空いていたことだろう。
「こっちだ。この先に船がある」
「よく見つからなかったわね」
「俺の船はかくれんぼが得意だからな。それに、今はそれどころじゃないだろう」
「確かにそうね」
ギリアムは非常用チューブから船内にレミーリアを引き上げた。そしてすぐに非常用チューブを切り離し、ハイペリオンのハッチを閉める。
「コクピットまで走れ。ああ、その前に、着替えた方がいいか?」
「大丈夫よ、このままで問題ないわ」
「俺の操縦は荒いんだが……」
「そのことはよく知っているわ」
『お帰りなさいなさいませ、プリンセス。……おや? いつもより心拍数が高いような気がしますが』
「ただいま、HG。さっきまで走ってきたからね!」
レミーリアはコクピットに飛び込むと、オペレーターシートに座りシートベルトを着用する。ギリアムは操縦席に座ると、ハイペリオンの出力を上げた。
ここからは戦艦の周囲に展開している、ボロボロの軍艦から逃げるだけだ。まともな加速ができない敵船から逃れるのは、ギリアムにとって簡単なことだった。
「HG、帰りのルートを出してくれ」
『すでに準備しております。こちらに』
ピッとメインモニターが切り替わり、ルートが表示される。モニターには、戦艦の異変を感じて近づいてくる、敵船の姿が映し出されていた。
「ねえ、あいつらはどうするの? 私にとっては仇なんだけど」
「心配するな。すでに星系軍にはこの場所をリークしてある。すぐに駆けつけてくるはずだ。そうなりゃ全員、事情聴取をされたのちに、強制労働だな」
「うーん」
「我らが銀河帝国のために汗水垂らして働いてくれるんだ。それで許してやってくれ」
HGが示したルートに従って、ギリアムは宇宙船を静かに戦艦から離脱させる。宇宙の暗闇に紛れた黒い船は、そう簡単には見つからない。たとえ軍艦のレーダーに映ったとしても、軍艦との距離はまだ遠い。これから逃げ出すのには問題ない。
唯一、危険だと思われる戦艦も、今はそれどころではないらしい。
共和国軍の軍艦の間を器用にすり抜けて、ハイペリオンが加速する。そのとき、レーダーに新たに動く点が追加された。
『グランガレオン銀河帝国の星系軍が到着したようです』
「そうみたいだな。機密情報てんこ盛りだろうし、さぞかし喜んでくれることだろう」
「これで叔父様も報われてくれるといいんだけど……」
ドオン! という音と共に、ハイペリオンはボイドスペースに入り込んだ。あとはこのまま、レミーリアを本国まで送り届けるだけである。今回は途中での引き渡しをするつもりはない。そのため間違いなく、レミーリアは家まで届けられることになる。




