第21話 新たな依頼
傭兵ギルドの扉が開き、全身黒ずくめの男が入って来た。中にいた者たちの視線は自然とその男へと向けられた。
ブラックリーパー。
今ではその通り名を知らない者はいない。ブラックリーパーに狙われた者は命を失い、怒らせた者はスペースデブリになる。
やつには近づくな。それが傭兵たちの間での共通認識になっていた。
「ギルドマスターを呼んでくれ」
「連絡は受けております。最上階へどうぞ」
ギリアムは言われたとおりに奥のエレベーターから、最上階へと向かう。
指名依頼が来た。今度の依頼は抹殺指令である。ギリアムにとってはいつもの依頼ではあるのだが、わざわざ呼び出されるのが解せない。
これまでの依頼は、常にギルドカウンターで受けている。それなのになぜギルドマスターに呼び出されるのか。ターゲットに何か問題があるのだろうか?
まさか、前回の不手際をわびるなどということはないだろう。あのギルドマスターの性格からして。
前回の依頼料はすでに振り込まれている。ギリアムもそれで了承し、特に問題になるようなことはなかった。
もちろんグランガレオン銀河帝国からも、何かしらのコンタクトもない。そのためギリアムは問題なく、前回の依頼は完了したと思っている。
エレベーターが止まり、扉が開く。ギリアムは迷うことなく、ギルドマスターの部屋へと足を進めた。
半透明の自動ドアが開き、中の様子が見えてくる。
「ギルドマスター、また厄介な仕事じゃないだろう……なんでこんなところにいるんだ?」
「ギル! 会いたかったわ!」
歓喜の声と共に飛びついてきたのはレミーリアである。その後ろには、メイド服を着た、妙齢の女性が頭を下げている。
とても嫌な予感がギリアムの中に沸々と湧き上がる。
そして思い出す。ここのところ、なんだかHGが妙にウキウキとした様子だった。時々、鼻歌を歌うくらいに。感情を持たないはずの、汎用AIであるにもかかわらず。
「おい、ヒルダ、どうなっているんだ?」
「私よりも、本人に聞いた方が早いんじゃないの?」
「それはそうだ。姫さん、どうなっているんだ?」
レミーリアが離れる。そしてニンマリとギリアムに笑いかけた。
ここへくるのではなかった。今さらそのことに気がついたギリアムだがもう遅い。
「ほら、ギルが言っていたじゃない。追加の報酬を期待しているって」
「確かに、言った覚えは、ある」
「その追加の報酬よ!」
「……姫さんが?」
「そうよ!」
「そうよ、じゃないだろう!」
ギリアムは思わず頭を抱えた。それでいいのか皇帝陛下。自分の大事な娘をなんだと思っているのか。どうしてそんな許可を出したのか。女性が男の船に乗ることがどういうことを意味するのか、知らないのだろうか。
ギリアムは小一時間ほど、皇帝陛下を問い詰めたい衝動に駆られた。
もしかして、城から黙って逃げ出して来たのではないだろうか? そうなれば、ギリアムは銀河帝国のお尋ね者である。
「姫さん、ちゃんと許可はもらったんだよな?」
「もちろんよ。許してくれなかったら、二度と口を利いてあげないって言ったら、許してくれたわ」
「なんということを。皇帝陛下を脅すなよ」
そういえば、奥の手があるとかなんとか言っていたな。それがこれなのか。
娘を持つ父親とは、思ったよりも大変なのかもしれない。ギリアムは心の中で皇帝陛下の心痛を察した。そしてだれかに、自分の心痛を察してほしかった。
まさかこの年で子守をすることになるとは。人生、何があるか分からないものである。
「それで、そっちのメイドが姫さんの面倒を見るのか?」
「何を言っているのですか。私が面倒を見る対象には、もちろんマイロードも含まれてますよ」
「そのしゃべり方はまさか……」
「そうです。私はHGです。プリンセスが私のために、素敵なマテリアルボディを用意してくださいました。見てください。マイロードの好みに合わせたこの体を」
HGがその大きな胸部装甲を両手で持ち上げた。それはレミーリアよりも大きく、正直、目のやり場に困る代物だった。真っ黒なフルフェイスのヘルメットを装着しているため、だれにもギリアムの視線の先が分からなかったのは、思いがけない幸運と言えるだろう。
そしてヒルダはギリアムに白い目を向けた。
「へえ……そうなんだ。知らなかったわ、ギル」
「違うぞ、ヒルダ。HGが勝手にそう言っているだけだからな?」
「これでマイロードに夜のご奉仕をすることができます。デュフフ……」
「え」
「ちょっと待てHG。俺はそんなつもりはないぞ」
どこまで本気なのか分からないHGに困惑するギリアム。そしてそれを聞いて、危機感を覚えるレミーリア。ヒルダは眉間にピキピキと青筋を立てていた。
どうしてこうなった。ギリアムは今すぐこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。
「言っておくが、俺は足手まといを連れて行くつもりはないぞ」
「……それについてだけど、どうしてもレミーリア姫の力が必要なのよね」
「どういうことだ?」
ヒルダがコンソールを操作すると、正面のモニターに情報が映し出された。仮面を被った男だ。身につけている服から、グランガレオン銀河帝国の高官であることが分かる。
「あなたに依頼が来ているわ。このロベール卿よ。元銀河帝国の高官ね。今は裏で人身売買をしているわ」
「顔が分からないことには、さすがの俺でもどうにもならないぞ。今はこの仮面をつけてはいないのだろう?」
「ロベール卿の顔なら見たことがあるわ。謁見のときには、さすがに仮面を外す必要があるからね」
「なるほどな。……レミー、似顔絵は得意か?」
「任せてちょうだい! これでも宮廷画家の先生からほめられたくらいなんだから」
「それじゃ、この依頼は任せたわよ。吉報を待っているわ」
――fin
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少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
それではまたどこかで。
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