第17話 敵戦艦に侵入する
ボイドスペースから黒い宇宙船が飛び出した。すでにステルス機能とサーマル機能を有効にしており、よほどの高性能なレーダーでないと、感知できない状態になっている。
この手法はギリアムが考え出したものであり、現在のところこれができるのはハイペリオンだけである。
ステルス性能は高いのだが、もちろんその代償もある。
『現在、船内の温度はマイナス十五度。早急に暖める必要があると進言します』
「船外用のスーツを着ているから大丈夫だ。姫さんを連れて戻ってくるまでには暖めておいてくれ」
『むちゃくちゃな要望だと反論します』
「大丈夫だ、HGならやれる。俺は信じているぞ」
『……』
ゴードンから買った情報を元にボイド内を探していると、すぐに怪しげな船団を発見した。
宙賊の集まりだと思われるが、その中にやたら大きな宇宙船がある。損傷しているようで、現在は停止して修理中のようである。
それらの船団の周囲を回り、相手の状態を確認する。思っていたとおり、いや、思っていた以上に、戦いによる損傷が激しかったようだ。まともな状態で動いている宇宙船はない。
どの宇宙船も大なり小なり、被害を受けており、それらも修復中だった。
「これだけの損害を受けていたら、ファルケン将軍もさぞかし青くなっていることだろう」
『戦艦一、軍艦五。どれも動くので精一杯のようです』
「よーし、それじゃ、さっそく戦艦に張りつくとしよう。いつでも飛び立てる準備をしておけ」
『了解です』
ハイペリオンが音もなく戦艦の底部に張りついた。すぐにHGがハッキングを開始し、ハイペリオンが戦艦の一部であるように書き換えた。これでだれもコバンザメのようにハイペリオンが張りついていることに気づかない。
あとは脱出用のチューブを使って、艦内へ侵入するだけである。
『可能な限り、情報の妨害をします』
「任せた。少々派手に動くことになる。姫さんの場所はどこだ?」
『検索中……ここです』
「よしよし、騒ぎに乗じて姫さんが逃げ出してくれると、俺としてもやりやすいんだがな」
そう言い残して、ギリアムが脱出用のチューブの中へと消えていく。
『ご武運を、マイロード』
船内に侵入したギリアムは設備配管のある区画を通り、メインエンジンのある場所までやって来た。
現在は壊れたエンジンを修理中で、多くのエンジニアが慌ただしく動いている。
それを隠れながら観察しつつ、損傷を免れたエンジンに時限爆弾を仕掛けていく。無事なエンジンすべてにそれを設置したところで、再び配管のある区画へと戻った。
もちろんだれもギリアムの姿を見たものはいない。それどころではないからだ。
うまく爆弾を仕掛けたギリアムは、次にカタパルトデッキへと向かう。レミーリアを救出しても、ここから戦闘機が多数、出撃してきたら厄介である。ならば出てこないようにするのが一番だ。
ギリアムは床の上にいる者たちに気がつかれないように、細心の注意を払いながら、床の下に時限爆弾を仕掛けていく。さらに天井裏へ移動し、そこにも仕掛けておいた。
反対側のカタパルトデッキは、先日の戦闘で大きな被害を受けており、今は閉鎖されている。そこの修理よりも、エンジンの修理を最優先にしたようである。
今回の場合、レミーリアを連れて共和国まで戻ることができればいいので、正しい判断だと言えるだろう。レミーリアの助けが来なければ、の話だが。
予定どおりに爆弾を設置し終えたギリアムは、艦長室へと向かった。
この戦艦の所有者はファルケン将軍である。ならばファルケン将軍がいる確率が一番高いのは艦長室だろう。これはギリアムとHGが考えた上での結論である。
時には天井裏を、時には配管のある区画を通りながら、ギリアムは艦長室へと着実に、かつ、だれにも気がつかれることなく近づいた。
見張りの兵士の目をかいくぐり、ギリアムは艦長室にたどり着く。そこには今回の標的である、ファルケン将軍の姿があった。
音もなく天井から背後に降り立つと、レーザーガンを構えた。
空気が不自然に動いたことに違和感を抱いたのか、ファルケン将軍が振り向いた。
ギリアムのレーザーガンはすでにファルケン将軍の眉間を捉えている。
「な!? い、いつの間に、待て、だれに依頼された? 倍の金額を支払おう。だから」
「依頼者は俺だ。当然ながら依頼料など存在しない。存在しないものにいくらかけ算しても、俺を買収することはできない」
「ま」
ピュン、と小さな音と共に赤い閃光か走り、ターゲットが倒れた。ギリアムは二度、生命反応がないことを確認してから、来たときと同じように、天井裏へと戻って行った。
そのころ、監視室はパニック状態になっていた。ボスの部屋に何者かが侵入し、その直後、ボスが倒れた。その姿から、ブラックリーパーではないかという、憶測が飛び交った。
「急ぎボスの安否を確認しろ! それから侵入者を捕まえるんだ。警報を鳴らせ!」
「分かりました。すぐに……」
ドオンという鈍い音と共に、戦艦が揺れる。警報を鳴らすまでもなく、あちこちの異常を知らせる警報が鳴り始めた。
「今度は一体なんだ!?」
「エンジンルームから爆発音がしたそうです!」
「カタパルトデッキから、爆発と同時に火の手が上がっていると通報が入ってます!」
「ええい、これもブラックリーパーの仕業か! なんとしてでも見つけ出せ!」
監視室はさらに騒がしくなった。




