第16話 情報屋のゴードン
ボイドスペースを通り抜け、ギリアムは惑星セサミへとやって来た。銀河帝国の支配下にあるこの惑星には様々な有用な鉱物が眠っており、今も多様な採掘ロボットたちによって採掘が続いている。
銀河帝国の中心地からは離れたところにあるため、星系軍の目が隅々まで行き届いておらず、ならず者も多い星系である。
その中でも、ギリアムが向かっているスマイルコロニーは治安があまりよくない場所だた。
宇宙港にハイペリオンを着艦させると、HGにだれも入れないようにと指示を出し、コロニー内にある、一つの古びた商店街へと向かう。
そこは武骨な金属製の店舗が立ち並ぶ、薄暗い場所だった。ここでは武器はもちろんのこと、様々な機器や薬、情報までも買うことができた。
ギリアムはその中でも、かなり奥まった場所にある店へと向かう。
店にはギリアム以外はだれもおらず、奥のカウンターでは一人の男が、何に使うか分からないような機器に囲まれていた。
「ゴードン、情報を売ってほしい」
「ギルか。次はどんな情報が欲しいんだ?」
背が低く、口の周りにヒゲを生やした男が手元のタブレットから視線を上げる。そして丸い眼鏡をクイッと上げた。
情報屋のゴードン。裏の住人たちの間ではそれなりに有名な人物だ。
「ついこの間、バロン公爵家の戦艦が宙賊に襲われる事件があったはずだ」
「ああ、そういえばそんなこともあったな。宙賊が戦艦にケンカを売るとはな。よほどいい装備を持っていたのだろう。それとも、法外な金を積まれたか」
「いくら金を積まれても、宙賊の攻撃じゃ戦艦は落ちない」
そう言ってギリアムはゴードンの前に、金の入った袋を置いた。その音からして、かなり重いことがゴードンにも分かった。
袋をチラリと見たあと、ギリアムを再び見る。
「そうだろうな。どこのバカだ?」
「おそらく共和国のやつらだろう。ご丁寧に宙賊の宇宙船に擬態していたらしい」
「擬態か。まあそれはいいとして、よく銀河帝国内でそんな大それた行動を起こせたな」
「それをするだけの価値があったんだろう。連中がどこへ行ったか知らないか?」
ギリアムが知りたかったのはそれである。バロン公爵の戦艦を落としたあと、宙賊はどこかへと去った。生き残りの話によると、相手も相当な被害を受けているとのことだった。
共和国へ戻る前に、どこかで態勢を立て直しているだろう。ギリアムはそう予想していた。HGの意見も同じである。
態勢を立て直す前に、なんとしてでもやつらの船に近づきたい。
「今度は共和国相手か。ギルも忙しいな」
「手口からして、かの有名なファルケン将軍だろうな。ご苦労なことで」
「……」
「あいつは裏切りとだまし討ちが得意だからな。宙賊の偽装くらいするだろう。知っているか? あいつは自分の汚職がバレないようにするために、コロニー内に毒ガスを散布する男だ。宙賊を犯人に仕立て上げてな」
「よく知っている」
ゴードンの震える手が素早くタブレットをたたいた。店の中にある古いPCが、ブラウン管のモニターに、文字の羅列を並べていく。
黒い画面に、緑色の数字がビッシリと並んだ。その様子をギリアムは無言で見つめていた。
「おそらくこの辺りだろう。周囲に何もない、まさにボイドと言っていい空間だ。普通ならだれも訪れる者はいない。怪しげな船団が隠れるには、打って付けの場所だ」
「ありがとう。助かったぞ、ゴードン」
「なあに、礼などいらん。俺とお前とのつき合いだ。ギル、いいニュースを期待している」
「ああ、とびきりいいニュースを期待していてくれ」
ギリアムは軽く手を上げると、ゴードンの店をあとにする。その後ろ姿をゴードンが両手の拳を握って見送り続けていた。
船に戻ったギリアムは、先ほどゴードンから得られた情報をHGへ渡した。すぐにHGがその場所までの最短ルートを検出する。
『さすがはゴードン博士ですね。知っていなければ、この場所には到達できません』
「共和国のやつらは、前からこういった場所を見つけていたのだろうな。今回、バロン公爵の戦艦への奇襲が成功したのも、それが主な要因だろう」
宙賊に偽装していたとはいえ、戦艦を大破させることができるほどの戦力を、銀河帝国に知られずに、銀河帝国内に隠しておくのは難しい。あらかじめどこかのボイドに隠していたと考えるのが妥当である。
『早急に銀河帝国内のボイドを調べるべきだと提案します』
「俺に提案されても困るぞ、HG」
『もちろんです。銀河帝国に提案します』
「ずいぶんと規模がでかくなったな。俺とゴードンの名前は出すなよ」
『なぜですか? 銀河帝国の安全保障に関わる案件ですよ。報酬と名誉が与えられることでしょう』
「俺もゴードンも、銀河帝国に属するつもりがないからだよ」
『多額のお金と勲章と爵位がもらえるのにもったいない!』
声を大きくするHG。だが、二人の性格を知っているHGとしては、分かりきっていた答えである。それでもあえて聞いたのは、ギリアムに迷いがないかを確認するため。ギリアムの思いのままに生きてほしいというのがHGの考えである。
「さてと、それじゃ、姫さんの救出作戦を開始しますかね」
『白馬の王子様の出陣ですね』
「どっちかと言うと、黒船の死神だがな」
『似たようなものですよ』
「全然似てないと思うぞ」
HGは思う。レミーリアにとっては、きっとどちらも同じに違いない。




