第14話 ウワサどおりの人物
「行くぞ、姫さん」
「……うん」
「そんなにこの船がよかったのか? どう考えても、居心地はよくなかったはずだぞ。姫さんが泊まるような、高級ホテルほどの設備はないし、もっと言えば、学園にいたときよりも環境は悪かったはずだ」
「そんなことない」
「戦艦の設備はすごいらしいぞ? こうして公爵様が乗っているわけだし、王族だって乗ることもあるだろう」
ギリアムは船の内装にあまりお金をかけるタイプではなかった。むしろちょっと雑な方が、アウトロー感が出て、かっこいいとさえ思っている。
まさかそのアウトロー感がレミーリアの琴線に触れてしまったのか? レミーリアに変な趣味嗜好を与えてしまっていたとしたら、あとで苦情がくるかもしれない。
「ああ、もう、そんな顔をするんじゃない。そうだな、記念にこれを姫さんにあげよう」
そう言って、腰に差してあった、小さな金属製の筒をレミーリアに手渡した。
なんの変哲もない金属製の筒を見て、レミーリアが首をかしげる。
「何、これ?」
「これはな、レーザーカッターだ。こうして回すと、レーザーの刃が出る。取り扱いに気をつけるんだな」
レミーリアの手の上にあった筒をつまみ上げると、ギリアムが筒の下をくるりと回す。するとブオンという小さな音と共に赤い光が伸びた。刃は短いが、なんでも切れそうな輝きを放っている。
反対側に回すと、今度は音もなく赤い光が消えた。
『プリンセスにプレゼントするにはふさわしくないと思います。それよりも、マイロードのシャツの方が喜ばれると断言します』
「なんでだよ。姫さんにプレゼントできるほど、シャツの予備は持ってないぞ」
そう言いながら、再びレミーリアの手の上に、先ほどの筒を置く。レミーリアはそれを両手でグッと握りしめた。
「シャツの方がよかった。それも、着古したやつ」
「なんでだよ」
そのまま視線を上げないレミーリアをエスコートして船から下りると、バロン公爵が待っていた。レミーリアをバロン公爵の護衛に託すと、今回の救出作戦についての報告をする。
もちろんラピスⅠコロニーから脱出した直後に、共和国軍と思われる宇宙船に襲撃されたことも話しておく。
「共和国軍のことについては聞いている。ブラックボックスを回収した結果、間違いなかった。お手柄だな。報酬の追加がある。期待してくれていいぞ。すぐに手配しよう」
「それはありがたい話だ。ブラックボックスの解析は終わったのか?」
「いや、まだだ。貴重な情報が紛れ込んでいる可能性があるからな。研究施設へ運んで、慎重に調べることになった」
「内容によってはさらに追加の報酬も期待できそうだな」
「ハッハッハッハ、キミはウワサどおりの人物みたいだな。気に入ったよ」
「それはどうも」
ブラックボックスの解析が終われば、共和国が何を計画していたのかの一端が分かるかもしれない。
ギリアムにはあまり関係ないことではあるが、銀河帝国内で活動している時間も長くなってきた。そのため、少しは銀河帝国に愛着が湧いているのも確かである。
「レミーリアは長旅で疲れているだろう。すぐに部屋へ案内してやってくれ」
「分かりました」
使用人が頭を下げる。そのときになって、ようやくレミーリアが頭を上げ、ギリアムの顔を見た。
笑顔ではない。硬く、そして無表情だった。
「じゃあな、姫さん。仕事ならいつでも大歓迎だぞ」
「お世話になりました」
それ以上に言葉を交わすことなく、ギリアムとレミーリアは別れた。
一人戻ってきた船内は、慣れているはずなのに、どこか物足りなさを感じる。そんなことを思いつつ、ギリアムはエンジンの出力を上げ、船をカタパルトデッキから離脱させた。
戦艦からハイペリオンが飛び出し、そのまま暗い宇宙の深くへと飛び去っていった。




