第13話 レミーリアのお願い
ハイペリオンが再びボイドスペースへ入り、ワープ走行モードになった。目的地まではあと少しである。
船の操縦をHGに任せると、ギリアムは操縦席から立ち上がった。
「大丈夫か、姫さん?」
「大丈夫だけど、今回は本当に死ぬかと思ったわ」
「対処方法が分かれば、ミサイルくらいなんとも思わなくなるぞ?」
「そんなわけないと思うけど……ねえ、ギル」
先ほどのギリアムの戦いはすごかった。ホログラム映画よりもずっと迫力があって、正直、かっこいいとレミーリアは思っていた。
自分もあんなふうに宇宙船を自由自在に操ってみたい。いつか必ず、自分の船を手に入れたい。
「どうした? さすがに連続で救難信号をキャッチすることはないと思うが」
「そうじゃなくて、私に宇宙船の操縦方法を教えてくれない?」
「はあ? 姫さんがか? 姫さんが宇宙船を操縦する機会なんかないと思うが、まあいい。将来、何かの役に立つかもしれないからな」
ここまでの移動中、レミーリアが暇を持て余していることは知っていた。船内には娯楽と呼べるような物がほぼないのだ。
毎日のように射撃訓練をしていたものの、さすがに一日中はやっていない
ギリアムはと言えば、移動中は暇さえあれば操縦訓練か、射撃訓練、筋トレをしているので、暇になることはほぼなかった。
そのためギリアムはレミーリアの暇つぶしもかねて、船の操縦を教えることにした。
操縦席にレミーリアを座らせ、操縦室のモードを訓練用へと切り替える。
そこからはHGにも協力してもらい、船の基本的な動かし方から、宇宙港への離着陸の練習、基本的な武器の使い方、シールドの効率的な維持方法などを教えていく。
「姫さん、才能があるな」
「えへへ」
間近でギリアムの操縦を見ていたこともあり、レミーリアは短期間でほとんどの操縦方法を覚えてしまった。
もちろん、レミーリアの地頭がいいのも確かである。だがそれ以上にセンスがよかった。
「あとは経験を積めば、立派なパイロットになれるだろう」
「そしたら私も傭兵になれるかしら?」
「うーん、さすがにそれは無理なんじゃないのか? 姫さんの父親が許さないと思うぞ」
『その可能性は高いと思います。まず、止められるでしょう』
「それならそのときは『とっておきの手』を使うしかないわね」
真剣に悩み始めたレミーリアを見て、ギリアムは自分の判断ミスに気がついた。
レミーリアに宇宙船の操縦を教えるべきではなかった。だが、すでに後の祭りである。今さら、レミーリアの記憶を消すことなどできない。
レミーリアの「とっておきの手」が一体なんなのか気になりつつも、三人の旅が終わりを迎えつつあった。
最後のワープ走行を終えて、バロン公爵が駐在する宙域へと到着する。
バロン公爵と連絡を取り、指定された地点へと移動する。そこには戦艦を含む、何十隻もの軍艦が整然と並んでいた。
これを突破するのは、さすがのギリアムでも不可能に近い。もちろん手段を選ばなければ話は別だが。
「見えてきたぞ、姫さん。さすがは公爵だな。戦艦も比較的新しいもののようだ」
『一世代前の戦艦です。ジェネレーターも大きく、シールドも強固です。反応弾を使用しないと、シールドを突破するのは無理でしょう』
「おいおい、HG、俺は戦艦とやり合うつもりはないぞ」
なぜかギリアムが戦艦と戦うことを前提に話を進めているHG。それをギリアムが止める。
そのとき、ギリアムは異変に気がついた。先ほどから、レミーリアが何も反応しないのである。
いつもより静かなのが恐ろしい。また何か妙なことを言い出すのではないだろうか。
「ねえギル」
「なんだ、姫さん」
「このまま私を一緒に連れて行ってよ」
「は?」
「なんでもするわ。この船だって、操縦できるようになったし、射撃訓練だって、成果が出ているはずよ」
レミーリアの顔を見て、ギリアムはそれが冗談ではないことを悟った。だからと言って、それを受け入れるわけにはいかなかった。
これは傭兵ギルドの仕事だ。引き受けた仕事はキッチリとこなす。それがギリアムの流儀である。
「やめておけ。今回は姫さんを救出する仕事だったが、本来は人を消すのが俺の仕事だ。そのことは姫さんも知っているだろう?」
「もちろんよ。その覚悟もしているわ」
「残念だが、姫さんの手を汚すわけにはいかない。姫さんとはここでお別れだ」
「そう……」
うつむいたレミーリアをギリアムは励ますことができなかった。一緒に行こう、などとは言えない。そんな軽はずみで、レミーリアの輝く未来を閉ざすわけにはいかないのだ。
明るくてパワフルなレミーリアを、ギリアムはどこかまぶしく思っていた。自分がすでに捨ててしまったものを、レミーリアはたくさん持っていたのである。
無言のレミーリアを乗せた船は無事にバロン公爵の戦艦の格納庫へ着陸した。格納庫では慌ただしく船員が動き回っている。
だれが到着したのか知っているのだろう。そんなふうにギリアムには見えた。




